30代で年収5000万円!
閉鎖社会“弁護士ムラ”で総スカン
時に“弁護士ムラ”と揶揄される閉鎖社会でもある弁護士の世界でうまく立ち回るには、各弁護士会にある「人権委員会」「刑事委員会」といった「委員会活動」と呼ばれる勉強会にマメに顔を出し、そこで先輩・同期・後輩の縦横の人脈に気を配ってしかるべき、とされる。
その是非はさておき、石丸はそうした他の弁護士との人間関係においても、気配りをほとんどしなかったという。加えて、東弁会長選への立候補後に発刊した自著『成功は1冊のファイルで手に入れる』(石丸幸人著・あさ出版)には、あろうことか、“東京弁護士会会長候補”と著者プロフィールに記載した。
この書籍で石丸は、「度重なる飲酒運転で執行猶予付きの有罪判決を受けた」と告白している。もっとも、これだけであれば過去の犯罪歴を真摯に反省し、逆境を乗り越えて「弁護士として成功した」と、まだ周囲の見る目も好意的なものだったかもしれない。
ところが石丸は、この自著に「年収は30代にして5000万円を超えた」と書いた。これに多くの弁護士は眉をひそめた。挙句、こんなことまで書いた。
《私は、弁護士という資格を活用してビジネスを起こしたいと思ってから、今後参入すべきマーケットがどこにあるか、考え続けていました》(『成功は1冊のファイルで手に入れる』107P)
《(略)私は今後の市場成長性や、市場占有率が寡占状態ではないという理由から、債務整理の分野でビジネスを起こしました》(同)
1999年以降、司法サービスの拡充を図るべく行われた一連の司法改革で、弁護士報酬の自由化、広告の解禁が行われた。この広告解禁で、弁護士は顧客に自らをアピールすべく、「専門性」「得意分野」を打ち出すようになる。
年齢問わず、オールドスタイルの弁護士の間では、弁護士の専門とは法律全般であり、その中でも細分化された法律、とりわけ石丸が特化した債務整理や離婚、相続といった分野は、「専門性と打ち出すことも恥ずかしいもの」という考え方がいまだに支配的だ。
法律に詳しくない顧客側に立ってみれば、こうした弁護士ムラの論理は決してわかりやすくない。「離婚が得意」「相続専門」と謳っている事務所の方が、依頼しやすいだろう。しかし、そんな顧客の視点よりも自分たちの論理が優先されるのだから、弁護士業界は相当に古い体質といえる。そこに徹底して“ビジネスの論理”を持ち込んだ石丸が、孤立していったのは当然の帰結だった。