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Kozo Takei's Blog- 日本で最初のホラクラシー企業 ダイヤモンドメディア株式会社

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なぜアメリカのホラクラシーは失敗するのか

こんにちは。ダイヤモンドメディア武井です。

本当に久しぶりのブログ更新で恐縮しております。まあそんなにみんなが期待して見てるもんでも無いんだろうけど、でもたまにお会いする方に「ブログ読みました!」とか言って頂けると、嬉しさよりも先に申し訳なさが出てきてしまうので、そんな自分と戦いたいと思います。

このところホラクラシーというか弊社の取り組みについて、インタビュー記事に取り上げて頂くことや、講演の依頼を頂くことも増えてきました。講演については、本業ではないので積極的にやっている訳ではないのですが、我々のような取り組みが世に広がる一助になれば良いな、という気持ちで極力お受けしております。

ちなみに最近は、お名前は出せませんが、韓国の某大手企業から連絡を頂いたり、都心の某金融機関からオファーを頂いたりしていて、なんというか、今まではベンチャー周辺の方々や、人事・組織の専門家の方々だけにウケてたホラクラシーが、大手企業にも関心を持たれるというのは時代が変化してきている証拠だなと感じています。ますます確信が深まる。

色々な形の講演や勉強に参加させてもらっていますが、一方的に喋るだけではなく、半分以上の時間を質疑応答というか、頂いた質問に答えるというのが通例になってきました。やっぱり弊社の取り組みは他に例が無さすぎて、イメージしにくいようです。

多くの質問を頂くのですが、その中の一つに、「ザッポスなどが導入しているアメリカのホラクラシーと、ダイヤモンドメディアの実践しているホラクラシーは違うように見えるのですが、実際の所どうなんですか?」というモノがあります。今日はこれをご説明したいと思います。

なぜアメリカのホラクラシーは失敗するのか

すこし挑戦的なタイトルですみません。でもこれ、ホラクラシーがこれから世に広まっていく上で、絶対に知っておかなければいけないことなので、皆様に声を大にしてお伝えしたいのです。

ブライアン・ロバートソンが「ホラクラシー」という言葉を作ってから、10年近く経ちます。理不尽な権力のないフラットな組織というコンセプトは、おそらくほとんどすべての方々に「それ、いいじゃん!」という感じで共感頂いていると思います。アメリカでもそうです。

しかしながらホラクラシー組織は、アメリカでも300社ほどしか導入事例がなく、その殆どが1年以内に元のヒエラルキーな組織に戻ってしまっています。ザッポスの進捗具合が気になりますが、時折見かける記事などでは、やはり現実的な課題が多く残っているようです。

「なぜアメリカのホラクラシーは失敗するのか?」

手前味噌のようで大変恐縮なのですが、ダイヤモンドメディアではホラクラシーが超円滑に機能しております。ダイヤモンドメディアではなぜ(もちろん完璧などとは思いませんが暫定的にでも)ホラクラシーが上手くいっているのか。

「そんなこと言ったって、ダイヤモンドメディアは規模がちっちゃいじゃん!」と言われそうなので、先に防衛線を張っておくと、弊社は20数名という規模なので、たしかに小さいですが、IT企業なのでホラクラシーをシステムと経営オペレーションにまで落とし込んでいます。つまりスケーラビリティを確保しています。メンテナンサビリティもサステナビリティも確保しています。たぶん。

ようやく本題に入ります。 なぜアメリカのホラクラシーは失敗して、ダイヤモンドメディアのホラクラシーは上手くいくのか。

実は弊社、アメリカでブライアン・ロバートソンが作ったホラクラシーを参考にしていません。全く。というか彼がホラクラシーを始めたのよりも早く、弊社はこういった非管理型経営を始めました。むしろ参考にしたのはブラジルのセムコ社です。

ダイヤモンドメディアとアメリカのホラクラシーの違い

ブライアンが自身の書籍「ホラクラシー 役職をなくし生産性を上げるまったく新しい組織マネジメント」で言っていることは、要約すると「ルールを統治するボスを無くして、みんなでルールをマネジメントしよう、それならフェアでしょ?」ということに集約されます。

そのために、どういうプロセスでルールを編集するか、を取り決めた「ホラクラシー憲法」なるめちゃくちゃ厳しいルールが存在します。ルール管理のためのルールみたいな状態。ちょっとよくわからない。

個人的な意見を言うと、ブライアンのホラクラシーはコミュニケーションやミーティングを円滑にしようとする運営メソッドであり、それはそれで価値があると思うのですが、明確な欠点が3つあります。この3つを組織として担保しないと、ホラクラシーは実現できません。絶対に。

ホラクラシーとは組織全体が一体化すること。部分と全体が一体化すること。それは精神論ではなくて構造的な問題です。この3つが組織の中で実現されると、途端にホラクラシーが機能し始めます。では3つを露わにしてしまいましょう。

1. 情報の透明性が担保されていない

ホラクラシーを実現するためのファーストステップでもあり、最も重要と言っても過言ではないと思っています。それが情報の透明性。

人間のようなエゴを持つ社会性生物は、レントシーキングといって、個人の利益の最大化のために、ズルをします。最近は政治家の経費の不正利用などの不祥事が取り沙汰されていますが、これ、レントシーキング。でも実はこれ、個人のモラルの問題ではないのです。

人間は、ズルができる環境にいると、ズルをしてしまいます。節税っていうものもレントシーキングです。法律と抜け穴探しのイタチごっこ。これを繰り返すと、法律がどんどんガッチガチの厳しいものになっていって、真面目にやっている人も身動きが取りづらくなっていく。これ、組織の官僚化です。

ここで言うズルの定義とは、個人の利益を最大化させることによって、全体(会社や自治体や国)の利益を毀損してしまうことを指すのですが、つまり部分と全体の利害関係が不一致な状態が生まれてしまう。この利害関係を一致させるために何が必要か、というと情報の透明性なのです。

一個体の生物は、情報でつながっています。つなげると一つになります。そんな感じ。あ、でも透明化させる情報で重要なのが、「結果」ではなく「プロセス」の情報であるということ。上場企業には情報開示の義務がありますが、それでもなぜ不祥事が起きてしまうかというと、上場企業に課せられた情報開示義務は、すべて結果の情報だからです。

プロセスの情報を開示して、それに関与できる状況を作ると、部分と全体が一致します。この理屈の科学的根拠はここでは述べきれないので割愛しますが、様々な研究で立証されています。

アメリカのホラクラシーでは、情報の透明性の担保についてはほとんどノータッチです。「隠し事は良くないよ」くらいにしか扱っていません。だから失敗する。

はい、次。

2. 権力構造が残っている

アメリカのホラクラシーは、一見するとフェアに見えます。実際、今までのヒエラルキーよりもよっぽどフェアだと思います。しかしながらブライアンの作ったホラクラシーの仕組みには、権力が残っています。つまりボスがいるんですよ、結局のところ。

プロジェクト単位のチームをホラクラシー的に運用することは比較的容易です。しかしそのプロジェクトは、どこかの事業部の一部であったり、極論は会社の取り組みの一部ですので、それを管轄している誰かが残ってしまう、というのが アメリカのホラクラシーです。

これは既存の組織論でいうところの「権限委譲」なんですね。

そして権限委譲の大前提というのがあって、「権力を持っている人が、権力を持っていない人に、限定的に許可を与える」というもの。これは構造的な話で、個人の人望や人間力の話ではありません。

権力を持っている人と持っていない人、という前提の上に成り立っているシステムなので、つまりは権力構造が残っているんですよね。会社組織内における権力とは「決済権」と「人事権」の2つ。

これを手放さないことには、本当のフェアネスの実現なんてできるわけないですよね?誰かに生殺与奪権を握られたまま「好きにやっていいよ!」なんて言われても、できるわけないじゃないですか。ねえ?

アメリカは日本よりも人間関係がフレンドリーですが、ボスというものの権力は絶大です。部下を好きに首にできます。この権力を構造的に解消しないことにはホラクラシーは実現でないよね。構造的に、というのが重要。

はい、次。

3. 報酬制度が整っていない

これ、超重要なトピックです。僕の周りにも最近、ダイヤモンドメディア流のホラクラシーを導入された会社さんが増えました。NPOだったり株式会社だったり任意団体だったり。

ボランティアのような任意団体は、実は結構すんなりとホラクラシーが上手くいきます。でも他の組織はだいたい躓く。どこで躓くかというと、この報酬制度。

素晴らしい経営者の方々は、情報を透明にしたり権力を手放すことに、ほとんど抵抗がないのですが(透明化と権力放棄が出来ない会社はホラクラシーは出来ません)、そんな彼らでも、この「報酬をどう決めるのか問題」で一番頭を悩ませているようです。勉強会や講演会でも一番質問の量が出るのがやっぱり報酬や給与の決め方のところ。

で、なぜこれが問題になるかというと、ヒエラルキー組織において給与を決めるという行為は、人事権に付随するからです。人事権とは個人の「報酬」と「業務」を決める権利です。でもホラクラシーではこの人事権を手放します。

じゃあ、誰が給料を決めるのよ?ってことになっちゃうんですよね(笑)だからボランティア団体だと問題化しない。金銭的報酬がそもそもないから。

色々なホラクラシー的な非管理型経営を実践している企業の経営者の方にお会いしてきましたが、手前味噌ながら、ダイヤモンドメディアの報酬制度のシステムが最も汎用的で完成されていると感じました。

もちろん円滑に機能している会社様も多くいるのですが、ビジネスモデルや企業規模、業種業界を超えて使えるシステムは、弊社の仕組みだけだと思います。

じゃあダイヤモンドメディアでは報酬(≒給与)がどうやって決まるのかと言えば、「相場」です。株式市場のような感じ。上司のような一個人が「誰々くんはがんばったから2万円アップ!」とか、360度評価のように「チームメンバーの誰々は評価A、誰々はB」みたいな個別評価は一切しません。

給与相場を整える。それだけです。

なぜ相場が大事かというと、全ての個人は「労働市場」という市場に晒されています。この労働市場における彼彼女の価値と、社内での報酬が乖離しすぎることは、絶対的によくありません。給与が高すぎるのもよくありません。

このように「相場で決まる報酬システム」を導入しないことにはホラクラシーは実現できません。権力を手放せないので。でもこれが一番導入が難しいかなぁ。

長くなってきたので、中途半端だけどそろそろブログ終わります。 最後に物申したいのは、組織や人間についての理解が薄い方は「ホラクラシーは一つの方法論であって、ヒエラルキーがいい場合もあるでしょ」という意見を言ったりするのですが、断言しておきます。世の中の企業は全て例外無くホラクラシーになっていきます。どのくらいの年月を掛けて、かは、僕の測れないところですが、絶対にこの組織形態がスタンダードになります。もしかすると30年後ぐらいには、社内において全員の給与を開示することが法律で義務化されるかもしれません。それくらい重要なことだと僕は考えています。

まあ、なので僕としては皆さんに是非ともホラクラシー組織を作っていってほしいのですが、ブライアンのホラクラシーをそのまま真似するのは止めたほうがいいよ、と。ダイヤモンドメディアのやり方のほうがうまくいくよ、と言いたい。

そして実践される際には、ぜひ僕におしえて欲しい!アドバイスできるかもしれないし、ビフォアアフターの新しい事例が生まれるかもしれないし、そこからまた、より良い組織が生まれていくかもしれない。

あと15年くらい掛かるかなぁ。ホラクラシーが一般化するの。

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