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♪~
♪「出かける時の忘れ物」
♪「ひょいとつかむ ハンカチのように」
♪「心の中に すべり込む」
♪「いちばん ちいさな魔法」
♪「泣いたり 笑ったり」
♪「今日も歩き出す」
♪「ありがとうと言いたいあなたのために」
♪「ごめんねと言えないあなたのために」
♪「パレードは まわり続けてる」
♪~(出囃子)
♪~
(拍手と歓声)
よっ! 「千両みかん」やってくれ!「百年目」やって!
「たちぎれ線香」やったって!
(楓)「師匠 十八番の大ネタに注文殺到す」。
(文鳥)今日はめったに やらんもんを 一つやらしてもらいます。(どよめき)
災難やと思うて おつきあいを願うときます。(笑い声)
東京では「時そば」というそうですがこちらでは 「時うどん」。
大ネタでも十八番でもないわ。
(文鳥)ぶら~りぶらりと歩いております。そんなところから噺が始まります。
「清や~ん」。(笑い声)
「腹減った~ なんぞ 食お」。
「時うどん」とは おなかをすかせた2人組の男が主人公。
合わせて15文しか持っていないのに1杯16文のうどんを なんとかして食べようとする お話です。
「夜なきの うどんってのは1杯16文と相場が決まったある。1文 足らんがな!」。
「心配すな。 わしに任せとけ。お前 横から いらん事ごちゃごちゃ言うたらアカンで。ちゃ~んと 半分 残しといたる」。「ホンマに 半分残しといてや~」。「残しといてや~」。
「心配すな!」。
(すする音まね)
「あ~ うまいな これ。うまい うまい」。
(すする音まね)
「あ~。ええ だし出てるがな これ」。
「ひっぱりな!」。(笑い声)
「今 食い始めたとこや。ひっぱりな おい。ちゃんと 半分 残しといたる」。
「ホンマに 半分 残しといてや」。
「心配すな! ひっぱりな アホ」。
(すする音まね)
「うまいな これ」。
(すする音まね)
(笑い声)
「ひっぱりな!そないに引っ張ったら お前だしが こぼれるやないか!見てみ! うどん屋のおっさん顔見て わろてるがな」。
(笑い声)「引っ張らんで待っとれ アホ」。
「ひっぱりな!何かい お前 そないにこの うどんが食いたいか。何っ 食いたい?食いたけりゃ 食え!」。
「く… く… く… 食わいでか!」。(笑い声)
(泣きまね)
(笑い声)
「これしかない。これ… これで しまい」。
(文鳥の泣きまねと 客の笑い声)
「これ 半分? 半分 これかいな」。
(笑い声)
「へえ おおきに ごっつおさん。あのな 銭が細かいねや。手ぇで受けてくれるか?ほな いくで。一つ 二つ 三つ 四つ 五つ 六つ七つ 八つ…うどん屋 今 何時や?」。「へえ 九つでんな」。
「十 十一 十二 十三 十四十五 十六」。
「へえ おおきに ありがとさんで」。
「清やん 清やんちょ… ちょっと待ってえな。お前 15文しか持ってないいうてちゃんと 16文払てたな」。
「お前 何にも分かってないやないか。ええか わしが8文まで払うた時に時を尋ねたやろ。うどん屋が 『九つでおます』と言うたさかいに十 十一 十二と。 な!」。
「へ?」。
「しゃ~!」。
(笑い声)
「昨夜と ちょっとも変わらんようにやって1文 ごまかしたんねん。ハハハハハ!」。
(笑い声)
(すする音まね)
「あ~ うまいわ」。
(すする音まね)
「ひっぱりな!」。(笑い声)
「こら 今 食い始めたとこや!そないに ひっぱりな!ちゃんと 半分 残しといたる!ホンマに 半分 残しといてや!」。
「あんた 一体誰と しゃべってまんねん?」。
「アハハハハ~」。
(すする音まね)
(すする音まね)
「ひっぱりな~!」。(笑い声)
「そないに 引っ張ったらだしが こぼれるやないかい!見てみ! うどん屋のおっさん顔見て わろてる~!」。
「わたい わろてまへんで」。(笑い声)
「あんたの隣誰ぞ いてまんのんか?」。
「アハハハハ!」。
(すする音まね)
「ひっぱりな~!ひっぱりな~!何かい そないに このうどんが食いたいか!何っ 食いたい?食いたけりゃ食え!食わいでか~!」。「気色悪い人やな この人」。
(笑い声)「誰ぞ 人 通らんかいなぁ」。
「アハハハ!」。
「おおきに ごっつおはん!あのな 銭が細かいねや。手ぇで受けてくれるか?」。「へえ」。
「エヘヘヘヘ いよいよや。 いよいよや。楽しなってきた ハハハハ ハハハハ。一つ 二つ 三つ 四つ 五つ 六つ七つ 八つうどん屋 今 何時や?」。「へえ 五つでんな」。
「六つ 七つ 八つ…」。
(拍手と笑い声)
♪~
(藤吉)師匠 おおきにありがとうございました!
(てん)ありがとうございました!うどんは温かいうちはええが冷めたら まずい。
寄席も 同じや。
いっとき 盛り上がったからいうて繁盛する訳やない。
さあ ここから どうやって味付けしていくかはあんたらの… これやで。
はい 肝に銘じておきます。
また いつか 辛~いうどんをつるっと すすりたいけどなぁ。
へえ! そん時は舌が しびれるようなもっと 辛い辛い おうどんご用意致します。
ハハハハ ハハハハハハ。
席主今日は 大入り満員でしたね。
ありがとうございます。文鳥師匠のおかげです。
いや しかし 「時うどん」とはびっくりしましたわ。
でも 文鳥師匠といえば大ネタを期待してたんですけど。
しっかり笑いをとるところはさすがですね。
はい。「時うどん」を演じるのは知ってたんですか?
(藤吉)ええ まあ。
てんちゃん!
楓さん!?
あ~ どないしはったん?
うち 記者になったんや。へ?
職業婦人として働きながら歌人 目指してる。
あ… すごいわぁ。
いや あんたらこそ すごいわ。寄席を開いた噂は聞いてたけどホンマに ええもん 見してもろたわ。
おっきい記事 書くさかい毎報新聞 楽しみにしててな。
へ?藤吉さんにも よろしゅう。
急いで記事 仕上げたいさかいまたな!
楓さん?
(キース)「いまだ無名なるも情趣あふるる小演芸場 風鳥亭に伝統派大看板の喜楽亭文鳥が出演す!」。
(万丈目)よし!
「『時うどん』にて満座の観客をして抱腹絶倒せしめたる快演をなしたり」。
すごいわ~!(岩さん)大阪中の話題やで!
正夢やで。ありえへん事が起こったんやで!
(歌子)万歳!(一同)万歳! 万歳! 万歳!
(啄子)ほう これは…。
♪~
楓さん 一番ええ記事書いてくれはった。
ああ ありがたいな。これも みんな 栞君が新聞社に声かけてくれたおかげや。
(栞)いや これは やっぱり文鳥師匠を口説いた席主の君の熱意のおかげさ。
いや…。ホンマ そのとおりです。
それと おてんさんの機転もね。
ああ… へえ おおきに。
この記事を読んで居ても立ってもいられない男がいるはずだ。え?
・(寺ギン)ごめん。(戸の開閉音)
では。
あんたんとこに 芸人出したるわ。(2人)え?
伝統派に 庶民の味方気取りされたら たまらん。
うちが 専属の太夫元なったるで。
(小声で)伊能さんの言うてたんは…。
栞君 ここまで読んでたんや。
どないする?
おおきに 寺ギンさん。
うちら 寺ギンさんとこの芸人さんに出てもらいたかったんです。
一日中働いて 疲れた人らに難しい事は 何も考えんとわろてもらいたいんです。
「芸に上も下もない。安うてオモロイもんが ええ芸や」。
それは 俺らも同じ気持ちです。
よっしゃ。 ほなら 7分3分や。
はい。 そちらさんの取り分が3分なら 文句ありません。
アホ言うな!
わしが7分や。 あんたらが3分や。
(2人)え?
それ以外は認めん。
ええな!
ハハハハハハ!
あっ いや…。
(亀井)えらい やられましたなぁ。
亀井さん?
いや~ そやけど えらい評判や。わしの見込んだとおりや。
ところで 下足番 おらんのやろ?
わし 雇うてくれまっか?
え?
ええ仕事しまっせ。 ヘヘヘヘヘ!
一筋縄ではいかない お笑い商売。
とにもかくにも歩きだしたてんと藤吉でございます。