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海外事例

米国連邦取引委員会(FTC)

わずか100日で電話セールス撲滅システムを構築 ~米国の歴史上最も成功した公共ITプロジェクトの全容~

2005/01/11

米国連邦取引委員会(FTC)は、テレマーケティング業者などによる執拗な電話セールスを規制するべく、消費者がFTCの提供するシステムに電話番号を登録することによって、業者からの電話を簡単に拒否することのできる「Do Not Callシステム」をわずか100日足らずで立ち上げた。このITプロジェクトは、米国の歴史の中で最も成功した公共ITプロジェクトとして全米メディアならびに市民の注目を集めている。FTCは、いかにしてこの一大プロジェクトを成功へと導いたのであろうか。本稿では、その秘訣を探ってみたい。

トッド・ダッツ Text By Todd Datz

大統領自ら、プロジェクトの“勝利”を宣言


FTCでCIOを務めるスティーブン・ウォレン氏。氏は、迷惑な電話勧誘を拒否するためのDo Not Callシステムを構築するにあたって、Do Not Call制度の予算が米国議会によって承認される前に、あらかじめ提携ベンダーの候補を絞り込んでいた。 photo by Drake Sorey

 2003年6月27日の午前8時30分、ブッシュ大統領がホワイトハウスの庭園に集まった取材陣の前に姿を現した。「Do Not Call(電話勧誘拒否登録)制度」の正式な発足を発表するためである。

 「セールス目的の迷惑電話ほど煩わしいものはない。何より数が多すぎるのが厄介だ。一家団欒の夕食時や、子供に本を読み聞かせている最中に、見ず知らずの人間がかけてくる電話セールスに応対したいと思う市民が、はたしているだろうか」――ブッシュ大統領のこのスピーチは、テレビのニュース番組の中で生中継で放送された。

 そのテレビから流れてくる大統領の声を、米国連邦取引委員会(FTC)のCIO、スティーブン・ウォレン氏は、不安げな面持ちで聞いていた。というのも、消費者にとって迷惑な電話セールスを防止する「Do Not Callシステム」は、同日午後12時1分の稼働開始を予定していたが、ウォレン氏としては、初日からシステムが正常に機能しないという事態だけは絶対に避けたかったからだ。同氏はその日の早朝からシステムの最終チェックを行っていたが、大統領が演壇に登ったその瞬間にも、システムはまったく問題なく稼働していた。

 Do Not Call制度では、まず電話勧誘を望まない人が「Do Not Call登録簿(拒否者名薄)」に自宅の電話や携帯電話の番号を登録する。登録は無料で、専用のWebサイト「www.donotcall.gov」やコールセンターを介して行われるが、政府のPR活動の効果もあって、登録開始からわずか72時間で、実に1,000万を超える電話番号が登録された。

 このように国を挙げて迷惑電話対策に取り組んだ結果、テレマーケティング業者はDo Not Call登録簿を購入しなければならなくなり、当然ながら、従来のような無差別電話勧誘を行うことは事実上不可能になった。これを不服とするテレマーケティング業者はFTCを提訴し、現在も法廷でその是非が争われているが、現実には、Do Not Call制度の最終的な目的は達成されつつある。すなわち、すでに消費者は電話によるセールスを簡単に拒否できるようになっているのだ。

 「Do Not Call制度は、米国でも屈指のプライバシー保護政策だと言える」と、ワシントンD.C.に拠点を置く電子プライバシー情報センターのディレクター、クリス・ホーフナグル氏も同制度を高く評価している。

プロジェクト・リーダーの資質とは

 1994年、米国連邦議会はFTCに対し、悪辣で不当なテレマーケティング商法を駆逐するための法令を制定するよう命じた。これを受けてFTCは「テレマーケティング販売規制」を設け、消費者がテレマーケティング業者に対して電話勧誘をやめるよう依頼した場合、業者はそれに応じなければならないと定めた。

 2000年になり、FTCは同規制の効果を測るべく1年にわたって調査したが、その結果はあまり思わしいものではなかった。一方、執拗な電話セールスに悩まされる消費者を見かねて、各州政府が独自に電話勧誘拒否者リストを作成し始めたのもこの時期であった。

 その後FTCは、2002年1月に先の規制を強化し、「テレマーケティング業者は、電話勧誘拒否者の登録リストをあらかじめ入手し、そのリストに掲載されている番号には電話をかけてはならない」といった内容を含んだ新たな規制を設けた。

 ウォレン氏がFTCのCIOとして就任したのは2001年12月のことで、折しもFTCで上記の規制に関する最終的な検討が重ねられていたころであった。当時、FTCの議長であるティモシー・ムリス氏は、FTCの消費者保護局で計画・情報課の共同責任者を務めていたロイス・グレイスマン氏に、新たな規制を制定するにあたって現場を統括するよう指示し、“新人”のウォレン氏にも、同プロジェクトに携わるよう指示した。

 グレイスマン氏は、「政務関係者の思考法は常に『こうしたいから、こうする』といったもので、可能性やコスト、あるいは他の選択肢などに関する配慮に欠けていた」と述懐する。また、ウォレン氏によれば、「計画立案の段階から、IT業界の人間と政務関係者が同席するのは、これが初めてだった」という。

 かつてエネルギー省でCIOを務めていたウォレン氏は、Do Not Callプロジェクトのチームに対し、まずDo Not Call登録簿の作成や配付に関するさまざまな技術的オプションについて検討するよう指示した。その結果、プロジェクト・チームは、Do Not Callシステムの柱となる5つの要素を提案し、ウォレン氏はそれらをシステムに盛り込むことを決定した。その要素とは、すなわち、「消費者による番号の登録」、「業者によるリストへのアクセス」、「業者がリストを無視した場合に消費者が苦情を申し立てるためのシステム」、「法執行機関が参照できる登録電話番号と苦情に関するデータベース」、「連邦が管理するリストと州が管理するリストの情報を相互に利用できるようにするためのインタフェース」の5項目である。

 Do Not Callシステムを構築するにあたって、ウォレン氏は、FTC内部のリソースだけでは足りないという結論に達していた。そこで、ゴーサインさえ出ればいつでもプロジェクトを進められるよう、前もって提携ベンダーの候補をリストアップしていた。なにしろ、Do Not Call制度は消費者からの期待が大きく、同制度の公式発表後には消費者から6万4,000件もの意見が寄せられたが、その大半が強い支持を表明するものだったのだ。「失敗は許されない」という大きなプレッシャーを感じていたFTCの幹部は、ベンダーとの契約に成果主義を盛り込み、ベンダーとFTCとでリスクを分担するべきだとするウォレン氏の案を採用した。

 ウォレン氏と彼のチームがベンダー選定に取り組むのと並行して、ムリス議長は、2003年1月に国会に出席し、同プロジェクトに対する予算の承認と、テレマーケティング業者がリストを参照する際の料金徴収許可を求めた。2003年会計年度は9月30日で終了することになっていたが、ムリス氏は同年度内の制度立ち上げとシステム稼働を目指し、議会に迅速な行動を促したのである。ムリス氏は議会に対して自らかなり厳しい期限を提示したが、これはウォレン氏が提案したスケジュールに沿ったものであった。そこでは、プロジェクトを分割し、段階的に進めていくことにより、消費者の電話番号登録は100日以内に、テレマーケティング業者一覧の作成とリストのダウンロード提供は2カ月以内に実施し、制度の施行はその1カ月後に行うと予定されていた。

 最終的に、FTCは、同プロジェクトを推進するにあたってAT&Tと契約を結ぶことを決めた。前述したとおり、同契約では成果主義による報酬制度が採用され、FTCが意図した結果が得られた場合には、AT&Tにインセンティブが支払われるという内容の取り決めがなされた。

 2003年2月、米国議会は、電話勧誘拒否登録制度に対し、1,810万ドルの予算を承認した。このうち、350万ドルがシステム構築請負業者への支払い、250万ドルがFTCのインフラをアップグレードするためのITコスト、ならびにFTCのWebサイトを再構成するための費用に充てられた。そして、同年3月に、ブッシュ大統領が電話勧誘拒否法案に署名、同月末までには、いくつか残っていた立法上の問題も解決され、Do Not Callシステムの構築プロジェクトに実際に予算が投入されることになった。

柔軟性に富んだシステムを目指して


FTCのCIO、ウォレン氏(左)と、同消費者保護局計画・情報課の共同責任者、ロイス・グレイスマン氏。両氏のタッグにより、Do Not Callシステムは開発からわずか100日足らずで動き始めた。 photo by Drake Sorey

 消費者が電話番号を登録する方法については、予算が認可される以前から、IVR(Interactive Voice Response:音声自動応答装置)を利用して登録する方法と、Webサイトでオンライン登録する方法を採用する予定となっていた。IVRで登録する場合、消費者が電話勧誘を拒否したい番号からコールセンターに電話をかけると、自動番号識別システムによってプッシュホン操作で打ち込まれた番号と発信者の実際の電話番号とが照合され、それらが同一であるかどうかが確認される。一方、オンライン登録では、電話番号を3件まで登録することが可能となっている。消費者が登録時に認証のための電子メール・アドレスを入力すると、そのアドレスあてに認証ページへのリンクが貼られたメールが送信され、それを72時間以内にクリックすると登録が完了するという仕組みになっている。

 また、FTCはプライバシー問題に配慮して、保存しておく登録者情報は電話番号のみにとどめている。認証に使用する電子メール・アドレスは暗号化(ハッシュ化)されるほか、原本は破棄、暗号化されたアドレスのコピーも、登録の終了とともに抹消されるようになっている。

 Do Not Callプロジェクトが進行している間、AT&Tの担当マネジャー、マージョリー・ウィンデルベルグ氏の労働時間は、週当たり100時間に及び、オフィスに寝袋を持ち込む日々が数カ月も続いたという。業務に関連して面会した人々の数も、500を下らなかった。

 プロジェクトを遂行する過程では、さまざまな問題が持ち上がった。例えば、IVRプロバイダーであるウェストは、2003年4月の時点で、あわや同計画から撤退せざるをえないところだった。というのも、同社が提供するサービスが、ろう者や難聴者に対応していなかったのだ。そこでウィンデルベルグ氏は、AT&Tの電話リレー・サービス・グループと連携を取り、聴力に障害のある消費者からかかってきた登録のための電話を、ジョージア州にある電話リレー・サービス・センターに届いた文字情報によってバックアップすることにした。

 一方、AT&Tは、Do Not Callシステムの設計に際して、Nティア(複数階層)型もしくはマルチレイヤ型アーキテクチャを採用した。これにより、FTC、AT&Tの双方は、システムの各部分で用いられているハードウェアやソフトウェアを、必要に応じて柔軟に変更できるようになった。

 例えば、レゴブロックが組み合わされてできた巨大な塊を想像していただきたい。各ブロックの連結部分の凹凸はXMLコードである。それぞれのレゴブロック、あるいはレゴブロックが集まってできた各レイヤは特定のタスクを処理するよう設計されている。こうした構造をとっていれば、あるタスクに対する要求が高まった場合にも、それを処理しているレイヤを拡大することで容易に対処できる。Nティア・アーキテクチャの利点はまさにここにあるわけだが、AT&Tでは、同アーキテクチャに沿ったシステム設計を行うことによって、システム稼働初期に見られるデータ・トラフィックの増大にも効率的に対処することができたとしている。つまり、初期に膨れ上がったデータ・ボリュームを処理するために、サーバを逐次追加し、増加傾向が収まったところで元の構成に戻したわけだ。

 例えば、AT&Tでは、2003年6月に行った耐久度テストの結果に基づいて、データセンターのサーバ数を、16基から28基に増設した。ウィンデルベルグ氏は、「システムのフレキシビリティは非常に高く、サーバ数の増減や機能変更を実に簡単に行うことができた」と満足げに語る。

 また、Nティアのもう1つの特徴として、非同期性を挙げることができる。これは例えば、万一データベースがダウンした場合に、サーバ側で新しい電話番号を受け付けながら、登録する必要のある番号を待ち行列に入れられることを意味する。

 電話番号登録用のWebサイトやIVRシステムといった新しいシステムの構築に加え、FTCでは、すでに独自のDo Not Call登録簿を作成していた25の州のデータを共有するための仕組みを構築する必要があった。そこで、順次各州のデータを収集し、2003年8月には、ウィンデルベルグ氏のチームによって、各州のリストの更新データをFTC側のリストに反映することができる(あるいは、FTC側の更新データがダウンロード可能な)Webサービスが立ち上げられるに至った。

 こうした過程で、各州のデータの中には往々にして不適切なデータが含まれるということが明らかになった。この問題に対処するため、ウィンデルベルグ氏は、不備のあるデータを排除するプログラムを開発した(例えば、東海岸側の州が西海岸側の州で使用される市外局番を含んだ電話番号を提出しようとした場合、そのデータは受け付けられない仕組みになっている)。最終的に、FTCは各州の登録者リストから約900万件もの電話番号を収集することに成功した。

 ウィンデルベルグ氏がこうしたシステム化以前の問題に忙殺されているとき、それと並行して同氏のチームは、FTCのWebサイトを再構築し、ネットワークの合理化を実現すべく作業を進めていた。例えば、新たにT3回線を導入し、Webサーバを2基増設したが、これは電話番号の登録に関して、消費者から多数の質問が寄せられることを見越してのことであった。また、見直されたばかりのFTCのプライバシー・ポリシーをWebサイトに掲示し、収集した電話番号がどのように扱われるのかを明らかにした。

 こうした努力の甲斐あって、すべての準備が、Do Not Callシステムの稼働開始日である2003年6月27日までに整った。にもかかわらず、初日にちょっとした問題が起こってしまった。送信エラーとなった認証用の電子メールが何度も再送され、戻ってきたメールがDo Not Callシステムのメール・サーバ内に次々とたまり始めたのだ。

 ウォレン氏とAT&Tのスタッフは当初、これをサービス拒否(DoS)攻撃か、あるいはサーバの設定ミスによるものではないかと考えたが、実際には、大量に発信されるDo Not Callシステムの認証電子メールをISPがスパムだと勘違いし、自動的に通信をブロックしたためであったことが判明した。ウォレン氏は、すぐさま同じISPの管轄内で作業しているAT&Tの担当者に連絡して注意を促した。またFTCの弁護士は、ISPの担当者に電話をかけ、くだんの電子メールはスパムではないことを説明したという。その結果、数日後に事態は収束した。

 ウィンデルベルグ氏は、「稼働開始から1週間は気苦労が絶えなかった」と、当時を振り返る。

 いずれにせよ、システムは大過なく機能し続け、稼働開始から7日間で、リストに登録できた電話番号は、実に1,800万に達した。

泣き言を言っている暇はない

 ローズガーデンでのブッシュ大統領の会見はつつがなく終わった。しかしながら、FTCにとってそれは、新たなゴールへ向けたレースの再開を意味するものであった。というのも、テレマーケティング業者が市外局番ごとに分かれたDo Not Call登録簿を有料でダウンロードできるようにするWebサイトを立ち上げる期限が、2カ月後に迫っていたのである。

 非営利の慈善団体や寄付金集めを目的とする政治組織、電話調査機関などは対象から除外されるが、テレマーケティング業者がDo Not Call登録簿を無視して商品やサービスの購入を勧めるセールス電話をかけた場合、1件につき最高1万1,000ドルの罰金が課される。

 テレマーケティング業者が任意の市外局番から始まるDo Not Call登録簿を5種類以上ダウンロードするには、1種類につき年間25ドルを支払わなければならない。しかも、すべてのリストを入手するためには、年額7,375ドルの費用が必要となる。

 ウィンデルベルグ氏のプロジェクト・チームは、テレマーケティング業者の規模に応じて3とおりのDo Not Call登録簿へのアクセス方法を用意した。まず、個人営業など比較的小規模な業者向けに、番号参照サイト「www.telemarketing.donotcall.gov」を設置し、同サイト上で電話番号を入力すれば、Do Not Call登録簿に登録されているかどうかを最大10件まで同時に調べられるようにした。複数の都市へセールス電話をかけるような業者の場合、該当する市外局番を含むリストだけを入手すればよいようになっている。また、大規模業者向けに、XMLもしくはテキスト形式で作成された全米の電話番号リスト(市外局番別を含む300件以上)をダウンロードすることも可能にした。なお、同サイトの情報は、Do Not Call登録簿に新しい番号が登録されると、24時間以内にアップデートされる仕組みになっている。

 一方、業者がクレジットカードやEFT(Electronic Funds Transfer:電子送金)で支払ったリスト代金は、米国財務省のWebサイト「www.pay.gov」を介して処理される。FTCは、EFTを利用したテレマーケティング業者にリストのダウンロードを許可する前に、支払いが済んでいるかどうかを確認する必要があるのだが、その通知がwww.pay.govから自動的に発信されることになったのである。しかしながら、それを実現するために必要なWebサイトのアップグレードが終了したのは、FTCが実際に料金の徴収を始めるわずか1週間前のことであった。「もともとwww.pay.govのサイトには、そうしたレスポンスを返す機能が備えられていなかった。どれもこれも、すべてがぎりぎりのタイミングだった」と、ウォレン氏は苦笑する。

 テレマーケティング業者向けのWebサイトの稼働は、9月2日に開始されることが予定されていた。これに間に合わせるため、AT&Tの開発チームは、高度なプログラムを多数開発しなければならなかった。テスト担当者は6週間にわたってコーダーのそばに付きっきりで、コードが生成されると同時にその検証を行うといった具合だった。だが、締め切り期限を目前にして泣き言を言っている暇などなかった。というのも、このあとにも、各州が利用する共通のインタフェースの開発と、Do Not Callシステムの本番稼働という“大仕事”が控えていたからである。

敗訴、一転勝訴次は“Do Not Spam”だ!


Do Not Callプロジェクトの責任者でもあるAT&Tのプログラム・マネジャー、マージョーリー・ウィンデルベルグ氏は、同プロジェクトを通して実に500人もの関係者と打ち合わせを重ねたという。 photo by Drake Sorey

 かくして、2003年の9月も終わりを迎えるころには、1万3,000のテレマーケティング業者がDo Not Call登録簿を手に入れていた。そのうち全リストをダウンロードした業者は400を超えた。法の定むるところにより、業者は10月1日までにDo Not Call制度に準拠する必要があったが、この電話番号リストのせいで5,100万以上もの潜在的な顧客を失うとされた業者の間には、同制度を歓迎する空気は微塵もなかった。

 そうしたなか、アメリカン・テレサービス・アソシエーション(ATA)とダイレクト・マーケティング・アソシエーションの2社が、それぞれFTCに対して訴えを起こした。提訴理由は、Do Not Callシステムはテレマーケティング業界に何十万という失業をもたらすというものであった。また、Do Not Call制度に対するFTCの監督権や、登録制度そのものの合憲性にも疑問が投げかけられた。

 この訴えに対し、オクラホマ州の連邦判事は9月23日、FTCはDo Not Call登録簿の作成に関して議会の承認を得ていないという裁定を下した。だが、米国連邦議会の同リストに対する支持は明らかで、オクラホマで裁定が下りた2日後には、FTCにDo Not Call制度の施行を許可するという法令が議会を通過した。ところが、この法令が採決された直後に、今度はコロラド州デンバーの連邦判事が、Do Not Call制度はテレマーケティング業者の「言論の自由」を侵すものだとする裁定を下したのだ。FTCはすぐに上訴し、その間裁定を留保するよう判事に求めたが、これは退けられた。

 こうなると、システムへのアクセスは遮断するほかない。9月26日、ウィンデルベルグ氏とそのチームは、テレマーケティング業者向けWebサイトを閉鎖し、10月3日には、判事の要請に応じて消費者の番号登録サイトの機能も停止した。

 「Webサイトの機能を停止する場合は、通常、単にシステムの電源を落とせばよいのだが、我々はシステムの状態の安定を保つために、あえて電源を入れたままにした。そうしておけば、再びシステムを立ち上げるときに、何も失わなくて済むからだ。そもそも電源を落としては入れるという状況を想定して開発したシステムではなかったので、単にそうしただけとも言えるが」(ウォレン氏)

 10月7日、ウォレン氏の携帯電話が鳴った。それは、合衆国第10巡回控訴裁判所が、FTCに有利な裁定を下したという知らせであった。政府は迷惑電話を規制することが公共の利益になりうると考えるため、FTCにDo Not Call登録簿の監督権を認めるというのがその主旨であった。これを受けて、Webサイトの閉鎖命令は差し止められ、Do Not Call制度のオンライン・システムの復帰が急がれた。

 消費者保護局のグレイスマン氏は、「本当はスティーブン(ウォレン氏)の“強制送還”を望んでいたのだけれど」とふざけてみせ、「しかし、彼にはずいぶんと借りを作っていたので、それは見送ることにした。それに、彼の部下たちがすでに奮闘してくれていたから」と喜びを隠さない。

 10月10日、テレマーケティング業者用のWebサイトが稼働を再開し、その翌日には、消費者電話番号登録サイトと州向けデータ共有インタフェースがオンラインで使用できるようになった。また、これ以降、消費者からの苦情をログとして収集することになった。

 苦情にまつわるログ・データが蓄積され始め、法執行機関がこれらにアクセスできるようになったことに伴い、10月17日、Do Not Call制度は本格的に施行された。

 ちなみに、オンラインもしくは電話によって苦情が正式に受け付けられるには、迷惑電話がかかってきた電話番号が、Do Not Call登録簿に少なくとも3カ月間掲載されている必要があるという。この苦情受け付けシステムは、AT&Tによって設計、開発された。消費者から寄せられた苦情は夜間にFTCの既存データベース「Consumer Sentinel」の苦情ログ・システムへアップロードされる。約900の法執行機関が同システムにアクセスする権限を持っており、その中にはDo Not Callシステムの運用に責任を負うFTC、連邦通信委員会(FCC)、州検事総長の3機関が含まれる。

 消費者から寄せられた苦情は2003年末までに15万件に達したが、その内訳を見ると、45のテレマーケティング業者に対して、それぞれ100件以上のクレームが集中していた。カリフォルニア、イリノイ、ノースカロライナ、オハイオなどをはじめとするいくつかの州では、連邦リストに電話番号を登録していた消費者に電話をかけたとして、これらの業者を相次いで提訴した。AT&TですらDo Not Call登録簿を無視したことで、FTCから78万ドルもの罰金を言い渡されたほどだ。

 2004年2月、合衆国第10巡回控訴裁判所は、Do Not Call制度を合憲とする判決を下した。これに対し、ATAの常務取締役、ティム・サーシー氏は、この法廷闘争を米国最高裁判所にまで持ち込むことを決意していると語った。同氏によれば、多くのテレマーケティング業者がコールセンターの閉鎖に追い込まれ、多数の従業員が職を失ったという。また、大半の業者が、減収の原因をDo Not Call制度にあると主張している。

 これが事実だとしても、その一方で、消費者がDo Not Call制度の恩恵を十分に享受していることは間違いない。2004年1月のハリス調査では、米国の成人の半数以上(57%)が、Do Not Call登録簿に電話番号を登録したと回答している。また、登録したと回答した調査対象者のうち、92%が以前と比べて迷惑電話が減ったと答え、25%が登録後電話セールスを一切受けていないとした。ちなみに、2004年4月2日の時点で、Do Not Call制度に電話番号を登録した消費者の総数は5,880万人に上っている。

 Do Not Callプロジェクトの成功で大いに気勢の上がるFTCは、現在、同様に「Do Not Spam制度」を立ち上げようと画策している。ウォレン氏は、「インターネット時代においては、我々のような小規模な独立組織であっても活躍の場が得られることを証明できることになろう」と、ますます意気軒昂だ。

(CIO Magazine 2004年12月号に掲載)

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