離婚や不倫の慰謝料も高額化!
「儲けさせていただける」
実際に司法は“軽く”なってきている。大企業が気に入らない言論を封じる目的で高額の訴えを起こすことで知られ、恫喝訴訟とも呼ばれる「スラップ(SLAPP)訴訟」の増加はもちろん、一般市民同士の諍い事でも、高い訴額を設定する人が増えた。隣人のクルマのバックミラーをうっかり傷つけたら、600万円をいきなり請求される、というような、驚くような損害賠償請求を目的とする示談交渉も出てきている。
一概に言い切ることはできないが、日本の裁判では「どんなに負けても、訴えた額の10分の1は取れる」(大阪弁護士会所属弁護士)というのがよく知られたところである。ならば、訴える側は「訴える相手から取りたい額の10倍の額」を訴額に設定することで、慰謝料を取ろうという考え方をする弁護士が出てきたのだ。
「欧米型の劇場化訴訟を真似ているのでしょう。でも、相手が無資力ならば、高額訴訟をしても、訴える側は何の利益も出ません。そうした依頼者の利益を本当に守っているとは、到底、思えません」
関西の弁護士会で副会長経験のある弁護士は、スラップ訴訟や高額訴訟を起こす弁護士たちに、こう眉を顰める。続けて、こうも語った。
「依頼者に成り代わって、その鬱憤晴らしに付き合うのが弁護士だとするならば、この職業も随分と軽いものに成り下がってしまったものだ。そういう法曹が出てきたのは、やはり新試験以降です。弁護士の権威が地に落ちた今、法曹制度養成から考え直さなければならない」
だが、この高額訴訟化の流れが、弁護士業界の活性化につながっているという現実もまたある。東京弁護士会に所属する、「ヤメ判」と呼ばれる元裁判官の弁護士は、その現状を次のように語る。
「たとえば離婚訴訟で慰謝料請求額は500万円とか、不倫事案で800万円とか…、実際にどのくらいの弁護士料を取られているのかはわかりません。でも、訴えられた側の代理人として、そうした高額訴訟に当たったとき、率直に言って、ちょっと『儲けさせていただいた』という気持ちになるのは偽らざるところだ」
弁護士費用は、訴額が高ければ高いほど、高く設定される。弁護士費用は2004年に自由化されたのだが、今でも民事裁判では「訴えるモノの額(訴額)」に対していくら…という目安を用いている弁護士は少なくない。その目安としてもっともポピュラーなものが「旧日本弁護士連合会報酬基準」だ。
たとえば、訴額1000万円ならば、着手金は「5%+9万円」で59万円となる。勝訴判決、もしくは勝訴的和解を得たならば、これに成功報酬が上乗せされる。
だから、訴額がやたらに高い案件で訴えられた側からの依頼は、弁護士にとっての利益となるのだ。