例えば、リゾートの高級感を味わいたいお客さまには、既存のホテルの設備更新を進めて高い料金でも泊まっていただける環境を整備する一方で、お値段優先のお客さまには徹底的にコストを省いた廉価な「変なホテル」(後述)を用意し、楽しんでもらえるようになった。こうした投資ができるのも基本的な利益を生み出せるからだ。

 またイベントにもお金を回せるので、より楽しいイベントを企画してさらにお客さまを呼べる。こういう好循環に入るとビジネスモデルは確固としたものになり、すべてが「正のスパイラル」に入っていく。

 ただ私は、ハウステンボスを「あくまでもテーマパークとしての存在」にとどめようとは思っていない。どのようなテーマパークでも、いつかは飽きられ、再び負のスパイラルに足をすくわれる事態が起こる。そうしたときのために、しっかりした準備をしておくことが重要だ。

 私の構想は、ハウステンボスを「観光ビジネス都市」へと転換させることだ。ハウステンボスの敷地面積は約152万平方メートルあり、これはモナコ公国とほぼ同じ大きさだ。言うまでもなくモナコ公国は、世界で2番目に小さな国だが、南仏コート・ダジュール地方の高級観光都市(国家)として知られている。

 テーマパークではなく都市としての機能を充実させれば、国際会議や国際イベントの招へいなどできることはたくさんある。またさまざまな社会実験に取り組めるようにもなる。小型無人機(ドローン)の飛行試験や、自動車の無人運転といった公共空間では難しい実験にハウステンボスを開放することもできるようになる。国内外の企業や自治体と手を組んで、新しいビジネスチャンスを創造できるだろう。

 考えてみれば、都市なのだからホラー施設があってもいいし、花の王国のようなイベントもあっていいし、港では釣りができてもいいし、夜遅くまで開いているバーがあってもよいのだ。

 その都市づくりの第一歩として手がけたのが発電と電力の小売事業であり、もう一つが先述したロボットを活用した「変なホテル」だ。

 発電では、施設内に出力7500キロワットのガスエンジン発電機を導入し、2016年からは小口の電力販売に参入した。

「変なホテル」はロボットがチェックインからチェックアウトまですべてに対応する。万が一に備えてバックヤードには人間のスタッフが待機しているが、それも7人で、他の同規模ホテルと比べれば5分の1。つまり変なホテルは、他に比べて5倍の生産性を持っていることになる。

 ちなみに「変なホテル」は、H.I.S.のホテル事業にも横展開できるものであり、これからハウステンボスだけでなく全国に本格的に展開していく。その準備は整っている。

 さらに佐世保市にお願いして佐世保港の改修工事も進めていただいている。大型船が接岸できるようにするためだ。船の誘致やチャーター事業などはH.I.S.本体が担い、お客さまをハウステンボスでお迎えすれば、地元の経済にも貢献できる。つまり佐世保港は、観光ビジネス都市としてのハウステンボスの重要なインフラなのだ。

 ハウステンボスの再建では書きたいことが山ほどある。従業員との苦労話だけでも、この連載の1回分になるだろう。

 ただ何度も述べているが、ハウステンボスの再建に奇策があったわけではない。失敗に落胆し、お金もないなかで小さなことから改善を重ね、小さくても利益を出して好循環に育てる。やったことと言えば、ある意味でその程度のことなのだが、事業とは不思議なもので、そうしたことを地道に積み重ねていれば、ある瞬間に大きな転換期がやってくるものなのだ。

(エイチ・アイ・エス会長兼社長/ハウステンボス社長 澤田秀雄)