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（アサリ）ごりょんさん。
笑いの慰問団にわいも入れてくれまへんやろか。
（てん）その話　誰から聞いたん？
専務が触れ回ってはってここんとこ楽屋で持ちきりですわ。
（トキ）あの人　ホンマ　調子乗って。
それな　まだ決まったんとちゃうんです。
えっ　な…　何でです？
（万丈目）ごりょんさんやおトキさんが心配なさるのもよう分かりまっけど芸人ら　みんな行く気ぃなってまっせ。（２人）え？
今まで　あんまり褒められた事もない　わてらにわざわざ「お国のために行ってくれ」て言うてくれてますんやで。そや。　こんな名誉な事ないで。
（風太）おい　戻ったで。
お帰りやす。お帰りやす。
新聞社行って慰問団の事　詳しゅう聞いてきた。
それからなごっつい助っ人　連れてきたで。
ほらほら　ほらほら！
（キース）よう　エブリバデー　帰ってきたで！
キースさん！キース！
♪～
♪「出かける時の忘れ物」
♪「ひょいとつかむ　ハンカチのように」
♪「心の中に　すべり込む」
♪「いちばん　ちいさな魔法」
♪「泣いたり　笑ったり」
♪「今日も歩き出す」
♪「ありがとうと言いたいあなたのために」
♪「ごめんねと言えないあなたのために」
♪「パレードは　まわり続けてる」
俺が　キース師匠を東京から呼んだんや。
何でや？新聞社から　慰問団には一流の芸人集めてほしい言われたさかいな。
一流芸人いうたらこのキース様がおらんと困るやろ？
はあ…　けど東京の方の高座はええんか？
ああ　東京の北村も　人気芸人どんどん育ってるよって俺が抜けても大丈夫や。ふ～ん。
おっ　こっからが本題や。
この慰問団のためにキース・アサリを再結成する。
えっ。
どや　アサリ。
オモロイやないか。　やったるで。
それから　万丈目はん。へえ。
また　歌子・キチゾーの夫婦漫才復活させへんか？
え？
わては　うしろ面と台本書きやったら喜んで　やらしてもらいます。
そやけど歌子を戦地に連れていくのは…。
心配せんでもええ。慰問団の団長は俺や。
みんなを　無事に日本まで連れて帰んのが俺の仕事や。
そやから俺を信じて　北村のために一肌脱いでくれへんか。
へえ。そしたら　歌子に聞いてみます。
そうか　頼んだで。
・♪～
・（拍手と笑い声）
楓さん？
どないしはったん？
（楓）ここで　お客さんの笑い声聞いてるとうちが　やってる事は間違うてないて安心できるんです。
・（笑い声）
楓さんは　慰問団にはやっぱり反対なん？
できたら　戦争みたいなもんに関わらん方がええんちゃうか思います。
ごりょんさんは？
みんなの母親代わりとしては心配やけど兵隊さんらに　わろてもらうためや言われたらなぁ。
すんません。へえ。
燕團治師匠の出番はこれからですか？
へえ　まだまだ間に合います。
よかった　これで聴き納めができるわ。
聴き納め？
はい。　明日　入隊なんですけど最後に　好きな落語聴きたい思て。
そうですか。それは　おめでとうございます。
おめでとうございます。おおきに。
ほな　失礼します。
♪～
（栞）専務が戦地に慰問団を送りたいから了承してほしいと言われた。
そうですか。
専務が相当　入れ込んでるみたいだが君の意見はどうなんだろうと思って。
うちは…。
お国のためや　北村のために芸人さんに戦地へ行ってもらういうんはちゃうように思います。
けど　戦地で頑張ってはる兵隊さんらにわろて　楽しんでもらうためなんやったら行くべきやないかて思てます。
そうか。
間違うてますやろか。
いや。　ほかでも　慰問団をどんどんと送り出そうとしている状況を考えれば経営者としては正しい判断なんだと思う。
ただ　国や軍部とあまり近づき過ぎない方がいい。
僕らが　何より優先すべきは大衆のための娯楽だ。
へえ　分かりました。
それじゃ。℡失礼します。
♪～
おてん様。
おトキ。へえ。
今晩　ちょっと手伝うてほしい事あるんやけどええか？
へえ。
（歌子）慰問団でうちらが夫婦漫才やる！？
うん。　そやけど断ろうと思ってる。
何で？いや…最前線に行く訳やない言うてるけどどっから鉄砲玉　飛んでくるか分からんしな。
お前は　でかいし流れ弾に当たりやすそやから。
え…　えっ　誰が　でかいて？誰？　誰？
いやいや　お前や。えっ！？いや…ちゃうちゃうちゃうちゃうちゃう。　ほらかよわい女子やさかいもしもの事があったら思て心配でなぁ。あんた　慣れん事言うもんやないで。そやな。
いや　ちゃう。そやけど　心配なんはホンマや。
行くわ。え？
うちも　慰問団入って夫婦漫才やったる。
うちは　あんたとやったらどこへでも行く。
一緒になった時からその覚悟は　できてるんや。
歌子…。
あんたくらい頼んない人はおらんからな。
１人で行かす方が心配や。
かよわい女子やけど愛しい　あんさんのためやったら弾よけにでも何でもなったげまひょ！
おおきに。
ほな　まずは　漫才のお稽古からや。
これからか？ここんとこ　あんまりどついてないさかいまずは　どつきのお稽古からや。
やめてぇな。
♪～
仕事で疲れてんのに　堪忍な。
いいえ　おしめ縫うん久しぶりですさかい懐かしいわ。
だいぶ　できたな。ちょっと　お茶でも　いれよか。
隼ちゃんと　つばきさん喜ばはるやろな。
すんまへん。
アホな意地張ってると思うかもしれへんけど…。
この　おしめうちが　お預かりして知り合いの若夫婦にでも送ってやります。
頼むな。へえ。
・（戸の開閉音）・（風太）邪魔すんで～。
どこや　お母ちゃん。お母ちゃん　どこや　どこや。
ほら　おった。おった　おった　おった。
お母ちゃんと寝る言うてきかへんのや。
堪忍な　飛鳥ちゃん。
飛鳥　どないしたん？自分勝手なお父ちゃんより優しいお母ちゃんの方がええんか？（飛鳥）うん。
「うん」て…。そうか。　おいで。
何や　お前　まだ怒ってんのか。
ん？別に　怒ってへん。
ちょっと　話があるんやけど…。
その…　慰問団の事で。
何や？
この話　お受けしてもええ思てる。
ホンマか！
今日　もうすぐ入隊するさかい落語の聴き納めやいうて若いお客さんが来はったんや。
そういう人らのためになるんやったら行くべきやないかて。
そう。　そや。
兵隊さんらを笑わしてやれんのは俺らだけや。
芸人らも　その事はよう分かってるさかい行く言うてんねや。
楽しみに待ってはる人がいるんやったら戦地でも　どこにでも行かしてもらいましょ。
おおきに。
な！　どや？　おトキ。
会社やお客さんのため言われたらしゃあないわ。
堪忍な　おトキ。
そのかわり必ず　無事で戻ってきてや。
そやないと　承知せえへんで。
当たり前や！
新聞社行って　慰問団が行くとこ皆　調べたけど戦場から遠いとこばっかりや。おい　大丈夫や　安心せえ。
なあ　飛鳥。　お母ちゃんとちょっとの間　待っててな。
うん！よっしゃ。
風太　おトキと飛鳥ちゃんの事はうちに任して頼んだえ。おう！
♪～
我々　北村笑店のわろてんか隊陣中演芸慰問の重大使命を果たしてまいります！
（拍手）
（亀井）皇軍の武運長久とわろてんか隊の成功を祈ってバンザイ！（一同）バンザイ！
（亀井）バンザイ！（一同）バンザイ！
では　行ってまいります！
（拍手）
北村笑店の慰問団　わろてんか隊は上海に向かいました。