アメフト界の誰もが思う
「ファンを増やしたい」

 ここでは、それとは別の危惧に触れたい。アメリカンフットボールがあのような、スポーツでは絶対にあってはならないプレーによって注目されてしまったことだ。

 筆者は以前、アメリカンフットボールのチームづくりをテーマにした書籍をつくったことがある。日本アメリカンフットボール界に多大な貢献をした鈴木智之氏(故人)という人物がいる。関学大OBで在学中はクオーターバックとして大学日本一決定戦・甲子園ボウル4連覇(1953~56年)に貢献。大学卒業後は自ら興した会社の経営に忙殺されながらも多くの大学・社会人チームの指導に出向き、軒並み強くした。最後にゼネラルマネジャー的立場で強化に参加したアサヒ飲料では、関西で2部との入れ替え戦をしていたチームをたった3年で日本一に導いている。幸運にもそんな伝説的人物に会い、貴重な話をまとめる機会を得たわけだ。

 鈴木氏にはアメリカンフットボールの神髄に触れる話をたくさん聞けたし、取材の過程では多くの関連するチームの指導者や選手と知己を得た。彼らのアメリカンフットボールに対する情熱にはいつも驚かされた。指導者はチームの強化だけでなく戦術や対戦相手の分析を常にしているし、選手は仕事以外の時間はすべて体力やスキルの向上に充てている生活を送っていた。たとえばアサヒ飲料の選手。練習場は兵庫県尼崎市にあるが、クラブチームのため、東京や九州などに住む選手もいる。平日は仕事の後、筋トレに励み、土日の練習に新幹線で通う選手も少なくなかった。膨大な時間をフットボールのために費やしているわけだ。

 それができるのは、もちろんフットボールが好きだからだし、勝利に貢献したいという思いがあるからだ。が、それとともに彼らの中には「フットボールのファンを増やしたい」という思いが感じられた。

アメリカでは絶大な人気
一度試合を見てもらえさえすれば

 日本では野球やサッカー、バレーボール、ラグビー、Bリーグができてからのバスケットボールなどに比べると、アメリカンフットボールの注目度は低い。甲子園ボウルは京都大学が強さを発揮した1980年代から注目されるようになり関西では根強い人気があるし、社会人もXリーグがスタートした1997年以降、観客は増えた。が、プロ野球やJリーグの盛り上がりには及ばない。アメリカンフットボールの試合をスタジアムで見た人はまだ少数派だし、ルールを知らない人も多いはずだ。