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(鈴愛)お母ちゃん。
私 農協には勤めん。
(晴)ん?
私 農協には行かん。
何 言っとる?
明日にでも 農協行って内定取り消してもらう!
鈴愛は 東京に行く。
はあ?
そいで…。
それで 漫画家になる!
はあ!?
この前 秋風羽織のトークショー行った時描いた漫画持ってったら認められた。
弟子にしてやるから東京に来いって言われた!
この子は 何 言っとる!?
あんな 商店街の人たちやうちの方のおじいちゃんやおばあちゃんまで呼んであんな盛大なお祝いの会までやってもらって…。
呼んだのは私やない。お母ちゃんや。
何 言っとるの!? あんた!(幸子)まあまあ まあまあ…!晴さんも鈴愛ちゃんも落ち着いて。
ほんなら今日のところは これは…。
置いてって。この子が入社式に着る!
私は入社式には出ない。スーツは着ない!
置いてって!ねえ あの だからね…。
置いてってって言っとる!お代も払わないかん!
(幸子)ああ ええんやよ。これは もともと私が鈴愛ちゃんのお祝いにおばさんがって思ってな。
私が払う!
稼いでもないくせに何 言っとる!
ちょっと うわ~! やめやって!破れる!
(破れる音)
今… 音したよね。 ビリッて。
袖のところが ほつれた…。
♪~
♪「おはよう 世の中」
♪「夢を連れて 繰り返した」
♪「湯気には生活のメロディ」
♪「鶏の 歌声も」
♪「線路 風の話し声も」
♪「すべてはモノラルのメロディ」
♪「涙零れる音は」
♪「咲いた花がはじく雨音」
♪「悲しみに青空を」
♪「つづく日々の道の先を」
♪「塞ぐ影に」
♪「アイデアを」
♪「雨の音で歌を歌おう」
♪「すべて超えて届け」
♪~
完全に まずった。
最初にお母ちゃんに言ってまった。
(龍之介)やってまったか…。
(律)おばさん どうした?
口きいてくれん。
家ん中 息苦しい。
(ため息)
(菜生)鈴愛秋風羽織に名刺もらったんやろ?
そのあと 連絡しとらんの?
ほんだってどう言ったらいいか分からん。
親に許してもらえないんですけどどうしたらいいでしょう?
…なんて小学生みたいな事は言えん。
℡
(宇太郎)はい もしもし。
(菱本)もしもし私 秋風羽織の事務所オフィスティンカーベルの菱本若菜と申します。
あ… ああ これはこれは楡野鈴愛の父楡野宇太郎にございます。
楡野鈴愛さんはご在宅でしょうか?
いえ 娘は まだ帰ってきておりませんが…。
そうですか。それでは お戻りになられたら一度 オフィスティンカーベルの菱本まで電話をと。
あの…。℡はい。
あの…そちら うちの大事な一人娘をもらうっつうのにその 親の私に挨拶もなしですか?
…はい?
秋風何とかがいくら偉いか知らんけども。だって そうでしょう?
いきなり 娘に東京に出てこないか漫画家にしてやるなんてうまい事 言って。
そりゃ こっちは 赤子の手ひねられたみたいなもんですよ。
コロッと行っちゃいます。おかげで我が家はすったもんだで。
あの~ おっしゃる意味がよく分かりませんが…。
℡は?あんた 日本語 分からへんの?
いえ 日本人ですので日本語は分かります。
(秋風)あれは怒ってるな?(藤堂)はい 先生。
相当に怒ってると思われると思われます。怖い。
当方は 漫画家にしてやるとは言っておりません。
うちの秋風羽織が 少数精鋭で全国から弟子を募り秋風塾をやる。
それにつけては住む所 食べる事のお世話をする。
℡そのかわり 秋風のアシスタント業務を行ってもらう。
毎月 お給金も払う。あっ ここ お待ち頂ければすぐに詳細出ますが…。いえ いいです。
あのそちら 何が言いたいんですか?
雲行きが怪しい。
嵐の予感です。
何が言いたい…。
何が言いたいかといえば漫画家にしてやると言って赤子の手をひねった訳ではないという事を言いたいのです。
℡こちらの条件を提示して鈴愛さんにどうでしょう? と伺いました。
伺ったってうちの娘 まだ18ですよ。
お言葉ではございますが18といったら もう大人です。
赤子ではないと思います。
十分に自分の意志を持ち客観的状況を推察し判断できる年齢だと私などは判断します。
従って 鈴愛さんの意志を尊重しこちらでは準備を進めておりました。
℡もちろんまだ未成年でいらっしゃるので親御さんの承認は必要です。
でも そこは私たちからお父様は大丈夫?
お母様は大丈夫?と お聞きするようなご年齢でもないと判断しております。
かえって 失礼かと。
私たちはたまたま原宿に買い物に来た右も左も分からない栃木の13歳の女の子をアイドルとしてデビューしないかとスカウトした訳ではありません。
菱本君は怒ると立て板に水のようにしゃべる。
私も あの勢いでネームが描ければなあ。
すごいパワーだ。
先生。 もしかして…ネームに詰まって僕とおしゃべりを?
フフッ… ばれたか。
君は いい匂いがする。コロンを変えたか~?
お嬢様はそれはそれは斬新な原稿を…。
あの この ギザギザは もしかしてスケッチブックを破った?
サイン会で秋風にお見せになりました。
はっきり言っていい根性してるなと思いました。
ずうずうしいともいえるし頼もしいともいえる。
しかし 今 お話を聞いているととても東京で漫画家を目指す事は困難かと存じます。
1週間 そちらからお電話もありませんでしたし。
そのようにお父様がおっしゃるならこのお話はなかったという事でよろしいでしょうか?
♪~
じょ… 上等やないか!
上等やないかという事はイエス ダ・コーという事でよろしいですね。
それではこの話はなかったという事で。
そのようにお嬢様にお伝え下さいませ。 ごきげんよう。
℡(不通音)
やってまった… か? 俺。
もしもし。 もしも~し!
菱本君 君は怒りの沸点が低い。
秋風羽織の事を秋風何とかと言いました。
許せません!
それは 許せんな。
(まさこ)よいしょ…。
へえ~ こうなっとるんや。これ 大凶ばっかや。
律 受験やばいって。
えっ 律が そう言ったのか?違う違う。
あいつが そんな事 言う訳ない。俺が勝手に心配しとる。
京大も難しいのか 律…。しっ! ここが正念場だから。
これからは なるべく律の邪魔しんように。
あんまり ここにも誘わん。分かった。
だから 鈴愛 何かあったら俺に相談しろ!
マグマ大使の笛 3回が律なら2回で俺は飛んでくぞ。
うん。 ありがと。
<ブッチャーじゃ駄目だと 鈴愛は秒で思いました。あっ 秒でというのは1秒とか2秒でという事ですよ>
えっ…。うん だから まあ そういう事だ。
え…。
ちょうどよかったやない。どうせ 行かんのやし 東京。
向こうもその程度の事やったって事や。
冗談やない。
やっていい事と悪い事がある。
あんた おとうちゃんに向かって何 言っとる。
信じられん。 子どもの夢潰して何が お父ちゃんや。
いい加減にしなさい。おとうちゃんも おかあちゃんもあんたらのために一生懸命 働いて…。
頼んだ覚えはない!何やって?
(仙吉)いや まあまあ まあまあ…。
ねっ ここは ひとつ鈴愛も 晴さんもおじいちゃんの顔に免じて…。
あかん。いくら おじいちゃんの頼みでもこれは あかん。 鈴愛は許せん!
18にもなって 自分の事鈴愛なんて呼ぶ娘に何ができる。
東京なんて出ていけるはずがない。私は もう大人だ。
自分の事は自分で決める!
何 言っとるの!? あんたは!
どこも就職受からんかったやない。
農協受かったのが誰のおかげと思っとる?
おじいちゃんが昔から つきあいのある農協の偉い人に口利いてくれたからや。晴さん。
そうなの?
いや あの… そんな事はないぞ鈴愛。
鈴愛は ええ子で…。
おじいちゃんまで グルか?
鈴愛。 あんたおじいちゃんに謝りなさい。
草太…草太は それ聞いとったの?
いや… 聞いてないけど。
でも そんな事やないかとは思っとった。
嘘つき。
この家は 嘘つき家族や!
あんなふうに みんな呼んでお祝いまでして私の力で受かった訳やないなんて心ん中で私を笑っとった。
笑ってないよ。 世の中なんて…。
もういい! 聞きたない!
やっとれん。
♪~
<鈴愛は 律君の勉強の邪魔をしてはいけないとマグマ大使の笛を吹くのをこらえました>
♪~
律…。
♪~