グローバル化の流れは変わったのか。これは極めて重要な問題だ。答えを見つけるには、世界経済や欧米の政治状況をみなければならない。
ここでは貿易と資本の流れに話を絞ろう。これらの分野ではグローバル化の流れが止まり、一部では流れが逆行していることがはっきり見て取れる。
米ピーターソン国際経済研究所では、世界全体の国内総生産(GDP)に占める貿易の割合は2008年から頭打ちとなり、第2次世界大戦以降で最も長い停滞期に入ったとみる。英経済政策研究センターの情報サービス「グローバル・トレード・アラート」によると、15年1月から16年3月にかけて世界経済は拡大したが、国際貿易は数量ベースでも伸び悩んだ。
■対外金融資産も減少に転じる
対外金融資産残高も、07年に世界のGDPに対する比率が57%まで増えた後、減少に転じ、15年は36%に落ちた。GDP比で見た海外直接投資(FDI)にしても、残高は増え続けているが、単年度ベースでは07年の3.3%を大きく下回ったままだ。
つまり、グローバル化はもはや世界経済の成長のけん引役ではなくなったということだ。こうした状況は以前にもあった。グローバル化は帝国主義が隆盛だった19世紀後半に進展したが、第1次世界大戦で流れが止まり、1929年の世界大恐慌で雲散霧消した。
第2次大戦後、米国は経済・外交政策の主要テーマにグローバル経済の再建を据えた。帝国主義時代とは異なり、このときは国際経済機関がこの動きを主導した。もし保護主義的な考え方を是とし、国際機関を中傷している米共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏が大統領に選ばれるようなことがあれば、戦後、米国が進めてきた政策が否定されることになる。
こうした歴史や、貿易を巡る米国の政治情勢を考えると、今のグローバル化の流れにも同じことが起きるのではないかと考えるのは当然だ。
グローバル化の失速の要因は、一つには雇用や投資などの機会の大幅な減少がある。例えば、労働集約型の製造業が事実上すべて先進国の外に生産を移したら、その製品の貿易の伸びは当然、鈍るはずだ。同様に、中国で起こった世界史上最大の投資ブームが減速すれば、多くの1次産品に対する需要も落ちるだろう。需要の減退は価格と生産の両方に影響する。