光の塔の最上階へようやく到着することが出来たオルフェは、すぐさま現状を把握した。
ドルチェに対して魔物をけしかけていたフィアナ・・・。
右頬の傷を見て・・・、オルフェの瞳が氷のように冷たくなる。
オルフェの顔が冷徹な表情に変わりフィアナを一瞥すると、メガネのブリッジを指で
押さえながら前に進み出た。
それに反応するかのように、levitra ・・・フィアナが後ずさる。
オルフェから放たれる威圧感におされ、フィアナ自身にはまだ攻撃の手が伸びていない
にも関わらず・・・フィアナの顔には苦渋が滲み出ていた。
「張り切るのもいいが少し度が過ぎたようだな、フィアナ・・・。
お前が憎むべき相手はこの私・・・、ドルチェは関係ないだろう。」
全く笑みのない顔でオルフェが言い放つ。
その言葉を聞き・・・、フィアナは嫉妬にも近い感情で声を荒らげた。
「そいつがいけないのよっ! そいつが存在するせいで、あたしは・・・っ!
・・・・・・うぐっ!? な・・・っ、なに・・・っ!?
う・・・あ・・・っ、ああああぁぁぁあぁぁああーーーーーっっっ!!」
突然フィアナが絶叫し、オルフェが投げつけたホーリーランスがかすった脇腹を
押さえて苦しみ出した。
喉が張り裂けんばかりの勢いで喚(わめ)くフィアナを見ても、オルフェは眉すら全く
動かすことなく・・・冷ややかな視線でじっと窺うだけである。
「苦しいか・・・? そうだろうな。
さっき投げたホーリーランスの刃先には、たっぷりと毒を塗り込んでおいたから・・・
ようやくその毒の効果が現れたようだ。
お前を殺す気はないが、このまま自由にさせておくわけにもいかない。
これは仕置きだと思え。」
「ああああぁぁあーーーっ、くぅ・・っ! こ・・・んの・・・っ!!
うぅ・・・っ、どう・・・してっ!?
どうし・・・てっ!? うあああぁあーー・・・・っ、あああぁあ・・・っ!!」
体内の臓器全てを無数の鋭い針で、深く突き刺してはえぐる・・・というような激痛に
耐えることで精一杯になっているフィアナは、うまく言葉を紡ぐことが出来ずに・・・
ただ悶え苦しむ他なかった。
床の上を這いずり回るように苦しんでいるフィアナの姿を、その目で見たドルチェが
一歩・・・フィアナに歩み寄ろうとしていた。
しかし・・・、自分がなぜ今・・・フィアナに歩み寄ろうとしたのか・・・。
そんな自分の行動が理解出来ずにいたドルチェは、すぐさま足を止めた。
ドルチェは至って冷静なままのオルフェを見上げると・・・、不思議そうに尋ねる。
「大佐・・・、なぜ?」
「あれが本物のフィアナであろうと、そうでなかろうと・・・。
彼女が犯した過ちは、口だけの謝罪で済むような問題ではありませんからね・・・。
このまま生かしておいても私達にとってプラスになるようなことはありませんが、
一応ルイドの手前・・・殺すわけにもいきません。
これまで犯した罪に関しては、この程度の措置で十分でしょう。」
オルフェの言葉に、私的な感情は一切なかった。
犯した罪に対する贖罪、そして情勢を考えた結果・・・これが妥当だと判断した
行動である。
ふと見えたオルフェの横顔から・・・『獄炎のグリム』という冷徹な顔が、覗いていた。
数分程悶え苦しんでいたフィアナは精神的な面と体力的な面から、・・・どうやら限界に
達したようで、気絶したかのように突然静かになるが・・・わずかに体が痙攣している。
それを確認するとオルフェは、ようやく安全になったと判断してフィアナの背後にあった
祭壇の間の方へと歩いて行く。
大きな扉に手を触れて暗香 ・・・、どこかに開閉する為のドアノブやスイッチがないか探した。
しかし観音開きの大きな扉には何も付いておらず・・・どうやって開閉したらいいのか
わからない。
「恐らく光の神子に反応して扉が開閉する・・・、といった具合でしょうね。
光の塔の出入り口となる扉の鍵さえあれば、割と誰でも出入り自由になっているみたい
ですから・・・ここだけは厳重に、というわけですか。
・・・これは中尉達がザナハ姫を連れて戻るまで、待つしかなさそうですね。」
そう呟くと、オルフェはフロアの壁にもたれかかりながら、小休憩を取った。
ドルチェもオルフェの隣に座ると、先程ダメージを受けたベア・ブックの背中の処置に入る。
長い沈黙が流れる中、オルフェは床に倒れたままのフィアナから決して目を離さなかった。
時折時計を確認しながら休憩を取っていたオルフェは、最上階のフロアに到着してから
約1時間後に・・・下方から奇妙な音が聞こえて来たことに気付く。
がしょん・・・、がしょん・・・、がしょん・・・、がしょん・・・!
金属で出来た巨大な物体が、まるでスキップでもしながら階段を駆け上がって来る
ような・・・そんな軽快な音。
その音がだんだん近づいて来て、オルフェとドルチェは立ち上がり・・・一応警戒した。
がしょん・・・! がしょん・・・! がしょん・・・! がしょん・・・!
やがて・・・。
「うらぁーーーーーっ、到着したぜこんちくしょーーーーっ!!」
大きいサイズの機械人形のてっぺんに乗っているアギトが、両手を振りかざして
喜びを表すようにガッツポーズしている。
よく見ると機械人形にしがみつくように、ミラとザナハが・・・。
そしてこともあろうにルイドとサイロンまでもが、機械人形の背中部分にあるわずかな
スペースを足がかりにして乗っていた。
がっしょん・・・と、最後の段差を上りきった機械人形はそのままシューッと煙を
噴き出して停止する。
そんな不可解で奇妙な光景を、オルフェは白い目で見つめていた。
機械人形から全員が降りると・・・、アギト達はすぐさまルイド達から距離を離す。
ルイドは扉の前で倒れているフィアナをすぐに見つけて・・・、壁際に立っている
オルフェを睨みつけた。
しかし一瞥しただけで特に何か言葉を発することもなく、ルイドは倒れているフィアナに
歩み寄ると生死を確認し・・・そのまま溜め息を漏らす。
「これがお前の仕打ちか・・・、ディオルフェイサ。」
怒りを表に出さず平静のまま、ルイドが静かな声で尋ねた。
オルフェもまた・・・、笑顔のない顔で答える。
「えぇ・・・、あなたの部下は随分とやんちゃが過ぎたのでね。」
「この程度で済んだ、それだけでも・・・かなりの温情をかけられたと言うべきか。」
「ところで・・・、私の視力が確かならば・・・。
あの機械人形に皆さん全員・・・、仲良く搭乗していたように見えたのですが?
この旅が終わったら、私はメガネを新調した方がいいと思いますか!?」
早速回りくどいイヤミが飛んで来る。
なぜ今の言葉がイヤミになるのか・・・、答えは簡単だ。
視力の悪い人間は軍人になれない、つまりオルフェがかけているメガネには度が
入っていないのだ。
それを以前聞いたことがあるアギトは、オルフェのあからさまなイヤミに表情を
歪めて嫌悪感を露わにしている。
すぐにミラがオルフェの側に駆け寄ると、叱責を覚悟するような表情で質問に答えた。
「申し訳ありません大佐、これは私が彼等に申し出たことなんです。
奈落の底に落ちた我々は・・・、一時的に共同戦線することになりまして。」
「敵に頭を下げたのですか? それは軍人として恥ずべき行為ですね。
それに関してはまた後ほど追及するとして・・・。
では今、私達の目の前にいるルイドと若君は・・・敵か味方か、どっちなんです?」
「・・・若君はあくまで中立だと言い張ってますが、ルイドは・・・。」
ミラがそう言いかけて、ルイドの方を窺う。
その視線に気付くと・・・、ルイドは微かに笑みを浮かべただけだった。
「敵・・・、でよろしいですね?」
含み笑いを浮かべたオルフェが、そう判断した。
それが合図だったかのようにViagra 、アギトとドルチェに緊張が走る。
「待って!」
「待った!」
ザナハとサイロンが同時に叫んだ。
思わぬハモリに、ザナハが唖然としてサイロンの方に注目する。
しかしサイロンは全く気に留めていない様子で、扇子でぱたぱたとあおぎながら
悠々とした表情を浮かべていた。
てくてくと・・・、オルフェ達とルイドの間へ割って入るように立ち塞がる。
まるで自ら中立を意味するかのように。
「双方共、武器を収めるが良い・・・というか誰も武器を手にしておらんな。
・・・結構!
では、しばし皆の時間を余にくれぬか。
族長の喪中の最中(さなか)、余がはるばるここまで来た理由を述べようぞ。」
サイロンの言葉に、全員が怪訝な顔になる。
時間をくれ・・・と告げられて、オルフェ達が相談する間もなく・・・サイロンは
双方が返答する前に、ちゃっちゃと理由を話し出した。
「実はこの開戦に関しては、龍神族側の結論は全て元老院が下したことなのじゃ。」
「・・・了解を得る気、皆無じゃん。」
ぼそりとつっこむアギトだが、当然サイロンの耳には届かない・・・永遠に。
「龍神族次期族長という肩書を持っておって、余は何と情けないことか・・・。
そこで余が色々考えた結果・・・、ようやく覚悟を持って結論したことがあるのじゃ。
この光の塔へ赴いたのも、その覚悟を全世界に伝える為に必要だった。」
サイロンの言葉の筋道が全く見えず、アギトは首をひねるばかりだ。
「全世界に伝える・・・って、どうやって?
つーか、何を?」
アギトの問いかけに、先に口を開いたのはルイドだった。
「まさか・・・、『あれ』を使う気か!?
無茶だろう・・・、まだ誰一人として上位精霊と契約を交わしていないというのに。
いや、交わしたとして・・・それが可能かどうか誰にもわからん。
何を伝えるつもりか知らないが、少し待て・・・。
お前の話はいつも唐突過ぎるぞ。」
ルイドの動揺から察するに、サイロンがやろうとしていることは・・・どうやら相当
無謀なことらしいと窺える。
そんな時・・・、ルイドの言葉からヒントを得たのか・・・オルフェが何かを理解した
様子だった。
「あなた達が言っているのはもしかして、古代空母フロンティアにも搭載されていた
であろう・・・、例の装置のことですか!?
以前、師から聞いたことがあります・・・。
この光の塔から世界に向けて、言の葉を発信することが出来る装置が隠されている、
という話を・・・。
しかしその装置を起動させるには、特定の精霊の力が必要だとか・・・。
残念ながら、どんな精霊が必要だったかまでは・・・私にもわかりません。」
オルフェの言葉からアギトは、この光の塔が巨大なスピーカーになる・・・という
想像をした。
しかしここはレムグランド、異界の歪みの位置関係にある他の国・・・。
アビスグランドや龍神族の里へどうやって音声を送るのか、全く想像出来なかった。
「勝手に話を進めてるとこワリーんだけど、・・・何? 何でみんな乗り気!?
いつの間に馬鹿君の意見を中心に展開が進んでんだよ、わけわかんねぇんだけど!」
唐突な展開に全くついて行けないアギトは、たまらず文句を口にする。
いつも置いてけぼり、いつも説明不足、・・・こんな扱いにはもううんざりしていた。
しかしオルフェは平然とした顔でキッパリと告げる。
「安心しなさい、私にもさっぱりなんですから。
ここにいる全員がアギトと同じ立場ですよ、何が何やらわけがわかりません。」
オルフェは肩を竦めるように・・・、そしてどこかサイロンを相手にすること自体に
諦めを感じているかのように、お手上げ状態という仕草をした。
「なぁ~に、心配するでない。 誰一人として困らない提案じゃよ。
実はのう・・・ここに、ある人物からの密書がある。
正体を明かすわけにはいかんが、そうじゃな・・・本人曰く『黒衣の剣士・レイ』と
呼ぶように書かれておる。
とりあえず、この者のことはレイと呼ぶことにしよう。」
サイロンが明かした人物を聞いた途端、オルフェは思わずガクッと体勢を崩した。
慌てて冷静さを保つかのようにメガネの位置を直すフリをして、咳払いしている。
その横ではアギトの瞳が突然輝かしい光を放って、どこかわくわくしていた。
「それでVVK ・・・、その密書には何て書かれていたんだ?」
ルイドが静かな口調でサイロンに尋ねる。
「衝撃的なことが書かれておった。
奈落の底でルイドにはすでに話したことじゃが、親父殿の死後・・・里は
てんやわんやで、一時的にディアヴォロの監視がおろそかになってしまった。
恐らくその隙をつかれたんじゃろう・・・。
その時期を境に、ディアヴォロの眷族の存在を感知するようになったのじゃ。
レイの話によればレムグランドでも複数の目撃証言や実害があったようでの。
中でも一番注目するべき点は、ディアヴォロの眷族の一人が・・・ガルシア
国王に接触している可能性が高いことが判明したのじゃ。」
「・・・・・・っ!!」
全員が息を飲む。
オルフェに至っては少なからず推測していたのか、驚いたのは一瞬だけだった。
しかしアギトを始め・・・、特にザナハはショックが大きかったようだ。
全員の反応を窺いながらサイロンが続ける。
「もしそれが事実なら、これまでの国王の乱心ぶりに合点がいくことになる。
ならばガルシア国王から眷族を引き離し、正気に戻すことが出来ればこれまでの
暴虐行為に終止符が打たれる・・・、という希望が出て来る!
しかしこの眷族、相当頭がキレるようでの・・・なかなか尻尾を出さんらしい。」
「なるほど・・・、そこで餌をまく・・・というわけだな。」
ルイドが小さく呟いた。
サイロンの思惑が見えて来たところで、結論を言う。
「眷族を釣る為に、いい作戦を思いついたから・・・それを実行する為にここまで
来たというわけなのじゃ。
今は開戦状態、余が一人で国同士を行き来しても・・・きゃつらに悟られるのがオチ。
そこで光の塔に存在すると言われておる、先程グリムが言った装置を試してやろうと
思った次第なのじゃよ。
どうじゃ、お主達も少しは協力する気になったかの!?
今戦うべきはレムとアビスではない、・・・諸悪の根源であるディアヴォロじゃ!
以前・・・余は、年端も行かぬ小童に説教されたわ。
中立という立場にいながら、なぜ何もしないのか・・・とな。
確かにその通りじゃ、余はレムとアビスの間にある確執を理由にするだけで・・・
自ら動こうとしなかった。
龍神族次期族長という肩書を持ちながら、他の者に比べれば武器になりそうな身分や
権力があるにも関わらず・・・そんな立場にいる己が嫌で、反発して・・・。
・・・逃げていただけじゃ、己の現実からのう。
しかし、今となってはそんなワガママを言ってられん所まで来てしまっておる。
親父殿がいない今・・・、余が一族をまとめ上げ・・・導いて行かねばならんのじゃ。
その第一歩として、ここにいるお主達にも協力を仰ぎたい。
・・・頼む、余に力を貸してはくれまいか!?」
サイロンが・・・。
あの高慢ちきで、高飛車で、他人の言葉には耳を傾けないような気高い男が・・・。
オルフェとルイドに向かって頭を下げていた。
それだけ必死になっている・・・、そんな姿を目の当たりにした二人は・・・しばし
沈黙を保っていたが、やがて互いに笑みを浮かべる。
それが答えだった。
「友の頼みだ、聞かないわけにはいかんだろう・・・。」
そう言って、ルイドはサイロンの肩をぽんっと叩いて頭を上げるように促した。
「そうですね・・・、私も元々アシュレイ殿下から密命を受けていましたから。
どのような方法を取るつもりなのかはわかりませんが、出来る範囲でなら
協力しますよ巨人倍増。」
レムとアビス・・・、オルフェもルイドも国の権力者というわけではないが・・・、
重鎮と言っても過言ではない地位にある。
その二人が手を組む・・・、こんな日が来るとは誰が予想出来たであろうか。
長年の間互いに憎しみ合っていた国同士が、共通の敵と戦う為に協力し合うなど・・・。
まさにレムとアビスの歴史的瞬間でもあった。
(せっかくリュートが勇んで架け橋になろうとしているのに、思いがけない所で
勝手に実現してしまいましたね・・・。
まぁ・・・、こちらとしては完全に信用しているわけではありませんが。
あくまで陛下にまとわりつく虫をおびき出す為・・・。
その足掛かりとしては、・・・まぁ十分でしょう。)
一見感動的な場面だが・・・、オルフェは笑顔の裏で腹黒い考えを巡らせていた。
そうとは知らず、感激に満ちているサイロンのテンションは一気に最高潮に達しており
早速計画を実行に移そうと張り切っている様子だったVOV催情粉。