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♪～
♪「おはよう　世の中」
♪「夢を連れて　繰り返した」
♪「湯気には生活のメロディ」
♪「鶏の　歌声も」
♪「線路　風の話し声も」
♪「すべてはモノラルのメロディ」
♪「涙零れる音は」
♪「咲いた花がはじく雨音」
♪「悲しみに青空を」
♪「つづく日々の道の先を」
♪「塞ぐ影に」
♪「アイデアを」
♪「雨の音で歌を歌おう」
♪「すべて超えて届け」
♪～
（鈴愛）では　改めて。
こちらが　私の幼なじみで西北大学１年生の萩尾　律君。
そして　同じく西北大学の朝井正人君。
…で　こちら側が藤堂　誠君　通称　ボクテ！（秋風）はい　そこまで。合コンじゃないんだから紹介必要なし。
君たち　ここでポーズとって。（律）え…。
見て　こんな感じ。
（正人）あ…。
（正人）こんな感じ。そうそう。
君　顔地味だけど　筋いいね。ヘヘヘヘヘッ。
（秋風）じゃあ　まずはワンショットいくからタジオ　休んでていいよ。タジオ？
映画「ベニスに死す」に出てくる美少年だ。音楽スタート。（菱本）はい。
♪～じゃあ　いきます。
２０分で描き上げて。よ～い　スタート。
（指を鳴らす音）
♪～
＜漫画。　漫画。紙にインクで描く絵です。絵からレーサーが走るように漫画家は線を引く。レーサーも漫画家もスピードが勝負。クロッキーとは　短い時間でその形を捉え　絵にする漫画家には　必須の特訓。律君と正人君は　若手育成のためクロッキーモデルに呼ばれました＞
♪～
はい　終了。　２０分経過。
次　タジオも入って。タジオ…　俺だ。
う～んと　どうしようかな。
こんな感じ。はい。
（藤堂）タジオだ…　ハンサム。
次　１５分いくよ。　よ～い　はい。（指を鳴らす音）
♪～
あっ　そこ。　消しゴム使わない。はい。
失敗しても紙は替えないよ。タイヤ交換なし。　一回勝負。
あ～　鉛筆は駄目だ。勢いつかない。チャコに替えよう。　１０分いくよ。
よ～い　スタート。（指を鳴らす音）
♪～
（秋風）はい　次　７分。（指を鳴らす音）
♪～
次　５分いってみようか。
５分？　マジ？
♪～
手を止めない！　迷わない！
とにかく描く！デッサン狂ってもいいから。
勢いが命！　死んだ線を描くな。
（３人）はい。
♪～
（指を鳴らす音）はい　お昼です。　休憩。
はい。　そちらに　キノゼンのお弁当が用意してあります。お昼休憩は　３０分。　午後２時再開。よろしく。
ん？
えっ　鼻血？
（裕子）私　小学校の時から　ず～っと私立の一貫校　女子校で生身の男子に縁がない。うん。
笑ってくれ。
漫画家志望にありがちな頭でっかちな…。いや。
あの子　かっこいい…　律君。
やるよ。え？
あ～　また鼻血！うわっ　あかん！興奮してまった！
３分いくよ。（指を鳴らす音）
１分。（指を鳴らす音）
３０秒。（指を鳴らす音）
（指を鳴らす音）（秋風）はい　終了。
じゃあ　次のポーズから脱いでもらおうか。
えっ　脱ぐって…　全部ですか？
そうだけど。　スッポンポン。
スッポンポン…！おひょひょ～！
あっ　あの　すいません！ん？
それだけはそれだけは勘弁して下さい！
先生まだ　うら若き乙女たちなので。
あそ？え～　タジオ脱がせたかったなあ。
（菱本）先生。
＜秋風のクロッキー教室は夕ごはんを挟んで　まだまだ続きすっかり終えたのは夜の９時です。およそ１０時間の死闘でした。Ｆ１グランプリと言うよりはル・マン耐久レースに近かったですね＞
はい。今日は　これで　おしまいです。
（一同）乾杯～！
ああ…。プハ～ッ！しみる。
１０時間　よく頑張りました。これは　私から。
ありがとうございます。
えっ　僕らも？
絵を楽しむ事は誰にでもできるので。
もし　よろしければ。
それを常に持って街に出ても　家にいても電車に乗っても何でも描きなさい。描きたいと思ったもの　何でも。
子どものお絵描きと一緒だ。君たちは今日ぶっ続けで　１０時間描きました。
ここで人は変わる。　自信を持って。
今日からは　君たちの全ての時間が漫画のための時間だ。
君たちが　漫画家になるための今だ。
はい。はい。
♪～
ああ…。
おお　タジオ君か。
今日は　ありがとうございました。
いや　こちらのセリフでしょう？
何か　人の心の温度が上がっていく瞬間を見ました。
…と　同時に少し不安にもなりました。うん？
鈴愛にとっては　今は漫画家になるための時間ででも　だとすると僕の今は何のための時間なんだろうって。
自分が何になるのか答えらんないっす。
いや　そういう時間もいいんじゃないですか？
私は　ここに来るまで回り道をしました。
そうなんですか？（秋風）はい。
漫画家デビューは遅いです。
美大に入り　絵を描き周りのうまさにおののきドロップアウトして中退しセールスマンになりました。
秋風羽織が…　ですか？はい。大阪で百科事典のセールスをしてました。へえ…。
（秋風）でも　ある日　炎天下の昼百科事典を売って回りながら僕は決心をしました。３０前で覚悟を決めたんです。
漫画家を目指そうと。
マジですか？
マジです。
仕事を辞め　バイトをしながら投稿を始めました。
退路を断った訳です。
（秋風）一見　余計な事する時間も回り道もあっていいと思います。
いろんな事があって全てが今につながっていく。
鈴愛と違って時間がかかるんです。
あなたのように　感じたり考えたりして生きていくのならそれは　実りのある時間だと私なんかは思います。
おっ２人で何のおしゃべりですか？
あ～。おっと　お酒がなくなりました。
お代わりを。
ん？　何の話？
俺は鈴愛と違って時間がかかるって話。
ん？
お前みたいにさまだ　やりたい事も　夢もない。
律…。
でも　焦らない。
何か見つかる気がする。
そうなの？うん。
律は私と違って　頭がいい。何かになる気がする。
でも　今日みたいな日もいいな。
大学も面白いし。　東京も。
うん。
何だって楽しいよ。
律は天才だな。
幸せを見つける天才だ。
（ノック）先生。
（ノック）秋風先生！
（ノック）
講談館出版の方からお電話がありました。
先生が　新連載のお話をお断りになったと。
私が　せっかくまとめてきた仕事をなぜ…！