“完璧”なインスタグラムへの違和感 いま求められる“リアル”の定義
お笑いタレントの渡辺直美が、「インスタ映え」をもじった「#インスタ萎え」というハッシュタグとともに「好きな人に絶対見られたくない写真ナンバー1、2」と称する写真をインスタグラム(INSTAGRAM)に投稿し、新年早々反響を呼んだ。渡辺直美はフォロワー数750万を誇るインスタ女王だが、「エス カワイイ(S Cawaii!)」の1月号のインタビューでも「インスタ映え」にモノ申しており、「みんなインスタ映え、インスタ映えって言うけどわたしははそういうの好きじゃない。もう、インスタ蝿に変えちゃわない!? ウルサイッ!みたいな意味で(笑)」と語り、そのわけを「わたしが旅行をしたりディズニーランドに行くのはインスタのためじゃない。楽しいことがしたいから!思い出を切りとったのがインスタだと思うんです。だから写真の中の自分が本当に楽しんでないと意味がない!」と説明している。
「インスタ映え」や不自然に“完璧”なフィードに疑問を感じているのは渡辺直美だけではないようだ。インスタグラムのファッション・パートナーシップス部門を率いるエヴァ・チェン(Eva Chen)は、「ここ1年ほど、多くのトップアカウントやインフルエンサーを見てきて思うのは、最近は、美しく完璧な写真でも以前ほどパフォーマンスがよくないということ。ユーザーは昔も今も意識が高い画像が好き。でも、そのユーザーはその背景やそのもととなるようなストーリーを聞きたがっている。完璧は退屈。ジェーン・バーキン(Jane Birkin)やケイト・モス(Kate Moss)がスタイルアイコンであるのと理由は同じよ」と語る。
今のユーザーの需要を汲み取り、SNSに投稿するイメージでストーリーを伝えるのがうまいアカウントとしてエヴァが例に挙げるのは、「アレキサンダー マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」のようなブランドから「ヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA'S SECRET)」のモデルで脊柱側弯症を抱えるマーサ・ハント(Martha Hunt)、美容スタートアップ、グロシエ(GLOSSIER)の創業者で、女性のダイバーシティーをサポートする「#bodyhero」キャンペーンを立ち上げたエミリー・ワイス(Emily Weiss)までさまざまだ。中でも、「タサキ(TASAKI)」のクリエィティブ・ディレクターに就任したプラバル・グルン(Prabal Gurung)を高く評価し、「彼は『プラバル グルン』のランウエイを歩いたほぼ全てのモデルにスポットライトを当てていた」と説明。プラバル・グルンはコレクション発表時に、ランウエイに登場したモデルをなぜ起用したのか、モデルがどんなインスピレーションを与えてくれるのかをSNSの投稿でそれぞれ説明していたという。
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SNSマネジメントツール、スプラウトソーシャル(Sprout Social)のコンテンツ・ディレクター、リズ・カネンバーグ(Lizz Kannenberg)は、ユーザーは好きな企業とこれまで以上に繋がりたいと思うようになったと、ユーザーの志向変化を指摘。また、ユーザー作成コンテンツ(User Generated Content以下、UGC)やファンがそのありのままの生活を投稿した画像が注目されてきていることが、こうしたユーザーの志向変化と関係しているという。UGCをうまく活用している例としてカネンバーグが挙げるのは、「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」のキャンペーン、「What’s in your Kors?(あなたの「マイケル・コース」には何が入っている?)」だ。「インスタグラムでトレンドになっていた自分のバッグの中身を紹介する『What’s in your bag?(あなたのバッグには何が入っている?)』を利用し、ユーザーに『マイケル・コース』のバッグの中身を紹介させ、ファンの間でコミュニケーションをとる小さなプラットフォームを作り上げた。UGCはファッションブランドのSNSの未来よ」とカネンバーグは明言する。
「エル(ELLE)」「ハーパーズ バザー(HARPER'S BAZAAR)」「コスモポリタン(COSMOPOLITAN)」などを発行するハースト(HEARST)のチーフ・ビューティ・ディレクター、リア・ワイヤー(Leah Wyar)は、「インスタグラムの美しく整えられたフィードや画像が“本番”とするなら、24時間で消えるインスタグラム ストーリーは“オフショット”。だからこそインスタグラム ストーリーは成功した。“リアル”な写真に“リアル”なストーリー、たくさんの人がインスタグラム ストーリーを見るのに多くの時間を割いている。私もタイムラインを見る時間よりもストーリーを見る時間の方が長いわ」と明かす。今のユーザーは、ストーリーでゴージャスなモデルがファストフードをがつがつ食べようがはなをかもうが、その状況を楽しんでいるようだ。
立ち上げ時から“リアル”であり続けてきた元祖24時間で消えるSNS、スナップチャットは、現在は1日あたり1億7300万人のアクティブユーザーを抱えるまでに成長した。スナップチャットのパートナーシップ・ディレクターであるベン・シュウェリン(Ben Schwerin)は、「インターネットとカメラやスマホが離れていた時代は、撮った写真の中からベストなものを選んで保存していたけれど、今では写真や動画が会話と同じような機能を持つようになってきた」と話す。またファッションショーのフロントローには座れなくても、写真や動画を通じてまるでその場にいるように感じることができるようになったように、写真や動画によってファッションが民主化されたとして、「今までのやり方だったらファッションといえば雑誌の表紙や動画だった。だが今は、人々のパーソナリティー、感情、背景を考えないといけない。そうしないと若者の共感を得ることはできない」と語る。
インスタグラムはケビン・シストロム(Kevin Systrom)創業者の足とゴールデンレトリーバーの写真から始まったという。設立から8年が経った今、インスタグラムは原点回帰のときを迎えているのかもしれない。