国会議員は政党に所属しているものの、日々の仕事は事務所単位で動いており、いわば中小企業のオーナー社長のようなものだ。中小企業はヒト・モノ・カネのリソースが大企業に比べれば潤沢ではないし、業務が標準化されているわけでもないから、日々生じる課題を解決するためには、ある意味で高度なマネジメントスキルが要求される。政策や政局に長けた政治家が、そういったスキルも持っているとは限らない。
「秘書が悪い」「豊田議員の人格全体を否定してはならない」という意見も見られるが、元秘書によれば、豊田議員の事務所は頻繁に秘書やスタッフが替わり、秘書仲間の間では「ブラック事務所」として有名だったそうだ。
今回の暴言の直接的要因となったと見られるバースデーカードの宛て先間違いにしても、スタッフが頻繁に入れ替わっているようでは、名簿を見て顔と名前が一致する人間は豊田議員本人しかいないことになるだろうし、地元の道をよく知るスタッフもいないだろう。まして抑うつ状態になればケアレスミスを誘発する。困ったことがあっても上司に相談しにくい空気が生まれ、さらに大きなミスにつながる。
元秘書によれば、豊田議員は地元回りや会合での挨拶には熱心に取り組もうとしていたという。本人は夜遅くLINEでスタッフに指示するなど、仕事に励む姿もあった。エレベーターのボタンを押してくれた他の秘書に「ありがとね」と笑顔で話しかける場面もあり、外の人に接する際にはまったく普通の人格に見えたそうだ。
すなわち、これは「人格」の問題もあるかもしれないが、それ以上にマネジメントスキルの欠如がもたらした結果だという認識が重要だ。元秘書の話を詳しく聞くと、豊田議員の指示はいつもざっくりとしていて抽象的。パーティ券を売り込みに行く際に回る順番も、あらかじめ決めた計画を途中で無視し、本人が直前で変更してしまうこともあったという。経歴が綺麗なので、豊田議員=優秀とレッテルを貼ってしまいがちだが、役人出身の豊田議員は、おそらく詳細な「文書作り」には長けていたとしても、チームを率いる経験には乏しかったのではないだろうか。
パワハラ議員は他にもいる!?
ストレス耐性こそが「器」
二つめが、上司側も「悪いこと」とわかっていながらやる場合。明らかに理不尽だとわかっているが、なんらかの事情で部下が逃げられないまたは反抗できないケースだ。一般的にイジメは逃げ場のない閉じた空間で発生するものだ。しかし、政治の世界は極めて人の流動性が高く、豊田議員の事務所に限らず、秘書が短い期間で辞めることは永田町ではさほど珍しくない。なぜブラック事務所だと有名なのに次々に秘書がやってくるのか。ここには業界特有のカラクリがある。