「吉田調書」で特報を放った朝日はエゴスクープと決別できるか?

2014年05月23日(金) 牧野 洋
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国家が不開示を決めている文書を入手して真実を伝えようとしている点では、朝日による吉田調書報道と似ている。報道後に政府が内容の真偽確認を避けている点でも同じだ。吉田調書について、菅義偉官房長官は20日の記者会見で「政府が保管しているものと内容が一致しているかどうかを申し上げることはできない」と語っている。

もちろん単純比較はできない。NSA文書は国家最高機密であり、その暴露は犯罪行為であるのに対し、吉田調書は吉田氏の意向に配慮して不開示にされているにすぎない。

それでもエンタープライズスクープの基本的定義に両者とも当てはまることに変わりはない。米ニューヨーク大学ジャーナリズムスクールの教授でジャーナリズムの論客ジェイ・ローゼン氏は「エンタープライズスクープは記者が独自に掘り起こしたニュースであり、記者の努力がなければ決して明らかにならなかった特報のこと」としたうえで、「これこそ本来のスクープであり、特ダネを狙うときにすべての記者がお手本にしなければならない」と自らのブログ上に書いている。

福島原発事故の報道では、主要紙は「発表報道のオンパレード」との批判を浴びた。その反省もあり、朝日は調査報道に軸足を移しているのだろうか。紙面を見る限りは、調査報道重視の姿勢はうかがえる。

吉田調書報道では、朝日は通常の紙面と並行して、デジタル版の特設ページを使って調書の内容を連日詳細に分析していく予定だ。調書はA4判で400ページを超える分量になっており、限られた紙面ではとても内容を報じきれないからだ。担当記者は調書の分析にどれだけ時間をかけたのか明らかにしていないが、写真などビジュアル面も含めデジタル版の構成を見ると相当な事前準備期間があったことをうかがわせる。

エンタープライズスクープとエゴスクープ

吉田調書報道の9日前、5月11日には、朝日は朝刊1面で「医療費不正 ずさん調査」と題して、診療報酬の不正請求について厚労省が調査を怠っている実態を明らかにしている。情報公開制度を利用して入手したデータを分析するなど、調査報道の手法を駆使している。中面でも詳細に報じており、読み応えがある。

昨年の新聞協会賞でも朝日は調査報道で受賞している。福島第一原発周辺で放射性物質の「手抜き除染」が横行しいることを突き止め、特報した。記者クラブに所属せずに、時間をかけてニュースを掘り起こす「特別報道部」を設けたことで変化が出ているのかもしれない。吉田調書報道も特別報道部所属の木村英昭、宮崎知己の両記者が手掛けている。

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