つまり、国民の間に憲法論議を巻き起こすのが狙いである。テレビのインタビューなどでは「最終的に決めるのは国民投票だから、まず国民的な議論を高めていきたい」という趣旨の話も語っている。
安倍にとって、憲法改正は正しい方向である。だが、正しい政策だからといって、実際の政治で一歩を踏み出すかどうかは、まったく別の問題である点も指摘しておきたい。実は、それこそが第1次安倍政権(2006年)の「失敗の教訓」だったのだ。
当時の安倍政権も正しいことをやろうとした。たとえば、道路特定財源の一般化とか公務員制度改革だ。ところが政権基盤が固まらないうちに、そんな既得権益勢力に斬り込む仕事を手がけたために、強力な反撃に遭って結果的に政権がつぶれてしまった。「消えた年金5000万件問題」がそうだ。
消えた年金の暴露は旧社会保険庁官僚による「自爆テロ」
あれは、どういう話だったかといえば、旧社会保険庁の官僚による「自爆テロ」だった。旧社会保険庁を日本年金機構に衣替えするに際して、政権は職員の大リストラを考えていた。それに抵抗するために、労組と官僚がグルになって「自分たちがいかにデタラメな年金管理をしていたか」を民主党を使って国会で暴露したのだ。
それで政権丸ごと、リストラ計画を葬ってしまおうとした。それが真相だ。実際に年金問題から内閣支持率は急降下して、政権は倒れた。ちなみに「自爆テロ」と言ったのは私ではない。当時の自民党幹事長、中川秀直衆院議員である。
だから、正しいことをやるにも自分の力量をしっかりと見極めて、手順とタイミング、段取り、時間軸を考えてやらなければならない。それこそが政治の判断である。極端に言えば「正しい政策はこれだ」というのは書店に行けば、いくらでも売っている。実際にどうやるか、が政治の問題なのだ。
06年の経験から、安倍政権はその点を文字通り痛いほど学んでいる(06年政権について、詳しくは拙著『官僚との死闘七〇〇日』講談社、08年)。菅義偉官房長官と懇談した際、政策と手順という06年政権の教訓について意見を述べたら「まったく、その通りだ」と同意した。
違憲国会とは別に「憲法改正にすぐ着手できない」別の根本的理由もある。それは国民の理解が十分でないからだ。たとえば、改憲派の読売新聞の世論調査でさえ、改正賛成派はわずか51%にすぎない。
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