足を伸ばせるだけ
漫画喫茶よりマシ
屋上利用の際は一度、1階のフロントまで降りて、利用する旨を申告、サインをしなければならない。「1泊1980円ホテル」のフロントはその理由をこう語った。
「屋上で騒ぐお客様がいらして、近隣から苦情が来たからです。せっかく旅に来られているんだから、あまりうるさいことは言いたくないのですが…」
その屋上に夜行くと、前出の就活中女性が言うように、日によっては年代、男女を問わず宿泊客が缶ビールやジュースを片手に歓談していることもある。
宿泊客たち曰く、「若い就活生の話を聞いて自分も頑張ろうと思った」(50代男性)、「バッグパッカーの人から旅話を聞いて元気をもらった」(30代女性)、「人生の先輩から社会の現実を聞き勉強になった」(20代男性)――ビジネスホテルやカプセルホテルにはない宿泊客同士の交流も、宿泊客自身が望めば可能といったところだ。
この屋上での宿泊客同士での交流で記者が出会った40代後半男性は、「十分に働ける体力あり」という理由から、東京都、横浜市、大阪市で生活保護受給申請したものの門前払いを食らったため、全国の建設現場や工場での住み込み勤務、漫画喫茶などを転々とし、最近はこの「1泊1980円ホテル」に時々、宿泊しているという。
「ベッドで眠れるのが有難いね…。同じ価格でも漫画喫茶だとベッドで足を伸ばして眠ることはできないから」
「1泊1980円ホテル」には、長期宿泊客も少なくない。1週間の滞在予定だという徳島県からやって来た50代会社員男性は言う。
「都内の大学に進学した娘の監視を兼ねてやって来ました。娘は大学の寮に住んでいるので、そこに泊まるという訳にはいきません。ここは長期間宿泊するには便利です。ちょっと狭いのが難点ですが、この価格なので気になりません」
実際、「1泊1980円ホテル」によると、長期宿泊者は少なくないという。
「荷物も宅配便で受け取れます。なかにはアマゾンで注文した品をここで受け取るお客様もいらっしゃいますから」(1泊1980円ホテル)
荷物の受け取りは可能だが、ホテルフロントからの荷物発送は受け付けていないという。ただし、近隣にコンビニエンスストアや宅配便の荷受所があるから、利便性は悪くない。
とはいえ長期滞在者にとってネックなのがコインランドリーの設置数が少ないことか。もっともこれは近隣のコインランドリー利用で対応できる。しかしホテルという性質上、自炊設備がないので、宿泊中、ずっと外食、もしくは近隣コンビニで購入した弁当などを食べている人がほとんどだった。近いうちにバーの開店を準備しているというが、食事ができるようになると、さらに利便性が増して宿泊客人気が高まるかもしれない。
2020年の東京オリンピック開催で、都内のホテル需要が高まるなか、10日間滞在で約2万円というこの“激安”ホテルの出現は、ホテル業界の新たなる台風の目として、今、業界関係者の間で注目されている。