日本エネルギー会議

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原発にミサイル? テロ? 対策は行われている 石井孝明(経済・環境ジャーナリスト) 2017.9.21


(写真1)北陸電力の志賀原発(写真と記事内容は関係ない)

 「原発に弾道ミサイルが撃ち込まれたらどう対処するのか」。山本太郎参議院議員が2015年2月に国会で質問した。「北のミサイル対策は騒ぐのに、原発テロの危険を報じないマスコミ」と、元経産官僚の古賀茂明氏は寄稿した。

 北朝鮮は弾道ミサイルと核兵器で日米を威嚇している。そのために、これら2つの質問が頻繁に出る。

 答えを述べると、ミサイル、テロで、政府や電力会社による対策が行われている。また原発の構造上から、仮に何かがあっても、被害の広がる心配は少ない。

 私は記者であるが、その前に一人の日本人だ。テロリストに役立ちそうな情報はぼかすが、述べられる範囲で、人々の不安を取り除きたいと思う。筆者は国内で20ヶ所の発電所などの原子力施設、海外でチェルノブイリ、台湾で政治的な騒動になった第四原発を取材している。

原子炉を直撃できない弾道ミサイル

 ミサイルが目標に直撃し、破壊される。湾岸戦争以来、米国の公開する戦争の映像はこのような光景ばかりだ。しかしピンポイントの攻撃能力を持つミサイルは「巡航ミサイル」と呼ばれる特殊なものだ。偵察衛星などの誘導によって、弾頭に組み込まれたコンピュータによる航路解析を行い、自動方向修正を行って目標に命中する。使える国は限られている。
 北朝鮮のミサイルは「弾道ミサイル」と呼ばれる。精密に誘導せず、目標近くで爆発させることを狙う。北朝鮮は直撃ではなく、地域の人間の大量殺戮を目的にする核・生物・化学兵器と併用して使うことを狙っている。

 原発の重要部分の圧力容器の大きさは、東京電力福島第一原発第1号炉(1971年運転開始の古い物。事故機)で、高さ約15メートル、直径4.7メートルだ。大きいものではない。また北朝鮮には、巡航ミサイル、航空機や潜水艦などから発射される誘導弾の配備情報はない。北朝鮮が自国から約1000キロ離れた日本にある原子炉にミサイルを直撃させることは、おそらくできない。

 また国際法を調べると、1977年の「ジュネーブ条約に追加される国際武力紛争の犠牲者の保護に関する議定書」によって、攻撃は軍事目標と敵の戦闘員に限定され、原発の攻撃禁止も明示されている。もちろん戦時に守られる保障はないものの、北朝鮮は戦時国際法を定めたジュネーブ条約に参加している。抑止の理由の一つになるだろう。

 核兵器で北朝鮮が原発を狙う可能性もある。しかし日本では都市から離れた場所に原発は立地する。核兵器は大量殺戮を狙いとする兵器であるために、大都市を狙うはずだ。

原子炉の構造、飛行機が衝突しても大丈夫

 軽水炉型原子炉は、核分裂反応を起こす原子炉本体(狭義)が、圧力容器、格納容器、原子炉外壁、それを入れた建屋に覆われている。筆者は、福島第一原発1号炉と同型の日本原電の敦賀1号機を視察したが、直接見ることのできる格納容器の幅は1・5メートルの厚さの鉄筋コンクリートだった。
 (写真2)外部からの攻撃でこれらの何重にも作られた壁を壊すことは難しいと思った。福島原発事故でも、1−3号炉の格納容器は全壊せず一部の破損にとどまり、大半の放射性物質は圧力容器内に残った。


(写真2)原子炉を覆う圧力容器。分厚い鉄筋だ(日本原電敦賀1号機)

 原子力規制委員会は12年7月に施行した新規制基準で「航空機の衝突にも原子炉が安全であること」ことを発電事業者に求めた。具体的な爆発の力、エネルギー量は専門的すぎ、またテロへの支援にもなるので省略する。
 日本の原発は、原則として、すべてこの規制を満たす。ある電力会社の原子力の安全担当者によれば、「もともと原子炉は9・11のようなジャンボジェット機の衝突にも耐えられるように設計されている」という。

 米国では2001年9月11日に航空機を使った同時多発テロで枢要施設を攻撃された。米政府の原子力規制委員会(NRC)は翌02年、「原子力施設に対する攻撃の可能性」に備えた特別の対策を各原発に義務づける指令を事業者に出した。
 全電源の喪失があった場合の対応策、テロ対策、さらに上記の航空機の衝突対策などの特殊な事例の対応を要請している。これは日本の新規制基準でも参考にされている。

 NRCは1992年に、時速800キロで、F4ファントム戦闘機を、原発の壁を想定した鉄筋コンクリート壁に激突させる実験をしている。戦闘機は破壊されても壁は壊れなかった。この情報は世界の原子力事業者に共有されている。「NRCはミサイル、爆弾への対策も、航空機の衝突対策をすれば十分としている」(研究者)という。(映像)

 つまり北朝鮮の通常のミサイルが当たっても、原子炉が崩壊して放射性物資が飛散する可能性は少ない。

 日本の原発に北朝鮮の影はあった

 北朝鮮は特殊部隊を持ち、朝鮮半島で戦争になった場合には日本に侵入、破壊工作をする可能性がある。

 ベストセラー小説「宣戦布告」(小学館)では、北朝鮮の特殊部隊が、日本の原発を偵察中に特殊潜航艇が座礁。自衛隊と交戦するという設定だ。これは実際に、1996年9月に、韓国で発生した江陵事件をモデルにしている。

 1985年に稼動した東京電力柏崎刈羽原発を視察したとき、東電社員の人に建設中に黒い不審な船を沖に見たことがあると聞いた。1978年に北朝鮮の工作員に蓮池薫氏が拉致された犯行現場は同原発から5キロほどしか離れていない海岸で、構内の高台に登るとその近さが分かった。北がこの原発を偵察していたのだろう。

 ある電力会社の幹部によると、1990年代初頭に同社の日本海側の原子力発電所の幹部が尾行、監視されている気配があったという。原発の保安をめぐる官民の取り組みが始まった2000年ごろからこれは消えたそうだ。

 ただし日本の電力会社も、治安当局も、テロの危険を放置するほど愚かではない。どの原発も、警備は2000年代半ばから、格段に厳しくなった。以前は申し込めば、原発の奥や制御室に簡単に入れた。私は原発ほど、厳重な警備をしている施設を日本で見たことがない。ちなみに電力会社と治安機関に、原発の警備強化の提言をしたのは、今は自民党参議院議員になった青山繁晴氏だ。

 今は原発への入場の際には身元が確認され、チェックが構内で繰り返される。多くの原発では、入場者の火薬検査もしている。爆発物に触れると、化学部質の痕跡が残るため、特殊な検査をすると分かる。

 日本のある原発は敷地内に一般道が通る。その原発では道にそって鉄条網が備えられ、建物は50メートル以上離され、屋根は斜めになり投げられた手榴弾が転げ落ちるようにしていた。他の原発でも、鉄条網で重要部分を多い、外部からの侵入を難しくしたところがあった。
 どの原発も周辺はセンサーで監視されていた。さらに原発構内の地図も最近は公開されず、意図的に道を曲がらせていた。車両の直進での突入を阻止するためだ。日本の原発警備は数社が行っているが、そのノウハウは共有されている。

 行政・治安機関も対応している。日本の原発はすべて冷却のために海に面して作られているが、今は海上保安庁の巡視船が天候の許す限り、原発近くの海域を航行、警戒している。

 原発の立地する自治体警察には機動隊の中に小隊規模(数十名)の原子力関連施設警戒隊が置かれ、隊員は短機関銃MP5を持つ重武装をしている。日本の警察の標準装備は拳銃だ。日本には自衛隊の中央即応集団など、また警察のSAT、海上保安庁SSTなど、重武装の犯罪者、テロなどに対応する特殊部隊がある。各原発はそれと連携している。
 2010年に志賀原発(石川県)、2013年には泊原発(北海道)で、警戒隊の出動する公開訓練が行われ、それは報道に公開されている。

 公表されておらず詳細は言えないが、原子力防護に関係する特殊部隊が集まり、ある原発で合同の実動演習を行った。警察が守り、他機関の特殊部隊が原発を攻めた。こうした実際に人を動かす実戦を模した演習は、警備の穴を見つけられ、大変効果がある。

 演習ではほぼ警察が守り切った。ただし一回だけ失敗した。ある部隊が陸上で陽動攻撃をした後に、少数の隊員が潜水して海の取水・排水溝から潜り込み、重要施設に爆薬を仕掛けた。侵入した隊員は発見され射殺されたもの、重要施設の一部が破壊されたという判定が審判団から出たという。これを受けて各原発に要請が回され、海からの侵入ができないように設備が変わった。

 テロリストが原発を破壊するのは、かなり難しい。原子爆弾のように核分裂反応を大規模に行って巨大な爆発にすることは、構造上、原発ではできない。航空機や爆弾でコンクリートに覆われた複数の壁を破壊して、放射性物質を拡散させることもありえない。

 軽水炉型の稼動中の原発で冷却設備を破壊し、原子炉を加熱、破壊することを狙う作戦もあり得るだろう。福島原発事故では、東日本大震災のような巨大な揺れでは原発は壊れなかったが、冷却設備が津波で壊れて原子炉が過熱、破損した。

 しかし日本の原発は新規制基準で全電源が喪失しても、非常用電源装置や給水車などを使って冷却を行えるようになっている。福島事故の教訓は活かされている。福島事故では、冷却不能の原子炉が過熱し破損するまで1日以上かかった。少数のテロリストが侵入、占拠したとしても警察、自衛隊が数時間で制圧できる可能性が高く、ほぼ不可能だ。

原発よりも別のターゲットが危険

 素人である筆者にここまで調べられる以上、北朝鮮や中国やロシアなど日本の仮想敵国も、日本の原子力発電所に対して、同程度の認識は簡単に得られる。

 軍事作戦では、その実行者は、効果を最大にし、目的達成につなげる配慮をするはずだ。日本に対策がある以上、原発への攻撃は効果が限定される。それをわざわざ行う可能性は少ないだろう。大都市などの脆弱で、無防備なソフトターゲットに、核やテロは行われるはずだ。その対応をしたほうがよい。

 また日本政府、また電力会社は、原発問題をPRしづらい現状は理解できるが、「安全対策はしている」と事実を言うべきではないか。

 政府には福島事故を経験したにもかかわらず、国民に対する分かりやすい原子力事故の対応統一マニュアルがない。(分かりづらい「内閣府原子力防災ホームページ」)猛省し、速やかにそれを作るべきだ。

 そして世の中に「絶対」はない。原発へのテロ、攻撃を含めて、万が一、ありえることを私たち一般市民も念頭に入れておくべきであろう。

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