いま最も深刻な問題は「民主主義の機能不全」。「日本の民主主義は民主党が息の根を止めてしまった」とならないことを望む波頭亮(経済評論家)

2012年09月22日(土)
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 しかし何より問題なのは、原発事故に関する事実の隠蔽、国民をミスリードするメディアの統制、いわゆる"原子力ムラ"の中での利害とご都合主義による政策決定の独走といった民主主義の基本を逸脱した問題があまりにも目につくことだ。

民主主義国家の政治家としての不見識

 震災ショックがある程度落ち着いた後、国民の最大の関心事となった原発継続か脱原発かについて国家的意思決定を行う場合において、世論調査では脱原発の意見が圧倒的に多数であった。それにもかかわらず、民主党政府は国民の意向を無視して原発の維持を決めた(一度は、脱原発的な方針の意思表明をしておいた挙句、閣議決定では決定を見送るなどという姑息な手段まで、今や駆使するようになっている)。明らかに民主主義的に正統な手続きを逸脱しているし、国民の意志は尊重されていない。

 消費税増税の強行もひどいやり口である。

 民主党は、事実上の二大政党制の下で、消費税増税の必要性を説く自民党と、増税の前にやるべきことがあるとして消費税増税に否定的な民主党という構図で選挙を争って政権に就いた。その民主党が、自民・公明という野党と連合して消費税増税を強引に決めてしまったのは、民主主義政治の規範に照らし合わせて云々と論評をするまでもない、茶番だ。いや茶番として笑っていられるような事態ではない、政党政治の自己否定である。

 国民の世論調査では、原発問題のケースと同じく、強引な消費税増税には反対する国民が多かった。その証しに、与党民主党の内部ですら意見は大きく割れ、離党する議員まで少なからず出た。それほどの暴挙が次々に重ねられていっているというのが、今の日本の政治のあり方である。

 菅政権、野田政権と、民主主義に対するこうした冒涜の度合いは益々強まって来ている。

 日本の民主主義は危機的状況にある。にもかかわらず、自民党総裁選、民主党代表選での候補者たちの政権構想や、あるいは維新の会の政策論議を聞いても、この民主主義のしくみが機能不全に陥ってしまっているという問題を今の日本社会の最重要イシューとして訴える向きがない。これは民主主義国家の政治家として不見識という他ない。

 「09年、民主党は鳩山政権によって歴史的政権交代を果たし、12年には野田政権が自公と結託して、日本の民主主義の息の根を止めてしまいました」、などとならないことを切に望む。

 

波頭亮(はとう・りょう)
経営コンサルタント、XEED代表、経済評論家。1957年愛媛県生まれ。東大経済学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。88年、経営コンサルティング会社XEEDを設立。戦略系コンサルタントの第一人者として活動を続ける傍ら、常に明晰な分析と斬新なヴィジョンを提起するソシオエコノミストとしても有名。著書に『成熟日本への進路』『リーダーシップ構造論』『就活の法則 適職探しと会社選びの10ヵ条』『プロフェッショナル原論』など。
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