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（秒針の音）
♪～
℡「ただいま留守にしていますのでピ～ッという信号音が鳴りましたら…」。
（まさこ）サービス。（鈴愛）ありがとうございます。
さっきから１０分置きに電話かけとるけど…。
気付いとった？気付くよ～。
ほかにお客さん　おらんし。
あっ　もう　店閉めなかん？
ううん。まだ　お客さん来るかもしれん。
これ？　あっ　こっちか？
彼氏？
いえ…。
留守電　残さんの？はい。　いまいましいですね。
留守番電話って何にも残さなくても十円玉　落ちます。まあ　つながった訳だからね。
（ドアベル）こんばんは。あっ　いらっしゃい。
（秒針の音）
℡（呼び出し音）
℡はい。
あっ　あ…　もしもし！
秋風羽織先生の事務所さんですか！？
♪～
♪「おはよう　世の中」
♪「夢を連れて　繰り返した」
♪「湯気には生活のメロディ」
♪「鶏の　歌声も」
♪「線路　風の話し声も」
♪「すべてはモノラルのメロディ」
♪「涙零れる音は」
♪「咲いた花がはじく雨音」
♪「悲しみに青空を」
♪「つづく日々の道の先を」
♪「塞ぐ影に」
♪「アイデアを」
♪「雨の音で歌を歌おう」
♪「すべて超えて届け」
♪～
あ…　もしもし！　秋風羽織先生の事務所さんですか！？
（秋風）はい　そうですが。
あ…　あの　もしかして！
℡秋風先生ご本人でいらっしゃいますか！？
いえ　私は留守番の者です。はあ…。
先生は　もうお帰りになられましたが…。明日１２時以降に事務所が開いている時間にお

かけ直し頂ければ…。
先生。　秋風先生ですね。
℡楡野鈴愛です！先日お会いした　楡野鈴愛。
ニレノスズメ　誰　それ？
五平□です！　五平□。
あ…　ああ～。
やっと　つながった…。
もしかして　君か？
さっきから　きっちり１０分置きに電話かけてきて。
すいません。どうしても出てほしくて。
本当に人がいなかったらどうするつもり？
明日の朝まで　１０分置きにかけ続けるつもりだったの？
℡そういう都会の事務所って誰かいるような気がしたんです。１２時まではやろうと思って

ました。
よかったよ　早めに出て…。
で　用件は何でしょう？
あっ　あの　先生。
先日は　うちの父が菱本さんに大変な失礼をしてしまい申し訳ありませんでした！
でも　しかし私は　先生のところで働きたい。
漫画の勉強をしたいと思っています！
父の事は謝ります。許して頂けませんでしょうか？
どうか　私を見捨てないで下さい！
＜その時　鈴愛は思っていました。「私を見捨てないでくれ」。こんな見苦しい言葉を自分

は生まれて初めて口にしたと…＞
あっ　あの　私　明日そちらに伺います！
それで菱本さんにお詫びをします。あっ　こちらの住所で…。
待て　五平□　早まるな。はあ…。
君の気持ちは分かった。
℡分かってもらえましたか？
私に任せなさい。
えっ　本当ですか！？
（草太）姉ちゃん　これ絞ったの？はい　こっち。
草太　あんた　日曜なんだから遊び行けば？
いやや　そりゃ俺だって見たいよ。あっ　そう。
（宇太郎）晴さん　いくらなんでもその格好は…。
（晴）これで十分です。
（仙吉）お～　きれいやな。うん。
あっ　おじいちゃん　五平□。うん。　焼くだけになっとる。
おお～。フフフッ。
何やね。みんなで　いそいそしちゃって…。
別に　いそいそは…。
あのね　私は全然　歓迎しとらん。
ああ～　お母ちゃん　お母ちゃん。正座しとって　足がしびれたな。
・こんにちは～！ごめんくださ～い！
来た！来た。
来た…。来た。
私　秋風の秘書をしております菱本と申します。
私はですね秋風先生の担当をしております小杉と申します。
散英社のガーベラ編集部におります。
すげえ　散英社。
「少年ドラゴン」とかも作ってるんですよね。
「ドラゴン」好きなの？（草太）はい。
お父ちゃんも漫画好きなんです！
私は　あの　王道の手塚治虫とか梶原一騎とかあの　散英社さんとはまた違って…。
あっ　いえいえ…　あの手塚治虫先生の「ビッグＸ」は散英社　「少年ドラゴン」ですよ！
あっ　そうか！はい！そうやった　そうやった！
（律）おっ　どうした？
何か　結構　いい感じかもしれん。
マジで？うん。
秋風先生も来てるの？あっ　ううん　先生は。
本当は　秋風本人も来たいと申したのですがあいにく　今　彼は彼原作の新作映画の公

開とそして締め切り５本抱えてまして…。
あっ！
私　秋風に怒られましてね…。
私　小さな頃から親元を離れて全寮制の中学に入りましたもので親御さんの気持ちという

のに疎いところがありまして…。
あっ　そう…　そんな小さい時から。
（菱本）ええ　家の事情で…。
だから　親御さんがご不安になられるのは　もっともなのに配慮が足りないところがありま

した。
この前のお電話はすみませんでした。
もっと　こうして早くに伺うべきでした。
いえいえ　こちらこそ。こっちも言い過ぎました。
え…。
ごめんなさいねえ。
いや　そりゃ　もう　娘も１８で親が　しゃしゃり出るのもおかしな話で…。
みっともない事　言っちまって。
ああっ！　ああ…。
今日やと思うんや。℡ん？
決戦の時は　今日やと思うんや。℡うん…。
これで家族の６割方が味方についた。
℡６割…　誰？いや　ムードとして。
宿敵　ゴアを倒すのは今日や。
そうか…　晴さん　倒すか。
うん。　頑張る前に律の声を聞いときたかった。
告白か？あっ　いや　違う。
勉強の邪魔して悪かった。　切るな。
（和子）あら　もう電話おしまい？
頑張れ　鈴愛。　応援しとる。
もう　切れとるけど。
あの…　どうぞ　よ～くお考えになって　お決め下さい。
はい。　わざわざありがとうございました。
ありがとうございました。
＜ポイントは　秋風羽織が少数の弟子を募り将来の漫画家を育てる。そして　デビューに

際しては自分のつながりのある出版社を紹介し　尽力するという事でした＞
あんたは　農協に行けばいい。
東京に行く事は許さない。
お父ちゃんは？今　おかあちゃんが話しとる。
晴さん　感情的にならんといてなっ。
別に　この子が鬼に取って食われる訳やない。
そんな難しい顔するような事やないよ。
ほうや。
おかあちゃんは　あんたに才能があるかどうか分からん。
あんたの漫画読んでも正直　よう分からん。
しかたない。おかあちゃんは素人や。
ほやけど　あんたが東京に向いてないという事はよう分かる。どういう事？
あんたはこの町の農協が向いとる。
人の…　人の力で入ったようなとこ行きたくない！
裏から手ぇ回して入ったようなとこ私は入りたくない！よう言うわ！
どっこも受からんかったくせに。
どうして　あんたが　１３社も受けて落ち続けたか分かる？
分かっとる？あんたが何でも本当の事　書くからや。
左の耳が聞こえないって履歴書に　わざわざ書くからや。
♪～
（晴）草太も聞いとって。
お姉ちゃんの大事な話や。
♪～
いい？　鈴愛。世の中は　いい人ばっかりやない。
悪い人もいる。
あんたは　そういう事を知らないまま生きてきた。
家族は　あんたに優しい。
律君も　菜生ちゃんもあんたに本当によくしてくれる。
あんたは世の中の厳しさを知らん。
嫌な面を知らん。
それは本当にありがたい事やとおかあちゃんは思う。
感謝しとる。
ほやけど　そんな　あんたを東京に出す訳にはいかん。
そんな漫画なんていう競争の世界でやっていける訳がない。
お母ちゃん　鈴愛は知っとった。
就職　何で落ちるか分かっとった。
え？
でも　鈴愛は　私は嘘ついて入るのは　絶対嫌やった！
本当の事　書いて入ってやるって思った！
私は東京へ行く。