からだの特徴

海水域で誕生した魚類は生存と進化競争を繰り返し、やがて捕食者から逃れるように大陸内部に住処を変えたグループが現れました。 淡水域に適応した進化を始めた彼らの中から、ヒレを鰭条と鰭膜で構成する遊泳に特化した条鰭綱が登場します。早い段階に軟質骨格の条鰭綱が洗練した魚形となって大繁栄しはじめました。 ペルム紀に入るころ、硬質の骨格を持つガーのグループ 全骨類が現れ、お互いに同時進化を始めます。さらに進化した真骨類が現在までも繁栄する1大グループを作り上げ、真骨類に圧された軟質骨格類と全骨類はジュラ紀が終わるころどちらも衰退の道を辿りました。 このように条鰭綱の進化には少しずつ時代をずらして繁栄した3つのグループに分けられています。

ウロコ

ガーの学名はレピソステウス科(Lepisosteidae)。 「科」の下に分類される単位「属」は2属あり、アリゲーター・マンファリ・トロピカルジャイアントはアトラクトステウス属(Atractosteus)、 ショートノーズ・スポッテッド・フロリダスポッテッド・ロングノーズはレピソステウス属(Lepisosterus)に分類されています。
これらも2つの単語を組み合わせたもので、ウロコの見た目を表しているようです。 ガー科は学名を直訳して鱗骨魚(りんこつぎょ)という呼び方をされることもあります。

atractos

ギリシャ語で 紡錘(ぼうすい)、矢印の意味
紡錘とはコマの回転力を利用して繊維をねじって撚りあわせて紡いで糸にする道具。 はずみ車とかスピンドルとかいう

lepis

ギリシャ語で ウロコ・鱗片の意味

osteus

原意はギリシャ語のτό ὀστέον、osteosがラテン語化したもので骨格・骨のように硬いものの意味
ostreatusは牡蠣のように粗くて硬い

ガノイン鱗
俊敏な遊泳力のなかった初期の硬骨魚類は防御手段として、歯と同じくらい硬く同様の構造を持つ厚さが2㎜ほどの硬鱗(こうりん)と呼ばれるウロコで体表面を覆っていました。 硬鱗は、その構造からコズミン鱗(cosmoid scale)とガノイン鱗(ganoid scale)に分類することができます。
コズミン鱗の構成は、表面層に歯のエナメル質に似た透明で硬い光沢のあるエナメロイド層、歯質に似た象牙質のコズミン層、海綿状で脈管を含む多孔性骨質層、下層部に層板状骨質のイソペディン(ispedin)層となっています。 特にコズミン層が厚いことからコズミン鱗といいます。総鰭綱(シーラカンス類)・肺魚綱がコズミン鱗ですが、現生種は ほぼ進化・退化しています。 コズミン鱗から進化したガノイン鱗の構成は、表面層にエナメロイド層、中層に顕著な脈管系を伴う歯質層、内層は多数の脈管が横走する層板状骨質のイソペディンからなり、コズミン層が退化したことが分かります。
ガーのウロコ
1つのガノイン鱗は菱形ですが、ウロコ同士が前縁の関節突起で強固に連結、その表面を粘膜質の表皮が重なり皮膚と同化してるため、剥がれることのない一続きの重厚構造になっています。 ウロコの成長は内層と外層の全体が同心円状に大きさを増していくため、ウロコ乱れがなおることがありません。 このように頑丈なガノイン鱗は捌いて食べようにも包丁くらいでは歯が立ちません。けど、火を通すことでクサリかたびらを脱ぐように あっさり取れるらしいです。
初期の条鰭綱
ウロコ化石
Lepidotes sp.
ガノイン鱗を持つ現生種に、条鰭綱ではガーと同じ全骨魚 アミアや軟質下綱(軟質類)チョウザメ、腕鰭綱のポリプテルスがいます。 分類上、まったく異なっていますが同じウロコを持つことからガノイン魚というグループにされることがあります。
その後の条鰭綱は、円形で滑らかな表面の円鱗(えんりん)や、ウロコ後部に小さな棘のある櫛鱗(しつりん)に進化しました。 遊泳力を得るために薄くて軽いウロコになりましたが、内側が基底膜や皮膚層に埋まり互いに重なり合う部分が大きくなり、 捕食者の攻撃で簡単に剥がれ落ちて被害を最小限に食い止め身を守る役目があります。剥がれ落ちた後の再生が早いのも特徴です。

骨 格

硬骨魚類の祖先たちは汽水域に生息環境を移したことによって、塩分濃度による浸透圧の問題だけではなく、 海水に含まれるマグネシウムやカルシウムなどのミネラルが環境によって変動、ときには不足する問題に直面し、それを克服する必要がありました。 ミネラルは タンパク質の合成調節、筋肉動作の調整、神経の鎮静化など生存するうえで必要不可欠な存在です。 そこで必要となる時まで補填させることのできる貯蔵庫として、軟骨質の骨格を硬骨質に進化させました。ミネラル不足を解消できたことで、大陸内部のさまざまな淡水域へ生息域を広げることができました。

ガーの椎骨

真骨類の椎骨
大陸内部は、広大で豊かな水量の海水域とは異なり、天候など何らかの条件で水量は激変し必ずしも水中にいられるとは限りません。 干潟になりやすい汽水域、雨が全く降らない乾期の河川など、大気にさらされる危険が付いてまわり、突然 浮力のない陸上の生活を強いられます。 貯蔵庫としての硬骨質は、重力に耐えることのできる丈夫な骨格でもありました。
遊泳力に特化した多くの条鰭綱の椎骨形状は、前凹・後凹型の鼓状をしていますが、 ガーでは 前部分が凸型 後部分が凹型で強固に連結し支えあう、太くて頑丈な、充分に重力に耐えられる椎骨構造をしています。 同様の椎骨形状を持つ現生種には、一部の爬虫類や、波打ち際で ほぼ陸上生活をする真骨魚類のイソギンポ科 ヨダレカケ属のみがいます。

吻 (クチ)

ガーのようにクチやその周辺が前方へ突出している部分を吻(ふん)といいます。 アトラクトステウス属とレピソステウス属は、あきらかにアトラクトステウス属が幅広なので、容易に外見で確認できます。
吻を持つ生物は化石種から現生種まで数多くが存在し、有名なところでは海域に生息していた魚竜イクチオサウルス、クジラ類、ワニの一種 ガビアルなどで、 これらは小型魚類を捕食していた共通点があります。魚食する鳥類のサギやカワセミなども細長いクチバシを持っています。
細長い吻は、水の抵抗を最小限に留め、素早く閉じることで逃さず捕えるのに適しをた形ともいえます。 また、ガーは吻を横に振って捕えますが、捕獲範囲を広げる効果があるようです。

アトラクトステウス属の上顎には大きな2列の歯が並んでいますが、レピソステウス属では2列の歯は外側列が大きく内側列はとても小さく目立たない特徴があります。
哺乳類の歯は やや光沢のある半透明のものが歯冠を覆っているかと思います。 この半透明部分が生体で最も硬い組織 エナメル質です。その内部に、歯の主成分であり歯色を左右する象牙質、軟組織で象牙質を形成する歯髄 いわゆる象牙芽細胞や神経で構成されています。 硬骨魚類の場合、象牙質と歯髄まで共通しているものの 一部を除き、歯冠をエナメル質に似た半透明な硬い光沢のあるエナメロイドが覆っています。
このエナメロイドはエナメル質と同等の硬さで同じように歯冠を覆うという役割がありますが、構造と形成過程が異なっています。 エナメル質はその外側と取り巻く上皮細胞によって象牙質の表面に象牙質とは別に積み上げられた層であるのに対し、エナメロイドは象牙質の表層部が変化したもので細管や線維が多く入り込んでいます。
哺乳類への進化以前の爬虫類・両生類にも 哺乳類に比べたら薄くはなりますがエナメル質があります。 さらに進化を遡った硬骨魚類の肺魚類やシーラカンス類など肉鰭を持つ魚類にも薄いエナメル質が表面を覆っていますが、硬骨魚類にあるべきエナメロイドがありません。 ところがガーの歯根側の象牙質の表面にはエナメル質が覆い、さらに歯の先端には立派なエナメロイドがあります。ガーと同じ構造は近縁の化石からも確認することができます。 この事から初期の硬骨魚類は、ひとつの歯をエナメロイドとエナメル質の2つで構成し、その後の進化でエナメロイドが独立して発展した可能性が高いとされています。
ガー:からだの特徴