がんに次いで日本人の死因第2位の心臓病。その心臓病専門医のほとんどが、名ばかりのプロだという調査結果がある。この事実を知れば、元気な人でも心臓が止まりそうになるほど驚くことだろう。
儲かるから、心臓外科医が増加
78歳になる天皇の心臓バイパス手術と、その後の胸水を抜く手術などで、執刀医となった順天堂大学医学部附属順天堂医院の天野篤氏のように、「神の手」と呼ばれる心臓外科医が存在することを知った人は多いだろう。
だが、産婦人科や小児科で、医師不足から患者が病院をたらい回しにされる事件が相次いでいる状況にあって、心臓血管外科の専門医だけが毎年増え続けていることはあまり知られていない。'04年に1453人だった心臓血管外科専門医は現在1814人に増加。心臓血管外科の看板を揚げている病院も、'04年当時の813施設から、現在は942施設にまで増えている。
理由は、これから進む一方の高齢化社会において、心臓病が「儲かる病気」だからに他ならない。心臓病による死亡者は毎年増え続け、昨年の死亡者は19万8000人に達した。死因ではがんに次ぎ第2位。また治療中の患者は現在154万人。そのうち、天皇のように動脈硬化で心臓の血管が狭まり、血液の流れが悪くなる狭心症や、心筋梗塞など「虚血性心疾患」の患者は55歳から急増し、55歳から64歳までで患者全体の9割を占める。言ってみれば、約700万人の団塊世代は皆、心臓病予備軍で、今後患者が増えることは確実な状況だ。
20年にわたり心臓外科の最前線でメスを振るう心臓外科手術のスペシャリスト、東京ハートセンターの南淵明宏センター長がこう指摘する。
「日本の医療制度では、これまで医師の『質』はまったく管理されてきませんでした。だから、ペーパー試験で専門医師の資格を取得しただけで、まともな手術ができない医師が増えてしまった。その典型が心臓外科分野なのです。
心臓外科の看板を掲げたけれど、手術ができない医師もいれば、経験もないのに本来なら手術の必要がない患者まで手術台に乗せ、患者を死なせてしまうケースもある。心臓手術は患者さんにとって命を賭した手術。しかし、心臓外科分野は『にわか専門医』と『にわか専門病院』が野放し状態で乱造されているのが現状です」
南淵医師の発言を裏付ける、衝撃的なデータがある。
昨年12月、日本胸部外科学会は、2010年中に全国の各病院が手がけた心臓の手術実績のアンケート結果を公表した。調査の対象は、国内で心臓外科の看板を掲げている942施設のうち582施設。匿名を条件に回答したのは496施設である。
アンケートでは、もっとも患者数の多い「虚血性心疾患」に加え、「先天性心疾患」「弁膜症」「大動脈瘤」という四つのケースで、それぞれ手術件数、死亡者数、死亡率を尋ねている。
たとえば、「虚血性心疾患」では、手術実績がもっとも多かった病院で年間198例。100例を超えた病院は10施設で、手術実績がゼロという病院も15施設ある。
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