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（てん）うちらから提案があるんです。
四郎さん　高座でしゃべるのやめまへんか？
（四郎）え？四郎さんがあえて　しゃべる事ない。
しゃべくり漫才やのうてしゃべらん漫才　やるんです！
しゃべらん？
（リリコ）漫才？
えっ　しゃべらんて　どういう事？
あ…　ああ　ご心配なく。
あの台本　最後まで　つっかえんとしゃべれるようになりましたから。
ああ　そういう事やのうてあえて　しゃべらんのです。
よう　意味が…。
四郎は　しゃべらんとうちだけが　しゃべるいう事か？
はい。
漫才大会の時も　そうでしたけどミス・リリコ　アンド　シローの高座でお客さんが　わろて

はったんは四郎さんが　つっかえてたとこや。
そやさかい　あえて　四郎さんがしゃべらん漫才にしたら面白いんやないか思て。
それ　本気で言うてんの？
うちも四郎も　漫才師やで。
しゃべって　なんぼのもんや。それを　しゃべるなて。
僕だけが　しゃべらんとオロオロして困ってるとこアホみたいに笑われとけっちゅうんですか

。
いや…。
（楓）あれは　バカにされて笑われたんやありません。
思いも寄らん事が起きた時の四郎さんの姿が可愛らして。
同じ事です。
失礼します。
あ…。
うちも反対や。　四郎は　必死でしゃべくり　稽古してる。
それを　むげにはでけへん！
待って！
僕は　しゃべくり漫才　続けるで。
ミス・リリコ　アンド　シローを必死に売り出そうとしてきた仲間たちに大きな溝が　できてし

まいました。
♪～
♪「出かける時の忘れ物」
♪「ひょいとつかむ　ハンカチのように」
♪「心の中に　すべり込む」
♪「いちばん　ちいさな魔法」
♪「泣いたり　笑ったり」
♪「今日も歩き出す」
♪「ありがとうと言いたいあなたのために」
♪「ごめんねと言えないあなたのために」
♪「パレードは　まわり続けてる」
「アコーディオンは　うまいんですよ」。「引き立て役て」。
「シローです。アコーディオンは　うまいんですよ」。
「こんな顔て」。
「シローです。アコーディオンは　うまいんですよ」。
「こんな顔…」「こんな顔て」。
リリコさん　四郎さん　よろしいか？
「たたきなさんな」。
「せやけどなかなか評判の声ですよ」。
昨日は　急に　あないな事言うてすんません。
社長　見といて下さい。
必ず　高座で笑い取ってみせますさかい。
僕は　意地でも　しゃべくり漫才ものにしますさかい。
「ちょっと　一曲歌うてみて下さい」。
「事実…」　「事実て」　「事実て」。
「引っ張りな」。ひ…　「引っ張りな」。
さ　向こうで稽古しようか。
はあ～　しゃべらん漫才…。
（万丈目）何や　ため息ついて。台本か？
編集長　１人しかしゃべらへん漫才の台本て　どう思います？
それは　漫才の台本やないな。漫談や。
１人しか　しゃべらへんのやったら２人でおる意味がないわな。
そうですよね。うん。
漫才の台本っちゅうのはコンビ２人いてこその魅力をちゃ～んと引き出してやらんとええ台

本とは言われへんわなぁ。
何で？
あ…　いえ。
（隼也）あっ　専務。今　ちょっと　よろしいですか？
（風太）何や？見せたいもんがあるんです。
何や？　これ。
キース・アサリ師匠の似顔絵饅頭です。
試しに作ってみたんですけどどうです？
お前が考えたんか？アメリカやと…　いや海外の劇場やと　売店の売りもんがもっと　いろ

んな種類があってにぎやかなんです。そやから　社長らが考えてる雑誌やお弁当　ぜんざ

い化粧品なんかと一緒に売ろ思て。
どうですやろ？
オモロイやないか。ものは試しや。　やってみるか。
おおきに！
いや～　うち　下手やも～ん。
たたきなさんな。　せやけどなかなか評判の声ですよ。
いえいえ　そんな事ありますわ。え～っ　あるんかい！
事実ですわ。じ…　事実て。
あなたのお顔はね丸みが帯びてますから優し～く見えますよ。こんな伸びるし。
痛い痛い　痛い痛い！引っ張りな。
どや　完璧やったやろ。
そやな。
もっと稽古して　君との掛け合い盛り上がるよう　頑張るわ。
「引っ張りな」　「引っ張りな」。
「自分で言いますか。けど　随分　ケンがあるな。骨張って　筋張って　お気の毒」。
「自分で言いますか！けど　随分　ケンがあるな。骨張って　筋張って　お気の毒」。
「重たい口で」。　「お気の毒」。
「重たい口で」。おうおうおう何や　こんな時間まで。
精が出るな。
うまならんとしゃべらせてもらえませんから。
ん？
社長から　リリコさんがセリフ　み～んな　しゃべって僕が　しゃべらん漫才やったらどうや

言われまして。
しゃべらん漫才？
ひどい話でっしゃろ。
や…。
しゃべらんのやったら相方は　僕でのうてもええっちゅうこっちゃ。僕は　ピエロみたいに笑

われとけっちゅう話です。
まあまあ　まあまあ社長は　そんなお人やない。
明日　俺から話してみるさかい。な！
聞いたで　四郎に。
しゃべらん漫才や。ああ…。
芸人に　しゃべるな言うたら立つ瀬ないやろ。
うちは　しゃべるんばっかりが漫才ちゃう思ただけや。
四郎さんには　四郎さんに合うた漫才があるはずえ。
漫才は　しゃべくりがオモロイねや。
それにな　あいつがやりたない言うてるもんそんな　無理強いできひん。
あいつら　俺に預けて一から鍛え直したるさかいここらが引き時やないか？
（トキ）何やの？　それ。いや　もう　それこそ女子らの道楽やなんやって言われてまう。
誰が言うてんの？　そないな事。
またや。そやから　言われてまうて…。
大体　あんたの言う漫才て　何？はい　きましたよ。
自分が守ってきた漫才の事やろ。おお　おお　怖っ　怖っ。
今までの形にばっかり　こだわって頭カチカチ　顔もコチコチや！
そんな言うの？　なあ。ホンマに好き？　俺の事　なあ！
俺はな　お前らの事を思て言うてんねや！お前らの事？
だから　あんたは　いつまでも頭がカチカチなんや！
飛鳥に　うつったらどないすんのや！
うつるか　そんなもん飛鳥ちゃん　一生かわいいままや！
イタタタッ　もう　やめろって！
何や！お父ちゃんと　お母ちゃん仲ええな。（飛鳥）うん。アホ！
さっさと仕事行け！
あっ　取れた！　耳取れた！
うんうん　うんうん。え？
やっぱり面白いわ。　夫婦ゲンカ。
は？
なあ　風太もうちょっと待ってくれへん？
なんとかするさかい。
お待たせしました。
この前は　リリコさんと四郎さんの気持ちも考えんとホンマに　すんませんでした。
うちらの方こそ　悪かったな。
けど　うちは　いい加減な気持ちで言うたんやない。
ホンマに　新しい漫才ができる思うんや。
しゃべらん漫才。へえ。
ミス・リリコ　アンド　シローにしかできひん漫才です。
しゃべらん漫才やったら四郎さんの魅力をもっと引き出せる思うんや。
な！　しゃべらん漫才に賭けてみまへんか？
まだ　どんなものができるか分からへん。
けど　うちや楓さんや　みんなを信じてもらえまへんやろか。
確かに新しいわ。
しゃべらん漫才。
四郎と話してみる。
おおきに。よろしゅうお願いします。
どないした？　食べへんの？
なあ　しゃべらん漫才やけど…。
ものは試しいっぺん　やってみたらどうやろ。
え？
正直　このままやったら　あんたがどんだけ　うまなってもアカンかもしれん。
あんたがうまなったら　うまなるほどお客さんが　わろてくれへん。
なあ　いっぺん　やってみよ。
これが　ウケたらお金も儲かって　ドイツにも行ける。
何やねん　それ。
え？
君は　僕が　金だけのために漫才　一所懸命　頑張ってる思てたんか。
え？
僕は僕なりに　真剣に芸に向き合うてきたつもりや。
君だけは　分かってくれてる思てたのに。
君まで　僕の事バカにしてたんか思うと悔しいわ…。
そんな事…。君まで　僕の事笑いもんにしたいんやったら…もうええ。　やめたる！
解散や！
（ドアが閉まる音）