からだの特徴

豊かな海水域で誕生した魚類は生存と進化競争を繰り返し、硬骨魚の祖先は体表面を重厚な硬いウロコで覆い、硬い棘のヒレ、遊泳性の骨格と流線型の体型に進化しました。 しかし強力な顎や歯を持つ捕食者には太刀打ちできず、逃れるように大陸内部に移り住んだグループが現れます。 大陸の河川は、少し前の時代に陸上進出を果たしていた植物によって、湿地帯が延々と続く熱帯雨林のアマゾン川流域のような世界ができあがっていました。

現生する硬骨魚のうち条鰭綱は3つの亜綱に分類され、ポリプテルスは 1目1科で腕鰭(わんき)亜綱を構成し、両生類へのミッシングリンクともなる肉鰭綱の特徴と、遊泳性を身に付けた条鰭綱の特徴、どちらも兼ね備えているところが特徴となっています。 大陸内部に移り住んだ祖先から分岐した初期段階の条鰭綱と考えられていますが、いつ頃 どの魚類群から派生したのか詳細までは解明できていません。

ウロコ

ガノイン鱗
俊敏な遊泳を身につけていなかった初期の硬骨魚は防御手段として、歯と同じくらい硬く同様の構造を持つ厚さが2㎜ほどの硬鱗(こうりん)と呼ばれるウロコで体表面を覆っていました。 硬鱗は、その構造からコズミン鱗(cosmoid scale)とガノイン鱗(ganoid scale)に分類することができます。
コズミン鱗の構成は、表面層に歯のエナメル質に似た透明で硬い光沢のあるエナメロイド層、歯質に似た象牙質のコズミン層、海綿状で脈管を含む多孔性骨質層、下層部に層板状骨質のイソペディン(ispedin)層となっています。 特にコズミン層が厚いことからコズミン鱗と分類されています。総鰭綱(シーラカンス類)・肺魚綱がコズミン鱗ですが、現生種は ほぼ進化・退化しています。
ポリプテルスのウロコ
コズミン鱗から進化したガノイン鱗の構成は、表面層にエナメロイド層、中層に顕著な脈管系を伴う歯質層、内層は多数の脈管が横走する層板状骨質のイソペディンからなり、コズミン層が退化したことが分かります。 1つのガノイン鱗は菱形ですが、ウロコ同士が前縁の関節突起で強固に連結、その表面を粘膜質の表皮が重なり皮膚と同化してるため、剥がれることのない一続きの重厚構造になっています。
初期の条鰭綱
ウロコ化石
Lepidotes sp.
ウロコの成長は内層と外層の全体が同心円状に大きさを増していくため、ウロコ乱れがなおることがありません。 このように頑丈なガノイン鱗は捌いて食べようにも包丁くらいでは歯が立ちませんが、火を通すと くさりかたびらを脱ぐように あっさり取れるらしいです。
ガノイン鱗にはコズミン鱗のような構造を持つパレオニスクス鱗が含まれています。 デボン紀後期に繁栄した条鰭綱 軟質下綱 パレオニスクス目(Palaeonisci)の特徴的なウロコで、エナメロイド層とイソペディン層との間にコズミン層に似た層があります。 現生種では腕鰭綱 ポリプテルスのみパレオニスクス鱗を持っていることから、パレオニスクス目に最も近い系統と考えられています。 原始的な系統のパレオニスクス目は、主に淡水域で多種多様化し繁栄したグループですが、その後 派生進化した新鰭下綱の典型的な特徴をすでに持ち、中にはポリプテルスと似たような体型の種も存在しています。
パレオニスクス目の化石種

Paramblypterus credneri

Paramblypterus sp.

Paramblypterus credneriPalaeonisci
ペルム紀 / 国立科学博物館

Paramblypterus sp.Palaeonisci
ペルム紀 / 国立科学博物館

骨格

海水域に生息していた魚類たちの骨格は軟骨で構成されていました。 軟骨は遊泳力を高める筋肉を支え、柔軟な動きを可能にでき、軽く、浮力を得られることから重厚装備の重いウロコを持ったとしても、遊泳効率を高めることができました。

捕食者を避け汽水域へ生息環境を移したとき、塩分濃度による浸透圧の問題だけではなく、海水に含まれるマグネシウムやカルシウムなどのミネラルが環境によって変動、ときには不足する問題に直面しました。 ミネラルは タンパク質の合成を調節、筋肉の動きを調整、神経の鎮静化など生存するうえで必要不可欠な存在です。 そこで必要となる時がきたとき 補填させるための貯蔵庫 硬骨に進化しました。ミネラル不足を解消できたことで、大陸内部の淡水域へ生息域を広げていきました。
また、大きな重力に耐えられる硬骨が都合がよかに特化した魚類 条鰭綱が登場するなど、硬骨は淡水域での利便性を高めていきました。

ところでポリプテルスは硬骨魚ですが、内骨格のほとんどは軟質の骨で形成されています。

胸ビレ

ポリプテルスの胸びれ
胸ビレの付け根部分に 扇状の骨格と発達した筋肉で構成する肉鰭(にくき)があるので、四肢動物の前足のように使い水中で体を支えることができます。 腕鰭綱(branchiopterygii)に分類され、ポリプテルスだけが現生種として残っています。 同じような肉鰭を持つ硬骨魚に 総鰭綱(シーラカンス類)、肺魚綱(ハイギョ類)がいます。
シーラカンスの胸びれ
古生代に植物が陸上進出を果たし、河川周辺には森林や湿地が広がっていました。 淡水域へ移り住んだ魚類たちの中で、より弱い立場であったものは、現在の食物連鎖でも分かるように湿地帯を逃げ場にしていたようです。 落ち葉や枯死体の沈殿物、藻などが広がる水中のジャングルでは、ヒレで泳ぐより、かき分けて移動できる肉鰭のヒレの方が都合がよかったのかもしれません。 肉鰭魚は多種多様になり大陸内部の水域に生息域を広げていきました。

また環境が激変しやすい大陸内部の生活は、気候変動により雨期と乾期の差が激しいものでした。 雨が全く降らない乾期は、水が停滞、干上がり、水溜りとなった場所に取り残されてしまう事が幾度となく起こり、わずかに残った川を探して肉鰭を使い湿地を移動していた可能性もあります。 この環境が肉鰭魚を陸上進出さた要因の一つとも考えられています。両生類として進化していく中、水中にとどまった肉鰭魚のほとんどは、その後起こる大量絶滅によって姿を消しました。
ポリプテルスの化石は、植物類、総鰭綱、肺魚綱、両生類の登場した古生代の次の地質時代 中生代の地層から発見されているので、上陸には直接的な関与はないようです。

背ビレ

背中に一列に連なった小離鰭(しょうりき)
ギリシャ語由来の学名は見ての通り「多くのヒレ」という意味があります。
poly
多くの
pterus
ヒレ
Polypterus
ポリプテルス
pterus の原意は古典ギリシア語の接頭語 πτερόν(pteron)で、翼・羽・翅 などの意味もあります。 この πτερόν 由来の有名どころは翼竜プテラノドンとかヘリコプターとか、翼を意味しています。
小離鰭が特徴的なところから中国語で多鰭魚、日本での古くからの呼び名 つまり古称は「たきぎょ」
ところでウロコの古称は「いろくず」らしいです。 たきぎょの いろくずは こうりん…。

個々の小離鰭は1本の棘と1本~数本の軟条で構成。種ごとに小離鰭の平均数が異なることから、数量によって種を見分ける手掛かりになります。 急激な方向転換の補助や水流を一定に整える整流板の役目があり、遊泳力の高いサバやマグロなどの尾部付近や、条鰭綱のチョウザメにもあります。 サバやマグロなどの小離鰭は連なっていることから、ポリプテルスのような完全に1つずつ離れた構造は特異とされています。
ポリプテルスのデータベース
ポリプテルス:からだの特徴