憎い相手からはとことんむしり取る!
鬱憤晴らしに利用される弁護士

「弁護士さんに間に入ってもらって裁判には至りませんでした。でも、莫大な慰謝料を支払うことになりました。確かに、私たちのしたことは褒められたことではありません。でも、職場の不満を書いただけで名誉毀損の損害賠償というのは、どうにも腑に落ちません」

 Aさん夫婦は毎月、分割で数万円の慰謝料を経営者に数年支払うことで和解したと話す。

 だが、この事件がもとで勤務先を辞め、日雇い労働で生計を立てることになったAさん夫婦は、毎月数万円の慰謝料を支払うことで困窮を極めた。そこで消費者金融から借り入れをしていたが、その支払いも滞るようになったという。

「どうにも支払えないので、弁護士さんにお願いして債務整理してもらうことにしました。インターネットでの書き込みの件も免責(借金をチャラ)となったのですが、ここでまたトラブルが起きたのです」

 Aさん夫婦によると、インターネット書き込み時の相手方の弁護士から、「これは非免責債権である」と弁護士を通して伝えてきたという。たとえ自己破産しても免責されない債権、つまり、「破産しても、払え」という主張だ。

 まだまだ弁護士の数が少ない時代であれば、そもそも他人に悪口を言われた、書かれたという事案で訴訟したりすることもなかったという。たとえ勝訴判決を取ったところで「紙屑判決」、一銭もカネが取れない案件だったのだ。一般に弁護士は、「自分の依頼者が、みすみす経済的損失を被ることが分かっていて訴訟や示談交渉を進めることは良しとしない」(愛知県弁護士会所属弁護士)傾向がある。

 ましてや自己破産した相手に、「非免責債権」を主張、さらに追い込みをかけるなどという行為は、「司法の場を依頼者の鬱憤晴らしに用いることに等しく、破産者の経済的更生を妨げる行為」(前出・同)として、元来、あまり行われることはなかったものだ。

 しかし、こうした傾向は近年、変わりつつあるという。前出の愛知県弁護士会所属弁護士は、その背景を次のように解説してくれた。

「弁護士のサービス業化は同時に、訴訟のビジネス化を招いた。本来、訴訟には馴染まない事案を、依頼者心理にのみ寄り添い、これを法的紛争として弁護士料を得るというビジネスモデルだ。こういうことが続くと弁護士、ひいては司法が軽くなってしまう」