リムジンでレセプションに登場!
2010年5月某日。グランドオープンに先駆けてレセプションオープンを行なう「居酒屋革命」葛西店前の路上には、全長11mと7m20㎝の2台のリムジンが圧倒的な存在感を示しながら威風堂々と停められていた。2台のリムジンはともに「居酒屋革命」を総合プロデュースする天野雅博氏の所有物であり、仮にそれが何の工夫もなくただ単に路上に停められていただけならば、広告塔としての役割を狙った天野氏の思惑とは裏腹に、余りにも居酒屋との接点が感じられず通行人の目にはどこかチグハグに映ったかもしれない。
だが、そのリムジンには驚くことに「居酒屋革命」のチラシが至る所にベタベタと無造作に貼られており、まさしく飾りっ気のない正真正銘の“広告塔”の扱いを受けていたのである。高級車を大胆に扱うその強烈無比なまでのギャップはどこかユーモラスで温かみがあり、それゆえ道行く人の誰もが驚き、知らず知らずのうちに釘付けにされていった。まさに絶妙な匙加減による計算されつくした、比類なきインパクトの打ち出し方だと言えよう。
さらに、そのチラシには「焼酎無料のお店」「酒代おごるから、呑みにいこうよ」といった、これまでの飲食店の常識を覆す大胆不敵なキャッチコピーが赤文字で生き生きと踊っている。こうしたエピソードからも推し量れるように、従来の居酒屋業界の常識をぶち破る革命的な売り方で、いま業界各方面から熱い視線を注がれる大注目の居酒屋が「居酒屋革命」なのだ。
「この葛西の立地を見た時に最初にまず思ったのは、あぁ、ここは苦戦する場所だなってこと。通行人が余りにも飲食店のビラ配りに慣れていて、単にビラを配っただけではそれが通用しないんですよ。でもそこにリムジンを止めてチラシを配れば、それだけで通行人が何だ何だと吸い込まれるように寄って来るんですよね」
なぜ“焼酎無料”を打ち出したのか
居酒屋とリムジン。それくらい人々をあっと驚かせる意外性の強さがなければ、競合が天井知らずの如く激化する現代において、お客の関心を引き寄せることはなかなか容易なことではない。それでいて単にインパクトの強さのみを狙ったのではなく、お客のツボをくすぐる心憎いまでのトラップが巧みに仕掛けられている。
焼酎が無料というのもそう。本来、酒を売るのが目的の居酒屋が売り物の酒を無料にする。これほど大胆不敵で危険さと背中合わせな売り方は、他を見渡してもそうそう見つかるものではない。「居酒屋革命」を総合プロデュースする天野雅博氏は著書『貧乏は完治する病気-金持ちになるための劇的な思考法-』(あさ出版)の中で、10年ほど前に手がけて大成功を収めた酸素ビジネスの話を例に挙げながらこう語っている。
「私が以前アメリカから導入した酸素の発生装置には、さまざまなノウハウがあったが、私はその商品を売りだす際に、商品のスゴサを打ち出すのではなく、低価格を打ち出した。競争相手から、『いったいあんな値段で、どこから利益を出すのだろう』と不思議がられるような価格設定にしたのだ。世間にいちばん目立つところで儲けようとすれば、必ずもっと安い値段で切り込んでくる相手が現れ、価格競争に引きずり込まれる。だから私は、思い切り安くした。利益の源泉は、店を運営するさまざまなノウハウのなかに埋め込まれていて、外見上はわからないようになっていた。だから、技術上の特許などを取る必要もなかった。結果、追随できる業者はあらわれず、この酸素ビジネスは大成功を収めたのだった」。
まさに現在の焼酎無料の売り方の源泉をここに見ることができる。こうした天野氏の思考を踏まえた上で、ではなぜに「居酒屋革命」は焼酎の無料化に踏み切ったのだろうか?
「僕がかつて47社の会社を経営していた頃、行きつけのバーのオーナーから代わりに店をやってもらえないかと頼まれてバーを手がけたことがありました。その時、大手居酒屋チェーン店の店長がお客さんとしてよく飲みに来てて、『売上げがよくない』と話すんですよね。『何でダメなの?』と聞くと、『お客さんがご飯を食べて2軒目の店として来て、それで安い酒を飲んでダラダラと過ごすから』だって言うんです。そこで、『お客さんの飲むメインの酒は何なの?』と尋ねると、焼酎だと言うから『じゃあ、それを無料にすればいいじゃん』って言ったら『そんなことできるわけがない』と言われたんですよ」
この大手居酒屋チェーン店の店長が考えるように、居酒屋にとっての焼酎は利益率のよいドリンクとして捉えるのが一般的な常識であり、決して外すことのできない利益の出しどころでもある。
「誰もやらないことをやる!」
天野氏は前出の著書の中で、「新しい商売を始めるなら、誰も思いつかない、誰もやろうとしないことを仕掛けるに限る。当然、誰もやらないくらいだから、リスクだらけだったり、儲かりそうもないことに決まってくる。だからこそ、儲けるチャンスがある」と語っており、だからこそ焼酎を無料にしようなどというとんでもない発想が湧き上がってくるのであろう。実際、集客のために焼酎を格安に設定したり、半額で販売するといった店も無いことはないが、「居酒屋革命」は「当店では、焼酎の料金を一切いただきません!」と謳うように、そこまで徹底して突き抜けることで、お客にそのインパクトの強さを有無を言わさずストレートに伝えている。
結果的に焼酎無料が話題になれば、「それなら一度、店に足を運んでみよう」と考える浮遊客層がどっと押し寄せ、その効果はさらに何倍にも高まることとなる。「居酒屋革命」の焼酎無料システムは1人料理を2品注文することを最低条件としており、その条件さえクリアすれば基本的に何時間店に居て、何杯飲んでもよいとしている。
事実、1号店の大山総本店には1000円札を握り締めて日曜日を除いて毎日通い詰めるお客さんや、1000円以下の利用で6時間も腰を落ち着けて飲むお客さんもいるという。だが、天野氏はそういう小額利用のお客ほど大切にするようにと従業員に強く言い聞かせている。なぜなら、そういうお客ほどまた別のお客を連れてきてくれると言うことを身を持って知っているからだ。
「居酒屋革命」では焼酎の無料サービスばかりがクローズアップされがちだが、実はタバコも無料でサービスしており、こうしたサービスを受けたお客はその“優越感”を自ずと誰かに自慢したくなるもの。こうした人間の心理を巧みについた売り方が、「居酒屋革命」の何よりの強みでもある。
「一般には、安くすればお客さんは来てくれると思われがちだけど、うちは別段取り立てて安くないんですよ。あくまで、適正なものを適正価格で出しているだけですからね。それを安いと言われてるだけであって、価格競争をやってるつもりなどまったくありません。よく見ていてください。うちのお客さんは帰る際に『あぁー、酔っ払った』とは言わないんですよ。『あぁー、お腹いっぱいになった』って言って帰られるのが特徴ですね。だって普通の居酒屋なら焼酎を10杯飲めば4600円はするけれど、うちではその代わりに4600円分の料理が食べられるんですから、お客さんとしてはもの凄く満足感が高いわけですよ。焼酎だけ飲めばアルコール代がかからないわけだから、その分だけいいものを食べたくなるのが人情じゃないですか。だから毛ガニやホッケがぽんぽんと売れますね。また、常に楽しい空間づくりを心がけており、お客さんと毛ガニをかけたじゃんけん勝負をやることも。お客さんが勝ったら無料だけど、我々が勝ったら3000円っていうふうにね。その結果が我々の8勝2敗。何よりお店が大盛り上がりですよ」
天野氏の現在の肩書きは世界的なカジノビジネスプランナーであり、また飛行機事業も営む。そのため、彼の発想は飲食畑で育った人たちの感覚とははっきりと一線を画する。
“笑いを売る”のが笑売=商売
「不況でお客さんが来ないと皆さん口を揃えていいますが、僕に言わせれば商売の基本が何なのかということですよ。ビジネスの基本は場の創造でしょう。ディズニーランドは楽しいからこそ大勢の人が足を運ぶわけであり、飲食店も楽しかったら不況や立地などに関係なくお客さんは足を運ぶもの。だいたい、アメリカでサブプライムローンが崩壊したといって、それが何で居酒屋と関係あるんですか?地球上にあるお金の総量は変わってないんですよ。それをさも影響があるかのように言うんですかねぇ。我々は“笑いを売る”と書いて『しょうばい』と読んでおり、葛西店の入口には『笑売繁盛』との看板を掲げています。お客さんの笑いが絶えない店こそが繁盛する店であり、『居酒屋革命』という店名も閉塞した居酒屋業界に革命を起こそうとしてつけたものです。はっきり言いますが“ワタミ”以降の居酒屋業界って、“ワタミ”以上のものが出てないですよね。ある意味、“ワタミ”は憧れの的でもあるし、でも僕なら“ワタミ”以降の“ワタミ”ができるよって。それが我々の『居酒屋革命』ですね」
2009年末、東京・大山に「居酒屋革命」大山総本店をオープン。その後、半年後には吉祥寺本店、巣鴨店、葛西店、銀座本店を開業。近々には山梨・甲府への出店も控えており、さらにFC希望の声も全国から多数寄せられ、最終的には年内50店舗、5年で300店舗達成を視野に入れる。また、銀座本店は女性限定で焼酎に加えて日本酒と梅酒も無料にするなど店舗ごとのサービスの差別化も導入。今後の展開として「居酒屋革命」以外の業態にも着手し、先日、カレーが無料のラーメン店を神奈川・相模原に出店したばかりである。
「皆さん、ラーメンを注文したらカレーが無料になると思ってるようですが、ラーメンを食べなくてもカレーは無料ですから。ラーメンを食べずにカレーだけ食べていけばいいんですよ。この店を20店舗、あと、おでん店を20店舗。これが『居酒屋革命』につぐ、新業態の構想です。『居酒屋革命』に関しましては僕の総合プロデュースは一応10店舗までの予定なので、それまでにシステムを確立して動かせていけるようにと考えています。恐らく5年後、10年後には居酒屋業界にはいないと思いますよ、僕は」
※ 「居酒屋革命」「笑売」は商標登録済み
(印束義則)
1967年生まれ、北海道出身。少年院、少年刑務所を出所後、ビジネスに開眼。少年時代から発揮していた商売の才覚に、刑務所時代の有り余る時間に蓄えた無数のアイデアを加え、多数の事業を手がける。そしてそのどれもを大成功させ、47社の会社を経営するまでに成長。その後は会社を売却し、6年間の遊民生活を経て、現在は「居酒屋革命」の総合プロデューサー、カジノビジネスプランナーなどを兼任する。
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