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（秋風のいびき）
（菱本）それは　ネズミです。（鈴愛）あっ　やっぱり。
・（物音）
片側しか耳が聞こえないのでいきなりの音は何か分からなくて…。
そういう事があるのね。
駆除するようにもう頼んであります。あっ…。はい　丸く拭かない。角　角…　四角です。　はい。
ここの掃除が終わったら３階の掃除そして　お昼の買い出し…。あの…。　私　考えたら左の耳が聞こえない事言わないままここに来てしまいました。
うっかりしてました。うち　健康診断もないしね。
あの…　私　就職試験１３社　落ちてるんです。
耳のせいだと　母は思ってます。
これからでも耳の事秋風先生にちゃんと　話　した方が…。
秋風に…。
♪～
♪「おはよう　世の中」
♪「夢を連れて　繰り返した」
♪「湯気には生活のメロディ」
♪「鶏の　歌声も」
♪「線路　風の話し声も」
♪「すべてはモノラルのメロディ」
♪「涙零れる音は」
♪「咲いた花がはじく雨音」
♪「悲しみに青空を」
♪「つづく日々の道の先を」
♪「塞ぐ影に」
♪「アイデアを」
♪「雨の音で歌を歌おう」
♪「すべて超えて届け」
♪～
ん？
あの…　楡野さんがお話があると。
（菱本）締め切り明けはこんなものなので皆さん　屍になります。はあ…。
（中野）うう…　このカット夜じゃなくて昼。
ホワイト修正…。　ホワイト…。
中野さん原稿　もうあがりましたよ。
ほら　しっかりして。
は～い　皆さ～ん！（手をたたく音）
皆さん！　はい　ちゃんと自分の家に帰って寝て下さい。
先生もちゃんと下行って　寝て下さい。
何　話って？あっ　いえ　今じゃなくても。
あ…　君　誰？
五平□です。
あ～　ああ　そうか…。
昨日　コーヒーぶちまけた。
すいませんでした。
いや　いいんです。
原稿があがれば何だっていいんです。　寝ます。
はいはい。（手をたたく音）
あっ　おはようございます！楡野鈴愛です。
（藤堂）あっ…。
おはようございます。
ペン先のインクが残ってるとさびるからティッシュできれいに拭いてね。はい。
＜鈴愛　カップも洗い筆も洗わせられてます。どうやら　これからこんな毎日が始まるようです＞
いいですか？朝１０時に秋風オフィスへ。窓を開けて換気　掃除３階から１階まで。そのあと買い出し。朝は皆さんおのおの食べて入りますので１２時昼食　３時におやつ夜は　７時に夕食。メンバーは　秋風先生　私。
私は　いつもここで食事するとは限りません。
同じく　若手アシスタントのボクテ　ユーコ。
ベテランアシスタントの中野さん　野方さん。中野さんと野方さんは忙しい時にだけ来るアシスタントさんです。中野さんは　もうプロデビューしていて自分の仕事と掛け持ち。自分の漫画はいまひとつ　売れていません。その辺り　デリケートに。野方さんはプロのフリーのアシスタントです。
えっ…。
もしかして料理あまりした事ない？
すいません。大丈夫。
漫画を描く人は　手先が器用。教えます。
あなたは　メシアシです。
メシアシ？
メシアシスタント。
ああ！　あっ　ごはんを作るからそう言うんですね。
＜なるほど。　最初はメシアシからスタートするのか。その時　鈴愛はそう思っていました。しかし　メシアシの幅は広かった＞
ここは　一体…。
秋風の愛した犬たちです。
そちらから　マリリン　ちまきうさぎ　ルティア。
（菱本）マリリンには缶詰のドッグフード。ちまきは７　３の割合でドライを入れて。
うさぎは　うさぎです。犬ではない。
大型うさぎを血迷って飼いましたがあっという間に…。
名前を付ける前でした。うさぎには小松菜を。ルティアは　ドライドッグフードを食べませんでしたので　赤身肉を。
はい。　あっ　あの　もしかしてリラクゼーションルームにあった犬の絵は…。
この子たちの肖像画です。
そして　心を込めてお参りを。
これも大切な　あなたの仕事です。
♪～
（秋風）いいですか？
原稿を　こう　裏側から見て下さい。
すると　表から見てた時には分からなかったデッサンの狂いが分かります。
左右対称に描いたつもりでもそうなっていない。
もちろん線に勢いがついてくればデッサンなんか　どうでもいいって話もありますがまずは　君たち　基本！
ここ　しっかりやってなくてどうするって話です。
＜先生　若手にレクチャー中です＞
ひと休みしよう。菱本君　コーヒー。
先生　楡野さんがお話があると。
岐阜の猿が…　何？
コーヒーぶちまけた事ならもういいです。
あっ　いえ…　あの　先生。
私　言わなければならない事がありました。はい？
私　左の耳が聞こえません。
小さい頃に　病気で。
だから？えっ？
私は　左の耳が聞こえないから人と違ったものが描ける。
人と違った世界を知っているからオリジナルなものが描けるとでも？
は？いいか　そういう事に甘えるな。
経験があるから描けるないから描けない。
自分の境遇は描けるそうじゃないものは描けないだと　描くものは狭まる。要は　想像力だ！それさえあれば何だって描ける。
想像の翼は　どこまでも飛び立つ！
まっ　でも片耳聞こえないなんてのはいいフックになるかもな。いつか　そんな話描いてもいいだろう。
じゃ　次　小宮　原稿。
♪～
あれ　本気だから。先生　ああいう人。
あっ　ごめんなさい。こっち聞こえん。
あっ　そっか　そっか。
ほら　僕たちが住んでる秋風ハウスの奥の方。
ちょっと　きな臭いでしょ？あっ　そういえば　少し…。
あれ　先生が火事のシーンを描こうとしてちょっと焼いてみた名残なの。
先生は焼くためにあの家を購入されました。
すぐに消されましたけど消防署に。
これ。あっ　はい。片づけて。あっ　はい。
先生はリアルな感情を味わうためには自分の家にも火をつける人です。作品のためなら何でもします。先生にとって　作品は全て。
だから　僕の事もこうして雇ってくれてるの。え？
ほら　僕って　ゲイじゃない？
ああ…。
ボクテ！　お前も聞け。はい！
これから私がいい話をする。天才のレクチャーだ。
お母ちゃん　ここは　すごい！片耳聞こえない事がハンディじゃなくて上乗せになる世界や！
（晴）は？　どういう事？
＜このころ　東京　岐阜間は７秒１０円です。すごい勢いで十円玉が落ちていきます＞
秋風先生に耳の事言ったら何にも気にしん。
ここには　ゲイもおる。ゲイ？
ああ…。　あっ　うん！
ゲイや　ゲイ！今までテレビや物語の中でしか会った事がなかった！ここは描くものが全てだ。
作ったものが全てだ。　その人がどんな人であるかは関係ない。
片耳聞こえなくても問題ない。
いや　いっそ　何か期待されてる。お母ちゃん　ここは自由や。
あんた　就職試験の事本当は気にしとった？
ちょっと　しとった。
よかったね　いいとこ入れて。
うん。（ブザー）
お母ちゃん　あかん！ピ～ッて言った！　またかける！
ああ…　うん。またな　お母ちゃん！
℡（不通音）
お母ちゃんって言ったのがおかしい？（裕子）別に。
（宇太郎）え？（仙吉）え？
えっ？あっ　いや　電話代高いから。
＜そんなこんなで鈴愛の東京での毎日が始まり…＞
＜そして　こちらは律君。彼も上京し人生初　自分だけの電話がついたところです＞
（和子）じゃあね　律。おかあさん　帰るわね。うん。
うん。　ありがと　母ちゃん。
一緒に来てもらって部屋も　ちゃんとなったしそれに入学式も出たし写真もいっぱい撮ったしな。
ウヘヘヘヘッ。何だよ。
電話もついたしね。
これで　いつでも律の声が聞こえる。
あっ　ちゃんと　ツ～って言う。
フランソワ　律　よろしくね。
律が悪い事をしないようにちゃ～んと…。ちょっと待ってよ。　悪い事って…。
あっ　そうそう。鈴愛ちゃん　近所だから。は？
鈴愛ちゃん　近所。えっ…。
晴さんと相談してね。２人近い方が何かと安心やし。
鈴愛ちゃんにも　まだ　ないしょ。
ん？　ちょっと待って　だって…俺　ここ　新宿区だよね。
鈴愛　港区とかでしょ？近所な訳ないやん。
ううん　それ　隣同士なの。隣同士になるとこ　あるの。
ここを探す時に　そうした。そうしたって…。
えっ　俺　また　あいつと一緒なの？
あんた　嫌なの？
嫌なのね。いや　嫌って訳じゃ…。
おかあさんはねあなたのおかあさん２０年近くもやってるの。
あなたが考えそうな事は分かります。
あなたは岐阜を捨てて東京の人のふりをして遊びまくろうとしてる。
鈴愛ちゃんには梟町代表としてあなたのおもしになって頂きます。
＜その時　律君はしばらく　この電話番号を鈴愛には伝えないでおこうと思いました＞