首や肩が痛くなったときに近所の整骨院に行くようになった。
揉んでもらうと普段からこりを自覚している場所だけでなく、意識していないところも意外と固まっていることに気付く。腕とか。
「今日はお休みですか?」
「そうですね(毎日休みみたいなものだけど)」
「普段はデスクワークですか?」
「まあそうですね(あまり働いてないけどインターネットをずっと見ています)」
「じゃあ目が疲れますよね。大変ですね」
「そうなんですよねえ」
「あ、このへんがかなりこってますねー」
「あたたたた」
「首からここまでは繋がってるのでここがこると首もこっちゃうんですよね」
「あたたたたたたた」
整骨院に行くたびに自分がいかに普段体をほったらかしにしていたかということに気付かされてしまう。つい自分はともすれば精神だけで生きているかのように勘違いしてしまうのだけど、自分の本体はこの朽ちて衰えて固まって痛んだりする肉体なんだよな。人生で何度もそのことを思い出しては忘れ思い出しては忘れしていて、自分は頭が悪いなと思う。
自分の肉体を大事にしている人は賢いと思っているので、毎日運動やストレッチを欠かさない人のことを尊敬してしまう。運動やストレッチ、やったほうがいいのはわかってるけどなんか気が進まなくてやる気がしないんだよな。だからこんなにこりをためてどうしようもなくなるまで放置してしまうのだけど。
大まかな傾向として、男性より女性のほうが自分の身体をちゃんと自覚している人が多いなと思う。それは女性のほうが月経などがあって自分の身体を自覚せざるを得ないことが多かったりとか、見た目に対する社会的な圧を受けることが男性よりも多いせいだったりするのだろうか。自分を含めて男は本当に馬鹿だから病気になったり中年になったりするまでいつまでも自分は体を持ったりしていないような気で生きていってしまう。本当にどうしようもないな。
三浦俊彦の『論理パラドクス』という本にこんな思考実験が載っている。
悪魔が言う。お前を今から史上最悪の拷問にかける。だけどその前にお情けとして、お前の心を記憶喪失にしてやる。そうしたら拷問を嫌だと感じる自分は消失してしまうのでいいだろう。何、心が消失するのは嫌だ? じゃあどこかの無関係の人間にお前の記憶や意識を丸ごとインストールしてやる。そうしたら心を失った肉体なんてあとはどうなってもいいだろう。そうだ、せっかくだからサービスとして、100人とか1000人とかにお前の心を丸ごとインストールしてやってもいい。自分の心を持った人間がそんなにたくさんいるならば、元の一つの体なんてどうなってもいいだろう?
こう言われてみると、それでもやっぱり嫌だな、と思う。そして、自分のアイデンティティの元となる本質というのは、心ではなく体なのかもしれない、と思う。だけどそれと同時に、こんな現実離れした思考実験を経由しないと体が大事だという当たり前のことも理解できないのか、という絶望的な気分になったりする。
自分が身体に対して自覚的になれないのは、今までに大きい病気や怪我をしたことがないからかもしれない。昔から体力がなくていつもだるいだるいと言っている人間だったのだけど、あまりに根性がなさすぎてすぐに休むせいか過労や病気で倒れたりしたことがない。スポーツやアウトドアなど体を大きく動かすこともやらないので怪我もしない。人生で一回も入院と骨折をしたことがなくて、それはちょっとコンプレックスでもある。人生の早い時期に大きな怪我や病気をした人はその体験によって身体の大切さというものを身に沁みて思い知って、その後の人生をより有意義に過ごせていたりするんじゃないのだろうか。そういうところでみんなは僕が知らない何かを学習しているような気がする。
自分に足りないのはそういう体験なのかもしれない。五体満足でいることを当たり前だと思いすぎだ。ちょっと一発、命にはかかわらないくらいの怪我や病気をして、体の大切さを思い知ったり死を意識したりしたほうがこの先よりよく生きられるんじゃないか。そういうイベントがそろそろ起きてもいいのかもしれないけれど、来るならあまり痛くない感じでお願いします。
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家を出て街に遊ぶ。
お金と仕事と家族がなくても、人生は続く。
東京のすみっこに猫2匹と住まう京大卒、元ニートの生き方。
世間で普通とされる暮らし方にうまく嵌まれない。
例えば会社に勤めること、家族を持つこと、近所、親戚付き合いをこなすこと。同じ家に何年も住み続けること。メールや郵便を溜めこまずに処理すること。特定のパートナーと何年も関係を続けること。
睡眠薬なしで毎晩同じ時間に眠って毎朝同じ時間に起きること。
だから既存の生き方や暮らし方は参考にならない。誰も知らない新しいやり方を探さないといけない。自分がその時いる場所によって考えることは変わるから、もっといろんな場所に行っていろんなものを見ないといけない。
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