Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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「嘘つきデマゴーグはなぜ信頼されるのか:正当性の危機に関する深い真実」Hahl, et al. 2018

Oliver Hahl, Minjae Kim and Ezra W. Zuckerman Sivan, 2018, "The Authentic Appeal of the Lying Demagogue: Proclaiming the Deeper Truth about Political Illegitimacy," American Sociological Review, Vol.83 No.1, pp.1-33.
なぜ嘘つきのデマゴーグを信頼する人がたくさんいるのか論じた論文。米国のトランプ大統領に代表されるように、あからさまな嘘をつく政治家が世論の支持をえることは珍しくない。Hahl, Kim and Zuckerman Sivan が大統領選の八日後に行ったネット調査によると、トランプ大統領に投票した者のうち、彼の言ったことが highly true だと答えたものは 5% しかおらず、彼が何かしらいい加減なことを言っていると認識している。それにもかかわらずトランプ投票者の 61.8% はトランプのことを highly authentic (本物、信頼できる)と考えている。嘘つきなのに信頼できるというのは矛盾しているように思えるが、Hahl らによれば、むしろ嘘つきだからこそ本物の政治家であり、信頼できるのだという。もちろん、嘘つきがどんな状況でも authentic だと認められるというわけではない。以下のような条件が整う必要がある。
  1. 正当性の危機がなければならない。Establishment と呼ばれるような政治エリートに対する強い不信と不支持がある程度多くの有権者のあいだにあるという大前提がある。
  2. さらに、Hahl らは明示していないが、 Establishment が嘘をつくという行為を正当な規範に対する違反だとはっきり認めていなければならない(日本ではこの条件が成り立つのか怪しい)。これらの状況がそろえば、嘘をつくという行為は、既存の秩序に対する挑戦であり、Establishment と自分はまったく違うというメタ・メッセージを遂行的に有権者に送ることができる。これを symbolic protest と Hahl らは呼んでいる。
  3. この場合の嘘は、誰でもちょっと調べればすぐに嘘だとわかるようなあからさまな嘘のほうがよい。嘘か本当かよくわからないような灰色の嘘の場合、聴衆はそれが symbolic protest なのかどうかよくわからず、Establishment に対する挑戦というメタ・メッセージが聴衆に届かないのである。
  4. 最後に、自分は何らかの意味で没落しつつあるような社会的カテゴリに属していると(少なくとも聴衆自身が)認識していることである。具体的には、政治エリートたちとは異なる集団に属しているか(代表性の危機 representation crisis )、あるいは政治エリートたちと同じ集団に属してはいるが、政治エリートが部外者たち (outsiders) をひいきしているような状況(権力切り下げの危機 power devaluation crisis )が想定されている。
Hahl らは明示していないが、これらは嘘つきデマゴーグが信頼できると思われるための必要条件ではなく、十分条件だと考えるべきだろう。これらの条件が整うと嘘は腐敗した政権に対する象徴的抗議であり、有権者の利益のための行為であり、彼女のやっていることは正しいとみなされるということである。それゆえ、表面的には嘘をついていても、より深いレベルでは信頼できるということになる、という理屈である。

この仮説が正しいかどうかを検証するために、ヴィネット調査による実験がなされている。データはオンライン調査で得たもので、架空の大学生の自治会長選挙の候補者に対する評価をたずねている。自治会長選挙では、大学当局の出したキャンパス内禁酒令への賛否が主要な論点となっており、現職と対立候補の新人が立候補している。現職は嘘をつかないが、対立候補はあからさまな嘘をついたうえに女性差別的発言までする、という設定になっている。実際には上述の代表性の危機と権力切り下げの危機に対応する二種類の調査がなされているのだが、いちじるしく煩雑になるので前者の代表性の危機についての調査だけ解説する。

調査ではまず回答者を Klee and Kandinsky test という方法で無作為に二つのグループ(現職と同じグループか違うグループか)にふりわけている。これはパーソナリティを調べるいくつかの質問をした後に、回答者に対して、「あなたは Q2 型のパーソナリティです」あるいは「 S2 型のパーソナリティです」と知らせるが、実際には回答とはまったく関係なくランダムに Q2 と S2 に割り振られる。そして現職の自治会長が Q2 型だと知らされる。これはすべの回答者に共通の手続きである。

調査票は4種類あり、正当性の危機があるかどうか × 現職と新人のどちらの評価を求められるか= 4種類ある。正当性の危機がある場合のシナリオでは、現職の自治会長が現在の地位を利用して私腹を肥やしている(ただし違法行為ではない)とされ、代表性の危機がないシナリオでは彼女は職務の範囲を超えて他の学生のために尽くしているとされている。回答者は現職または新人の候補者をどの程度 authentic だと思うか、7段階で評価する。

分析の結果、正当性の危機があり、回答者が現職とは異なる S2 型のパーソナリティだと知らされている場合の嘘つき対立候補の平均 authentic 評価が最も高くなる。これは正当性の危機がない状態の現職よりも高い(単純に禁酒に反対の人が多いということかもしれないが)。面白いのはこれらのヴィネットの条件のあいだには交互作用効果があるように見えるところで(交互作用効果の検定はなされていない)、正当性の危機や回答者が S2 型に割り振られていることの主効果はそれなりにあるのだが、両者がそろうとさらに効果が増すように見える。ほぼ同様の結果が権力切り下げの危機のシナリオにかんしても得られている。

ヴィネットの使い道としてとてもおもしろいと思った。Hahl, Kim and Zuckerman Sivan の議論を日本に敷衍するならば、嘘つきデマゴーグの言っていることを嘘だと批判してもあまり効果がないのは、嘘は嘘つきが品行方正なエリートとは異なる種類の人物であることの証拠であり、そういった人物を支持したいと考える人がたくさんいるからだ、ということになる。例えば、在特会の主張は嘘であるからこそ一部の人々にアピールするということになる。事実と論理を何よりも重んじる研究者としては憂鬱な話であるが、説得力は感じた。

この理論が正しいとすれば、グローバル資本主義を批判する活動家が抗議行動の途中で一般の店舗を破壊することがあったが、むしろ破壊したほうが支持が得られる(グローバル資本主義に否定的な人が多ければ、という条件付きだが)ということになるが、そうなのだろうか。また、日本の場合、Establishment といえば自民党とその支持者たちということになるが、彼らがそもそも嘘をついてはいけないという規範を持っているかどうかは微妙で、発語内的には嘘はいけないということを繰り返し言うわけだが、メタ・メッセージとしては、彼らの信じる正義のためなら多少の嘘は構わない、と言っているように見える。それゆえ、安倍内閣支持にこの議論があてはまるのかどうかは、私にはよくわからない。

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