マルチアーティスト南條愛乃さんに聞く言葉との向き合い方
声優、シンガー・作詞、そしてラジオパーソナリティとさまざまな面での活動を展開しているマルチアーティスト、南條愛乃さん。
7月13日に2ndフルアルバム『Nのハコ』をリリースし、9月4日の名古屋公演でスタートする『Live Tour 2016 "N"』を控える南條さんに、それぞれの面をつなぐ共通項としての〝言葉〟との向き合い方についてお話を伺う機会をいただいた。
セリフで伝える:声優面
南條さんと言えば、まず声優という面を思い浮かべる人が多いはずだ。感情も含め、セリフを自分の中で処理して伝えるプロセスでは、何を意識しているのか。
「たとえば、『気が強くてツンデレ』とか『大人しい妹』のような同じ言葉で表されるようなキャラクターの設定でも、そのキャラクターによって、過ごしてきた時間や生い立ちが違います。このキャラクターがここでこういう事を話す理由は何か。それが個々の人間として成り立つための部分です。キャラクターの背景を読み取って汲み上げて、セリフを生身の言葉として伝えられたらいいなと思っています」
ごく単純に言えば、キャラクターに入り込むということでしょうか? ならば、具体的にはどのようにするのでしょうか?
「背景を考えるという点では同じですが、その入り方としては、正直キャラクターにも作品にもよりますね。たとえば、ゆったりとしたテンポの作品では、演じる私も気張らずに、日常会話を楽しむような感覚で接することができます。ただ、テーマが命とか、何かに対して頑張る姿勢の作品では変わってきます」
そして、演じる期間が長ければ長いほど、必然的にキャラクターについて考える時間は増える。その結果、キャラクターによって成長する自分を感じることもあったという。
「ずっと演じていると、書かれているセリフに違和感を覚えることや、ここでは書かれているものと違う言葉遣いをしたいと思うことがありますでも、何らかの意図があって、あえて違和感も盛り込んだセリフなら、自分の中でのキャラクターに対する理解度がさらに高まるきっかけになるという部分もあります」
歌詞で伝える:シンガー・作詞面
ご存じの方も多いと思うが、南條さんにはfripSideのボーカルという顔もある。筆者の勝手なイメージかもしれないが、シンガーという面では、言葉をより強く押し出していく必要があるように感じられる。たくさんのお客さんを前に歌うという行いには、どんな思いがあるのだろうか。
「それぞれのステージによって表現したい事も目的も変わってきますが、ソロの場では私の中の根底にある想いをコンセプトにやらせてもらっています。それは、『ステージ上の私』と『それを応援してくれるお客さん』という関係性にはしたくないということ。同じ時代に生きていて、何かに対して頑張っている姿勢も同じ。人間として見たら、みんな同じポジションだと思います。「ステージ上の表現者」、「客席のファンの人」という隔たりは作りたくありません。同志でいたいんです」
活躍するフィールドこそ違うが、ファンはすべて同志なのだ。
「何かに対して頑張っている毎日を過ごす同志として、楽曲を通じて、ライブで非日常感を楽しんでもらいたいんです。そして、明日からまたお互い各々のフィールドで頑張りましょうというスタンスでいられたらいいなと思っています」
決して本性ではないとしても、世の中には切り方が変わっている人、表面的な情報だけで切り取る人が存在する。この記事を読む人たちの中にも、アニソンという言葉だけでざっくりカテゴライズしてしまう人がいないとは言い切れない。こういう人たちに対しては、どんな思いがあるだろうか?
「それは、全然いいです。声優という職業上、私の曲はアニソンにカテゴライズされると思うんですけど、実際に聞いてみて、自分の生活に合う曲だなと思ってくれたらそれがなんのジャンルであっても聞き続けてくれるでしょう。アニソンだからと毛嫌いする人も、もしかしたらいるかもしれません。それならそれで、今はその人とは縁がなかったんだなと思います。でもそんな方でも、もしかしたら何かのキッカケで気に入って聴いてくれることになるかもしれないし、出会いであり、ご縁だと思いますね」
なんか、潔い。
「実際に、アニメは普段見ないけど南條さんの曲は聞きます、というメッセージもいただいたりします。アニメは見ないという生活スタイルの方でもわたしの曲に出会ってもらえて聴いていただけてるという状況が、なんだか不思議でもあり、その出会ってくれた奇跡を嬉しくも感じます」
確かに、筆者が通っているジムでもズンバやハイパーインパクトというクラスで南條さんの曲をかけるイントラがいる。それに、ランニング用のプレイリストに南條さんの曲を入れている人は、かなりいるに違いない。アニメとは無縁と言っていい40歳以上の男女を走る気分にさせる曲。簡単に思いつきますか?
プロの作詞のプロセスとは?
歌詞という文字の形で伝える言葉も、南條さんの一部にほかならない。それぞれの面の使い分けみたいなものは意識しているのだろうか。
「意識はしていません。目の前にあることをやる。それだけです。今日は歌詞を書く日だからこうして過ごそう、なんていうことはありません」
作詞のプロセスって、どんな感じですか?
「まず大枠があって、こういう内容を書こうとか、書きたいなという構想が頭の中にあって、それを曲と照らし合わせて聞いていきます。まったく曲を聞かずに脳内で考えているだけの時間が先にあって、それから実際に曲を聞きながらシーンを思い浮かべて、文字を当てはめていくという感じです」
作詞という作業には、行間の感情みたいなものを際立たせる局面があると思う。それを満たす要素の源はどこにあるのだろうか。
「自分の思い出もあれば、完全に脳内フィクションであることもあります。過去に関わってきたキャラクターの人生がきっかけになることもあります。キャラクターをやらせていただくことが多いので、自分の人生以外にある人生経験がヒントになることはありますね」
話し言葉でつながる:ラジオパーソナリティ面
声優、そしてシンガー・作詞という面の、ひょっとしたら対極にあるのがラジオパーソナリティとしての南條さんかもしれない。どんなことを心に留めているのだろうか。
「全部が全部キレイなままだと、話していても面白くないと思うんです。面白おかしく聞けるレベルの毒は混ぜたいなと思っています」
〝毒〟という言葉のニュアンスは、ポイズンではなくウィットだろう。
「私がやっているラジオも、きれいに情報をお伝えするというよりも、近所の人と立ち話をしているみたいな感覚です。お便りをいただいて、みんなの日常をお互いに聞いていくという感じで、着飾りすぎず、汚れすぎず、日常会話で友だちと話しているようなテンションを保てるといいなと思っています。言葉はあまり飾りません」
ただ、いくら日常会話のテンションであっても、言葉に対する意識は決して失わない。
「電波に乗るものなので、意識すべきだと思います。こう言い方をしたら、うがった見方をする人から誤解されるかもしれないと考えたりもします。そういう場合は言い方を変えてみます」
作詞とはまったく違うベクトルの言葉への気遣いなのだろう。
「番組を聞き直すと、これは誤解されるなと思ったり、会話の中で主語が抜けていたりすることがあります。自分の中ではつながっていても、大事なワードがひとつだけ抜けていたら、誤解されてしまうこともあります。そういうところは気を付けなければなりませんし、反省しつつ次に活かせたら、という思いで毎回収録に臨んでいます」
言葉というものを、さまざまな形で、さまざまな面で表現していく南條さん。そういうあり方に憧れを抱いている人はかなり多いはずだ。それと同時に、世の中には、コミュニケーション能力が低いと思っている人もたくさんいるだろう。
唐突ですが、言葉で伝えるという行いについて何かアドバイスをいただけませんか。
「伝える力と言われると、私自身どうなのかなと思う部分もあるんですが、伝えて伝えて、スタッフさんたちと一緒に動いていかないと何も出来上がりません。これを言ったら嫌われるかなとか、嫌がられるかなとか思ってそこで踏みとどまってしまうと、そこから進めなくなってしまいます。変に臆病になりすぎて言葉数が少なくなってしまったら、本当の気持ちは伝わらないと思います」
こういうことだ。
「下手でもいいし断片でもいいし、かけらでもいいから、まずは伝える努力が必要なのかなと。自分の中で相手のリアクションまで想像しきってしまうと、自分の中でぐるぐる考えすぎて会話が出来る時間が終わってしまっていたり…。もしかしたらたった一言でも相手の人がうまく拾ってくれて繋がっていたかもしれないのに、です。そう考えるともったいないですよね。私も伝える自信がない時は、「うまく伝わるかわからないんですけど…」と前置きしてから話出す事もあります。悪い意味で受け取ってほしくないんだけど…といったひと言でもいいですよね。相手に向けて、善き思いしかないんですよという気持ちがまず伝われば、話すことへの恐怖心も減らす事が出来るんじゃないかなと思いますね」
これからの南條愛乃
今後は、どんな分野での活動が視野に入っていますか?
「野良犬とか野良猫とか、殺処分の対象になっている動物たちの保護に興味があります。声優やラジオパーソナリティという仕事をさせてもらっていて、普通に生活しているよりも、若い層の年代のお客さんと接する機会もあると思うんです。それに、発信力もあると思っています。リスナーさんと一緒に勉強していきつつ、ライブでチャリティグッズを出すとか、そういうこともやっていきたいと思っています」
まったく想像していなかった展開。
「こういう職業だからこそ、普段はアニメやゲームが主な興味対象であるという人たちとも接点がもてるんですよね。そこで、ラジオなどを通じて、何か知らないうちにそういった犬や猫の情報が、頭に入ってくれたら嬉しいですね。聞いたところで興味の持てない話かもしれませんし、逆に働きかけたいと思ってもらえるかもしれない。なにがどこでどうつながるかはわからないし、とにかく知る・知ってもらうというのが大きいかなと思っています」
想像していなかった展開である上に、とても具体的に話してくれた。
「個人で何かしようとしても、限度があるじゃないですか。そして私も実際に動くとしてもさまざまな団体がありますし、考えなしにはできないと思うんです。そこもいろいろ踏み込んで勉強していきつつ、発信もしていけたらいいなあと思っています。30代のうちに、です」
南條愛乃という人は、数えきれないほどの面を持つ多面体である。面から面への境界線はきわめて滑らかで、シームレスにつながっている。そして、一つひとつの面がさまざまな色の光できらめいている。時には別の光源からの光を反射させ、時には自ら内側から光を放ちながら、きらめいている。
ああ、ダメだ。もうちょっと自然な響きで、かつカッコよく言いたい。今の言い方はぎりぎりかもしれないけれど、最後に強調させてください。南條愛乃さんに対しては、善き思いしかありません。
(文: 宇佐和通)
『ラジオDJCD 南條愛乃のジョルメディア vol.3』
≪収録内容≫【 Disc-1 】New Recording 憧れの声優・くまいもとこさんをゲストに迎えて対談&ミニドラマ【 Disc-2 】Back Number 『南條愛乃のジョルメディア』(#31~#45を収録。生放送回#34、#37、#41は未収録)
発売日:2016年8月31日
価格:3000円+税
Nのハコ
『ラブライブ! 』絢瀬絵里役としても人気の南條愛乃が、2016/7/13に2ndフルアルバム『Nのハコ』をリリース! オリコンウィークリーチャート初登場4位を記録した。
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