いつからか、自分の生活をできるだけ全て記録したい、と思うようになった。
自分の日記を5年後や10年後に読み返すのは楽しい。あとで振り返って楽しむために自分の人生のいろいろを記録しておきたい。
そう思って、その日に起きたことや考えたことを些細なことでもできるだけブログやツイッターに書いておくようになった。スマホで撮った写真は全て自動的にクラウド(Googleフォト)に保存して、写っている人間や撮った場所ごとに分類されるようにしている。
読んだ本は読書メーターというサービスに記録するようにしているし、スマホやパソコンから聴いた音楽はLast.fmというサービスに自動的に記録されるようにしてある。この十数年間、自分が聞いた音楽が記録されているので、「どの曲を多く聴いているか」とか「どのアーティストを多く聴いているか」というランキングを見ることができてすごく楽しい。
一日の行動も、GPS付きのスマホを使って、自分がある日にどういうルートで街を動き回ってどの店に立ち寄ったかを全て記録している(Googleマップのタイムライン機能)。買い物も、クレジットカードで買ったものは全て記録が残るので何月何日に何を買ったかがあとで全て調べられる。
一日の歩数や心拍数の変化、睡眠時間を全て記録するための機械(Mi Band)を腕に装着していたこともある。だけどこれは、僕がもともと腕時計などを付け続けるのが苦手なのでやめてしまった。本当は記録したかったのだけど。
記憶はすぐに消えてしまうけれど記録は消えない。その日に何を考えてどういう行動をしたかは記録をしておかないとすぐに忘れてしまうけど、記録があればそれを手がかりに思い出すことができる。ネット上に自分の行動の記録を残していくことは、自分の生きた証を積み重ねているような実感がある。
しかし、ネットへの投稿があまりにも身近になりすぎて、いつもそれを気にしてしまっているような気もする。
何か日常で変わったことがあるたびにツイッターに投稿するネタになるかどうかを考えてしまう。旅行に行ってもどういう写真を上げれば一番「いいね」が付きそうかを考えてしまう。店でメニューを選ぶときも一番インスタ映えがしそうなものを選んでしまう。
明らかにネットの存在が、自分の行動や選択に影響を与えている。ネットがなかった頃は、自分はどういうことを考えて毎日を過ごしていたのか、どういう旅行をしてどんなものを店で注文していたのか、もうわからなくなってしまった。
中島敦の「文字禍」という小説を思い出す。文字を覚えたことで人間は、世界をありのままに感じることができなくなったのではないかという話だ。ネットを覚えた自分にも同じようなことが言えるのかもしれない。
獅子といふ字は、本物の獅子の影ではないのか。それで、獅子といふ字を覺えた獵師は、本物の獅子の代りに獅子の影を狙ひ、女といふ字を覺えた男は、本物の女の代りに女の影を抱くやうになるのではないか。文字の無かつた昔、ピル・ナピシュチムの洪水以前には、歡びも智惠もみんな直接に人間の中にはひつて來た。今は、文字の薄被をかぶつた歡びの影と智惠の影としか、我々は知らない。
記憶は消えるが記録は残る。しかしどちらにせよ死んで100年もすれば自分の生きた痕跡はほとんど消えてしまうだろう(ネット上に残っていたとしても誰も見る者がいなければ消えたのと同じだ)。
残るものしか意味がないとしたら、自分が生きていたということは全てむなしいということになってしまうのだろうか。そんなはずはない。忘れてしまっても、記録に残っていなくても、自分が何かを感じて生きているということには意味がある。消えてしまうものにも価値はある。ネットに上げなくても自分がその日したことは無意味にはならない。
自分がネットなしだと何を考えて何に興味を持つのかを思い出すために、一年のうち二週間くらい、全くネットに触れずに過ごしてみるべきなのかもしれない。なかなか怖くてできないけれど。とりあえず、風呂に入るときもスマホをジップロックに入れてずっとネットを見続けるのをやめてみるか……。
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家を出て街に遊ぶ。
お金と仕事と家族がなくても、人生は続く。
東京のすみっこに猫2匹と住まう京大卒、元ニートの生き方。
世間で普通とされる暮らし方にうまく嵌まれない。
例えば会社に勤めること、家族を持つこと、近所、親戚付き合いをこなすこと。同じ家に何年も住み続けること。メールや郵便を溜めこまずに処理すること。特定のパートナーと何年も関係を続けること。
睡眠薬なしで毎晩同じ時間に眠って毎朝同じ時間に起きること。
だから既存の生き方や暮らし方は参考にならない。誰も知らない新しいやり方を探さないといけない。自分がその時いる場所によって考えることは変わるから、もっといろんな場所に行っていろんなものを見ないといけない。
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