昔から何かを決めるのが苦手だ。いつもどうでもいいことを頭の中でぐるぐると考えすぎて決められなくなってしまう。特に咄嗟の判断というのが苦手で、制限時間内に何かを決めないといけないという場合、すぐにパニクって硬直してしまう。
大体の場合、それはよく考えてみれば別にどちらを選んでもいいようなものばかりなのだけど。例えばコンビニでチョコが少し含まれているお菓子とチョコそのもの、どちらを買えばよいか、とか。
チョコが少ないほうが健康にはいいかもしれないけれど、チョコそのもののほうが満足度は高いだろう。健康と満足度という全く別ベクトルの基準をうまく比較することができない。どちらを買ったほうが正解なのか。間違ったほうを買った場合、後悔に襲われるのではないか、ということが怖くて何も決められなくなる。考えれば考えるほど頭に血が集まって視野が狭くなってきて、脂汗がだらだらと流れ始め、コンビニの棚の前で立ち尽くしてしまう。
そんなくだらないことで悩むなら両方買ってしまえばいいじゃないか。いや、でも両方買ったら今日中に両方食べてしまうだろ。それはもっとも愚かなことじゃないか。じゃあ両方買わないとか。でもお菓子なしで今日一日耐えられるのか。ぐるぐるぐる。思考は無限ループを回り続ける。
「そういうときは直感で決めればいい」とか言う人もいるけれど、その直感が信用できないと思っているのだ。自分がやりたいと思うままに、夜中にこってりしたラーメンを食べたら胃もたれして苦しんだりとか、かっこいいと思って買った服が家に帰って着てみたら全く似合わなかったとか、良いと思った異性に接近していったら気持ち悪がられたりとか、そういう経験がたくさんあるから、自分がしたいと思うことはそのまま信用できないのだ。自分の判断力がポンコツなのは自分が一番知っている。
20歳くらいの頃、友達2人と一緒に石垣島に旅行に行ったことがある。
そのときの旅行の手配やスケジュールは全部僕が決めたのだけど、実際に旅行してみると、ここはあまり面白くなかった、このお店はあまり美味しくなかった、などという悔やまれる点がいくつかあった。
実際にそんなにひどい失敗があったわけではなくて、基本的には楽しい旅行だったのだけど、僕は「本当はもっと完璧に楽しい旅行になるはずだったのに自分のせいでそれが損なわれてしまった」という気持ちにとらわれて、落ち込んでしまった。
帰りの空港で僕は言った。
「今回の旅行で失敗したところを反省する反省会をしよう。次は失敗しないために」
そうしたら友達2人に即座に、
「そんなの要らないでしょ」
「失敗なんてない」
「楽しかったよ」
「考え過ぎだよ」
とにべもなく否定された。一体こいつは何を言ってるんだろう、と思われたと思う。
多分自分は完璧主義過ぎるのだ。一度も選択を間違えたくないと思っている。この世界には素晴らしい可能性がたくさん埋まっているはずなのに、自分の愚かさによってそれを取り逃してばかりいる、というような世界観を何故か持ってしまっている。
何かを決めるということは、それ以外の別の何かになり得た可能性を全て殺すということだ。常に最善手を選んでいたいのに、それが自分の愚かさゆえにわからない。それだったら何も決めたくない。決めなければ失敗はない。決めなければ、世界は何にでもなれる可能性を持ったままを保っていられる。そんな風に思ってしまう。実際には、何も決めないということも、何も決めないという選択肢を選んでいるだけに過ぎないのだけど。
あまりにぐるぐると考えすぎて頭の中が焼き切れそうなときは、期待を持ってしまうから苦しむのだ、欲求や願望を全て捨てて何も決めなくていい静かな世界に行きたい、ということまで思ってしまう。だけど、冷静に考えるとそれは死のようなものだろう。
僕は将棋をたまに指すのだけど、これがまた厄介なゲームだ。将棋は麻雀などと違って運の要素がないので、全て指し手の実力によって決まる。最善手は必ずどこかにあるはずなのに、自分の棋力がヘボいせいでそれがわからない。明らかに優勢な局面で、とても馬鹿な手を指してしまって一気に逆転される、というのはしょっちゅうだ。なんて苦しいゲームなんだと思う。
だけど僕がいつも指している将棋ウォーズというアプリではあれが使えるのだ。AIだ。将棋を指し終わったあとに、その棋譜をAIにかけてみると、どの手が良くてどの手が悪かったかが全てわかる。正解をちゃんと知ることができるのだ。AIに棋譜を解析してもらうのは有料なのだけど、つい正解が知りたくて課金をしてしまう。そうか、あそこでああやればよかったのか。くそ。全然見えなかった。本当に自分はだめだな。そうやって自分の判断の答え合わせをするのは楽しい。
早く科学が進歩して、人間の普段の行動についても判断してくれるAIが出てこないものかと思う。コンビニではどのお菓子を買うのが最適解なのか、昼食はどの店のどのメニューを選ぶのが一番満足度が高いのか、どの異性にどんな風に声をかければ最も幸福になれるのか。そんなAIがあったら正解がわからないという苦しみから解放されるだろうのに。有料で結構高くても多分課金してしまうな……。
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家を出て街に遊ぶ。
お金と仕事と家族がなくても、人生は続く。
東京のすみっこに猫2匹と住まう京大卒、元ニートの生き方。
世間で普通とされる暮らし方にうまく嵌まれない。
例えば会社に勤めること、家族を持つこと、近所、親戚付き合いをこなすこと。同じ家に何年も住み続けること。メールや郵便を溜めこまずに処理すること。特定のパートナーと何年も関係を続けること。
睡眠薬なしで毎晩同じ時間に眠って毎朝同じ時間に起きること。
だから既存の生き方や暮らし方は参考にならない。誰も知らない新しいやり方を探さないといけない。自分がその時いる場所によって考えることは変わるから、もっといろんな場所に行っていろんなものを見ないといけない。
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