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（隼也）お母ちゃん。（てん）ん？
今日　僕も学校の帰りに　病院寄るわ。
おおきに。
いや　お父ちゃんに話したい事があるんや。
そうか。
うん。
♪～
♪「出かける時の忘れ物」
♪「ひょいとつかむ　ハンカチのように」
♪「心の中に　すべり込む」
♪「いちばん　ちいさな魔法」
♪「泣いたり　笑ったり」
♪「今日も歩き出す」
♪「ありがとうと言いたいあなたのために」
♪「ごめんねと言えないあなたのために」
♪「パレードは　まわり続けてる」
（トキ）岩さんどないしはりました？
（岩さん）また　出番少ないな思て。
（アサリ）岩さん不景気な面してんなぁ。
あんたらと違て　ここんとこ高座が減って暇なんや。
けど　月給やから食うには困らんやろ。
そやけどな…。（風太）どないなってんのや！
おい　どこにもいてへんてどういうこっちゃ！
団吾師匠　どこ行ったんや！（イチ）すんまへん！
師匠　ラジオなんか出てどないするつもりや。
お客さん　ラジオに取られて自分の首絞めるだけやろ。
（キース）俺はラジオに興味あるで。
え！新しいもんに反対ばっかりしてたらせっかくの好機を逃してまう。俺らも　ウカウカしてられんで。
アカン　アカン　アカン　アカン　アカン　おい！お前まで　何を言うてんねや！
おい！　おい！　おい！
あの…おトキちゃん　怒ってないで。
ここに　貼り紙　貼っとけ！え？
「北村の芸人はラジオの出演を禁ず」ってな。
師匠　捜してくるわ。あとは頼んだぞ！
おはよう　お帰りやす。
ところで　大番頭さんとはどないなってんね～ん。
どないって？もう～。
あいつの事　好きなんか嫌いなんかどっちや。
あんたらに関係あらへん！
痛～っ。
堪忍。
（藤吉）心配かけて　すまなんだ。
（歌子）元気にならはってよかったわ。
（万丈目）ホンマ　よかった。おおきに。
東京の方は　どやった？
へえ　お客さんのウケも　ようて。
わたいが　この人の頭パ～ンと張るたんびにド～ッと笑いが来て。パ～ン　ド～ッ　パ～ン　ド～ッ！
今　ここでせんで　ええねん！もう…。
向こう　おる間　ず～っとたたかれまくりましたわ。
そら　災難でしたなぁ。ええ。
けど　東京行かせてもらってホンマに　よかったですわ。
レビューやら軽演劇やら　新しい芸をようさん見せてもうてホンマに勉強になりました。そうか。
わてらの万歳も　何か　こう新しい事せなアカンなってそう思いました。これ　向こうにおる間に新しく書いた万歳のネタなんですけど見てもうてもよろしいでっしゃろか。
ああ　万丈目はんが書いたんか。へえ。
あっ　こない　ぎょうさん書かはったん？　すごいなぁ。
何や　これ。　オモロイなぁ。
あんたら夫婦の会話そのまんまやないか。
社長　いややわ！うち　ふだん　この人にどなったりなんかしてまへんで。なあ！
そやな。
万丈目はん　すごいなぁ。新しい事しよ思うやなんて。
いや　こんな年になってやっとで恥ずかしいけどな。
社長も　せっかく命拾いしはったんやから死んだ気になって　新しい事やった方がええと思います。
アホ！　死んだ気ぃやなんて。
すんません！すんまへん！いや。
そのとおりや。
これからが北村笑店の正念場やからな。
へえ。
ご苦労さん。団吾師匠は　まだ来ぃひんか。
まだです。そうか。
朝から張り込んで　腹減ったやろ。おおきに。
だんごでっか。おお　シャレや！
だんご食うて団吾を捕まえんねや。
ああ…。シャキッとせえ　アホ！
すんまへん！すんまへん！
これは　北村笑店がのるかそるかの一大事や。
団吾師匠　中に入れたらアカンぞ！体張って止めるんや。　ええな！
へえ！へえ！
団吾師匠が出るんやったら今晩から放送の「ラジオお好み演芸」や。今晩８時か。
よう　知ってんな。
まあな。
まあ　まあ　まあ心配せんでも大丈夫や。
ラジオ局には　ゆうべから社員を張り付かせて見張らしてるさかい。師匠が現れたら捕まえたるわ！
風太はうどんと　そば　どっちが好きや？
何や　そんなんうどんに決まってるやん。
師匠は　そばが好きらしい。
何や　それ！
実はな　ゆうべ　団吾師匠がここに来たんや。
え？
師匠がラジオに出たら　寄席にお客さん　来んようになるからやめてくれ言うたらなそんなオモロないもん見せてるから寄席に　客来ぇへんのや言うて。
今夜が　新しい時代の幕開けや言うて　帰っていきはった。
おうおう　おうおうそんな言いぐさにだまされたらアカンぞ！
俺な　三途の川の手前まで行ったんや。
へ？
けど　後ろの方から　ワッハッハて大勢の笑い声が聞こえてな。
何や　オモロそうな事やってるんやったらちょっと見たろ思て戻ったら目ぇ覚めた。
ほんでな　思ったんや。
もっともっと世の中に笑いを広めるために新しい事にも手ぇ広げなアカンちゃうかってな。
いや～　アカン　アカン　アカン　アカン　アカン。俺らは　もう何百人もの芸人や社員を食わしていかなアカンのやぞ！
そやけどなぁ。社長が　そんな坊さんの説教みたいな事言うてどないすんねや！
おう　ラジオ　絶対アカンぞ！あ～　もう　うるっさい。
何や　それ！何や　またケンカなん？
ちゃうちゃう　ちゃうちゃう。おお　隼也。　お父ちゃんな長い事　病院におってふぬけてるからガツンと一発　励ましたってや！頼むで　もう！
うん。ほな　ラジオ局　行ってくるわ。
おう。気ぃ付けてな。おう！
ほなな　隼也！うん。
全く…。
藤吉はん隼也が　話があるそうです。
何や。
僕　勉強して　大学行きます。
あんた　冒険したかったんとちゃうの？
冒険？そや。
けど　お父ちゃんが倒れてそれでも　歯食いしばって頑張るお母ちゃん見てそん時　初めて　気ぃ付いたんや。
跡継ぐとか　継がんとか自信がないから逃げてるだけかもしれんて。
僕にとって　一番の冒険はお父ちゃんの跡継いでお父ちゃんを超える事や。
そやから　まずは　勉強して大学行こう思うねん。
♪～
分かった。
そやけどなまはんかな仕事ちゃうで。
はい。それこそ毎日が冒険や。
お前に　北村笑店継ぐ資格ない思たらなあっさり放り出す。
分かってる。
勉強して　大学行ってそれでも　これこそが男の一生の仕事や思たら北村笑店　継いでくれ。
はい。
♪～
よかったな　隼也。
おおきに。
♪～（ラジオ）
もうすぐ８時やで。
師匠　どないなったんやろ。
連絡ないとこ見るとまだ　現れてへんのとちゃうか？
いや　そんなはずあらへん。
あと１０分や。見逃してへんやろな。
瞬き一つせんで　見てました。
ほんなら　おじけづいて諦めたんや。
放送中止や。
そうでんな。ええ。
じゃ　事務所戻るわ。最後まで　気ぃ抜くなよ！
へえ！へえ！
どないなりましたやろ。ああ　心臓に悪いわ。
（ラジオ・アナウンサー）「８時になりました。皆様　こんばんは。本日から始まりました『ラジオお好み演芸』のお時間です。この番組は人気の芸人さん方をお迎えしその名人芸を存分に　お楽しみ頂きます」。
何でや　放送始まってんのか。普通に。
「月の井団吾師匠の独演会です」。
どういうこっちゃ！？
（ラジオ・アナウンサー）「師匠よろしくお願い致します」。
♪～（出囃子）
（団吾）こんばんは。ラジオをお聴きの皆さん月の井団吾でございます。
風太　うまい事いかへんかったんやろか。
分からん。
近頃　ラジオっちゅうもんができまして。　ああ　これでんな。わしが　今　しゃべってんのがラジオですわ。お茶の間のラジオの箱ん中にちっちゃい　わしが入っててしゃべってんのと　ちゃいまっせ。わしは　今京都の放送所からしゃべってまんねん。
京都の放送所から流してるやて…！？
京都やて！？さすがやな　師匠。
大阪から放送する思てたお客さん方当てが外れましたな。
けど　大阪のお客さんにもよう聞こえるようおっきな声で　しゃべりますんで堪忍しとくなはれや！
やられた！
こりゃ　風太も　一本取られたなぁ。
さすが　団吾師匠や。（団吾）ラジオっちゅうんは妙なもんですなぁ。　こうやって寄席で　しゃべってるとドッと　お客さんの笑いが起きるもんやがわしには　全く聞こえまへん。
皆さん　お茶の間でわろてはりますか？
えっ　腹が　よじれてる？ホンマや！…っちゅうのも見えへんのですわ。しかし　ラジオと聞くとむやみやたらに怖がる頭の古いお人がいはるもんで…。
誰が頭古いや　こら！（団吾）新しいもんちゅうんはやっぱり　分からんから怖いんですな。箱　箱。
（団吾）例えば　写真。　あれかて昔の人は　魂抜かれる～って怖がったもんです。
それが　今や　死んだオカンの顔拝めるんは写真のおかげですわ。ありがたいこっちゃ。
ナンマンダブ　ナンマンダブ。
え？　悪さしたら　写真のオカンが化けて出てくる？
そら　あんた　夏は　ヒヤッと涼しなって　よろしいな。まあ　写真でもラジオでも新しいもん怖がるんは分かりまっけどわしは　そら　もったいない話やと思うんですわ。何より　怖いいうたら死ぬ事でんな。ホンマに魂抜いてきよりますのが死神っちゅうやつでして。なんとも　縁起の悪い噺におつきあい頂きます。