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子どもの創造力―その無限の可能性の教育方法とは

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 アイオワ州ウォルナットの小学校の美術教師、カンディ・ディーさんは、4年生の授業で、友達と遊べるボードゲームの工作を課題にしたが、ひとりの少年の反応にショックを受けた。彼は「固まった」のだ。

 クラスメートは想像力を駆使して、色々な登場人物や空想の世界を作り上げるのに、この少年は「何も思いつかない」と繰り返すだけだったとカンディーさんは言う。彼女は、何をやっても「間違い」ではないと少年に念を押したが、彼はクラスメートのゲームをまねようとし、挙句の果てにワークシートを作ってもよいかと聞いてきた。ついにカンディーさんは根負けし、解答付きのフラッシュカードを作る許可を与えた。

 ウィリアム・アンド・メアリー大学(バージニア州ウィリアムズバーグ)のキュン・ヒー・キム教育心理学准教授は、米国で一般的に使われる創造的思考テストの点数が、1990年から2008年まで一貫して低下しており、その傾向が幼稚園から6年生までのグループに顕著に表れていると指摘する。これは、トーランス・テスト・オブ・クリエイティブ・シンキングと呼ばれる標準的な創造的思考テストから得られた、1966-2008年の30万人の米国人のスコアに基づいている。(キム氏の研究成果を学術誌に発表するかどうかは現在、専門家が審査中。)

 トーランス・テストは、米国のみならず海外でも数十年間、英才教育対象の生徒を判断するために学校で使われてきた。カリフォルニア州立大学の心理学准教授で創造性について著作のあるジェームズ・C・カウフマン氏によると、このテストは、拡散的思考――多くの普通ではない、新しい妥当なアイディアを生み出せる能力――を測るうえで、信頼できる手法とみなされている。しかし、生まれたアイデアを使って有益な新製品を生み出すといった、拡散的思考とは異なる分野の創造性を測定するためには、トーランス・テストでは不十分だとカウフマン氏は指摘する。

Michal Czerwonka for The Wall Street Journal

息子と遊ぶカリフォルニア州立大学のカウフマン准教授

 研究者によると、子どもは成長過程でパソコンやテレビを使い、学校で暗記学習や標準化されたテストを強いられるにつれ、型にはまらない創造性を育む活動から遠ざけられる。ジョージア大学で創造力の研究・英才教育を専門とするマーク・ルンコ教授は、生徒は創造力の可能性を十分秘めているものの、それを伸ばす教育について、米国の小・中・高等学校に与えられる評価は「せいぜいD」と手厳しい。ルンコ氏は、「特に大学より前の時期に、創造性を発見、支援することについて、われわれは極めて下手だ」と述べた。

 多くの親は、子どもの創造性を伸ばす役目を果たしている。新たなアイデアを促し、身の回りの問題に気づかせ、解決方法を探らせる。「間違った回答」を許し、空想の世界にしばし浸らせることで、スキルの向上・達成度重視から子供を解放してやることができる、と研究者らは言う。

 過去には、創造性は新しいアイデアを多く生む能力と考えられていた。しかし近年、専門家は、最善のアイデアを選び、特定の問題をチームで解決する方法を学ぶことも重要だと考えている。

 創造性を伸ばすプログラムに子どもを通わせる親もいる。たとえば、ニュージャージー州の非営利教育機関、デスティネーション・イマジネーションなどだ。同機関の年間大会に参加する生徒数は10万人近くに上る。ボランティアのコーチ陣が子どものチーム(1チームは最大7人)を指導。幼稚園から大学まで年齢別に分けられた参加者は、互いに協力して創造的な解決方法を見つける。与えられる課題は、アルミホイルや木材、糊を使って安定的な構造物を設計したり、地域問題を解決したりする。幼児には、昆虫を使った遊びを考えさせ、自然や動物と触れ合う方法を示す課題が与えられる。このような教育機関は、デスティネーション・イマジネーションのほかにも、Odyssey of the Mind(ニュージャージ州)やFuture Problem-Solving Program International(フロリダ州)などがある。

 家庭で創造性のスキルを伸ばすためには、親が子どもに日常の問題について解決方法を考えさせ、彼らの考えをじっくりと聞いてやるといい、とコンサルティング・グループ、センター・フォー・クリエイティブ・ラーニング(フロリダ州)のダン・トレフィンガー氏は指摘する。たとえば、病気の隣人が雪で家から出られなくなったことに気づいた子どもは、雪かきを買って出るかもしれない。ハイチの震災犠牲者の写真を見た子どもは、小遣いを救済基金に寄付するかもしれない。

 正解のない質問をし、彼らの答えに興味を示すことは効果がある。メグ・リッチーさん(10)は数年前、公民権運動の活動家ローザ・パークスについてスピーチを書いていた。つまらない出だしだった。「ローザ・パークスは米国史上、重要な人物でした」

 その後、デスティネーション・イマジネーションでボランティアコーチを務める父親のブレットさんは、娘の努力を褒めたうえで、さらに深く考えるよう勧め、どんな風に改良できると思うか尋ねた。メグさんが考えた新しい出だしはこうだ。「肌の色が違うというだけで座席から追い出されるなんて、想像できるでしょうか?」彼女は今、文章を書く時に同じプロセスを踏むという。「父が聞いた質問を自分にしてみるの。そうすると、いい文章がたくさん浮かぶ」と彼女は言う。

 また親は、子どもの考えがおかしいとか幼稚に聞こえるという理由で、意見を言うべきではない。ウィスコンシン州在住のリンダ・ライスさんの息子、ジェイコブ君(10)は今年の春、世界的な新聞とそのウェブサイトに記事を書き、出版販売することで金儲けをしたいと言いだした。それを聞き、教師経験を持つリンダさんは、「購読を最初に頼む最適な人は誰か?」といった幾つかの質問をした。彼女は、特別クラスの優秀な生徒を教えた過去の経験を生かしながら、どんな記事を載せたらよいか息子に考えさせたのだった。

 ジェイコブ君は、最初の読者に家族と友達を選んだ。彼が記事のアイデアに詰まった時、リンダさんは、読者が喜びそうなものは何?と質問を投げかけた。するとジェイコブ君はパズルを作ることを決定。彼の8ページから成る新聞は10人の購読者を相手に4カ月続き、興味を失うまで彼は90ドル稼いだとリンダさんは語る。

 ただ、子どもの創造的な努力の結果に注意を払い過ぎることは避けた方がよい、とカリフォルニア州立大学のカウフマン氏は指摘する。「努力の成果に重きを置きすぎると――たとえば、『とてもきれいに絵が描けたから額に飾って友達に自慢する』と言うと――楽しいからではなく、褒められたいために絵を描く可能性が増すのだという。重視すべきは、成果よりも努力だ。

 バージニア州に住むモーリーン・ドーティーさんと夫のブライアンさんは、3人の子どもが幼い頃、童謡のリズムに合わせてオリジナルの歌とダンスを作るよう促した。ある夜、夫と子どもたちの笑い声を聞いたモーリーンさんがドアを開けると、子どもたちは目を閉じてマザーグースの童謡「3匹の盲目のねずみ」に自作の歌詞をつけて歌い、踊っていた。

 即興で歌詞をつける練習を何年もやった子どもたちは今、14、18、20歳に成長し、スピーチが好きで、「すぐにその場で話すことを考え付く」とモーリーンさんは言う。

 とはいえ、創造的な子どもを育てるのは重労働だ。創造的な子どもは平均以上に「自発的で大胆、自由で表現力に富む」とドーティーさんは言う。そうした子どもは、時に「小さなアナーキスト」のように振る舞う。

 カウフマン氏によると、親は、子どもが気まぐれになってよい時と規則に従わなければならない時の区別を教えることが大切だ。たとえば、子どもが替え歌好きなら、「気の済むまで笑わせる」と同時に、「学校ではやってはいけない」ことを説明しなくてはならない、という。

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日本版コラム〔12月20日更新〕