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（戸の開閉音）
（てん）ただいま戻りました。（イチ）お帰りやす。
（藤吉）どや？　あの子らは。へえ　仲ようやってますえ。
なあ　風太。（風太）え？　何や。　何て？
何　怒ってるんや。怒ってへん。
どう見ても怒ってるで。怒ってへんて！
怒ってるやないか。何や！
しかも　何や何も書いてへんやないか。
あ…　いや　やめろ。　俺はな乙女組の連中には恋愛禁止と言い聞かせてんねや。
そ…　そやのにな　おトキと何やった？　あのアホ。
キースか　おお　変な名前や。その２人がなイチャイチャ　イチャイチャしてんねん。もう　そんなんしてたら示しがつかんさかいや。
キースさんと　おトキは関係あらへんやないの。
え？それより　風太。
それよりって…。乙女組の初高座　大丈夫か？
それか。　いや　まあ形にはなってきたんやけどこう　何か足らんねん。
お前も　そう思うか。俺も　何か足らん気ぃするんや。
可愛らしんやけどな。いや～　何か　こうもっとこう　艶っぽさいうか目ぇ惹きつけるもん　欲しいんや。
それやったら　リリコさんに教えてもらったら　どないです？
（２人）え？女優さんやさかいええお手本になるんとちゃいますやろか。
♪～
♪「出かける時の忘れ物」
♪「ひょいとつかむ　ハンカチのように」
♪「心の中に　すべり込む」
♪「いちばん　ちいさな魔法」
♪「泣いたり　笑ったり」
♪「今日も歩き出す」
♪「ありがとうと言いたいあなたのために」
♪「ごめんねと言えないあなたのために」
♪「パレードは　まわり続けてる」
今日から　特別な先生に来てもらう事になった。
秦野リリコ先生や。　先生　どうぞ！
（ドラの音）
（あや）女優さんだが！有名人だが～。
（とわ）どげしよ　どげす～だ。
（なつ）あの　私憧れちょったんです。
先生みたいにな～たいなって。（リリコ）おべんちゃらはいらん！
先生は　もともと娘義太夫の売れっ子やったんや。
もう　男の客からえらい人気やったんや。
おうおう　ちゃんと挨拶せえ。
（４人）よろしくお願いします。
こっちこそ　よろしゅうな。
アラエッサッサー！
♪～（「安来節」）
（風太）笑顔　笑顔！　忘れてるぞ。笑え！
（風太）もっと笑えて。
そや　ええぞ。
（４人）エ　ヤ！
やめ。え？　え？
からくり人形みたいや。
芸の心いうんはもっと遊びがないとアカン。
ああっ　ああ…。おうおう　おうおう。
ハハハハ！　何や　頼んないなぁ。
急に　こけて　びっくりしたわぁ。
何かね。
田舎もんだと思てバカにしとるんですか。
どげに有名な女優さんでも…。（都）あや！
通りいっぺんの踊りやのうてお客さんが　びっくりするような事やれ言うてるだけや。
うちのようになりたい？
あんたらやったら百年たっても無理やわ！
立ってるだけで　泥くっさいにおいがしてきそうやもん。
なつ！嫌やったらやめてもええんやで。
まあまあ　まあまあまあ。まあ　あの　リリコ先生はこういう教え方なんや。な！　そやな　先生。
ええか　これは仕事や。遊びやない。
（４人）はい。
（風太）もう一回やろう。　な！
お～　ええやない！華やかになってきたわ。
た～っぷり　つけた方がええで。
本当に　こげな事でええかね？
知らんがね。
（戸の開閉音）
おうおう　待て　こら挨拶なしかよ。
昨日　どこ行ったんや。
（キース）ああ　活動写真見て　それから早い晩飯食って帰ってきた。
ほうか　うん。
おトキちゃんから何も聞いてへんのか？
はあ？　何で人の色恋沙汰　聞かなアカンのや。
色恋？ああ。
は？　お前　あ～あ～。何やねん　お前　こら。
おトキちゃんの事　好きなんか。ハハッ…。
おい　アホか　おい。　俺がおトキの事　好きな訳ないやろ。
俺はな　気ぃの強い女子は苦手や。うん。
化粧っ気もないしやなあんなん　女子言えんわ。ほな　何やっちゅう話やけどな。ハハハハ。
（アサリ）おトキちゃん。ほな　玉造　行ってくるわ。
待たせてすまん。　行こか。いや　ちょっ　これはアカン。
ちょっ　おいおい　行かんといて。（アサリ）時間ないねん。　行くで。
待て！　おい　行かんといて！殺されるて…。
（荒い息遣い）
おトキちゃん…。
え？
あれ？
出えへん言うたやろ。何で　好きでもない男と抱擁せなアカンねん。（栞）その場面は男と女の愛情の深さを表現するためにどうしても必要なんだ。
嫌なもんは　嫌。嫌や　嫌や　嫌や！
（唇を鳴らす音）
うちは　好きな男としか抱き合うたりせんからな。
藤吉君の事か。
手の届かない相手を思い続けていてもしかたがないだろ。
ほな　あんたうちを抱き締められるんか。
無理やろ。
♪～
日曜から撮影だ。
必ず来るんだ。　いいね？
あんたも…。
あんたもだいぶ愛情に飢えてるんやなぁ。
こんな台本　作らして。
じゃあ。
ああ…　もう　やっちょられん。
こげに遅まで稽古ばっかし。もう　やだが。
だども　もうすぐ初高座だ。
稽古す～のはええ。私は　リリコさんのや～方が我慢できんが。
何やっても　アカン　アカンばっかしだけんね。
私らが田舎もんだけんバカにしちょ～だが。
明日　リリコさんに文句言おう。
文句って　そげな事…。
いや　いっぺん　私らの気持ちちゃんと話した方がええと思うが。
明日　リリコさんに　ちゃんと話そう。
うん。
♪～（「安来節」）
（２人）エ　ヤ！
♪～
お母ちゃんまで　何で？
フフッ　アハハハ。
あ～　やっぱり　難しわぁ。
そやなぁ。　思てたより案外　難しいもんやなぁ。
うちらが目ぇつけて　わざわざ大阪に連れてきた子たちやし。
できひんはずない思うんやけどなぁ。
あの子ら　ものになりますやろか。
そやなぁ。
まずは　都。
真面目すぎる。踊りは　うまいんやけど何や　学校の先生みたいな踊りやもん。　面白みに欠けるわ。
それに比べて　なつは　華がある。
けど　「うち　うまいでしょ」の押し売りばっかりや。
かわいげがない。
あやは　踊りに気ぃ入ってないんがバレバレや。
とわは　自信がなさすぎて見てる　こっちがハラハラするなぁ。
ええとこなしですやん。
（物音）あっ　ああっ！
とわ！
そんなとこで　何してるんえ？こっち　来ぃ。
何や　言いたい事があるんやろ。
リリコさん　教えるならもっと　ちゃんと教えてごしない。
そげだ。　いつも　リリコさんはアカン　アカンしか言ってくれんが。
私　何言われちょるかよう分からんけん。
そげだ。　バカにせんでちゃんと教えてごしない。
そげだ。そげだ。
あんたら甘えるんも　ええ加減にしい！
田んぼで踊ってんのとちゃいますのやで。
これから　お客さんの前で踊り見せて　お金頂く芸人さんや。
あんたらにその気構えがないさかいリリコさんが　厳しゅう稽古つけてくれはるんやろ。
そないな事も分からへんのなら安来に帰りなはれ。
♪～
先生。
私ら　そげにダメですかね？
そげだったらもう一度　稽古をお願いします。
（３人）お願いします！
♪～
リリコさん　お願いします。
この子らが　ホンマもんの芸人さんになれるよう稽古つけたっておくれやす。
♪～
こんな事　やる気なかったけどこうなったらうちも　本気出すしかないなぁ。
♪～
（４人）よろしくお願いします！
♪～
（リリコ）とわ！はい！指　そろえる！
はい！しなやか～に。
笑顔忘れんで。（４人）はい！
♪～