「チェンジのために投票した・・・将来はもっと明るかったはずだ。私たちはアンタを選んだ。そして後悔している」
友人からメールで送られてきたビデオで、民主党がYouTubeから削除しようとしているものだという。「An Open Letter to Democrat Politicians(民主党政治家に対する公開状)」と題するビデオは、22日現在、再生回数が250万回以上。オバマ大統領やナンシー・ペロシ下院議長など民主党重鎮の映像が次々に現れ、黒字に白いテロップが効果的にはさまる。
「7870億ドル(約71兆円)の景気刺激策、10%以上の失業率、巨額財政赤字、我々は破綻している。もうたくさんだ。アメリカを取り戻そう。2010年11月2日に」
11月2日は、中間選挙の投開票日で、ビデオは保守派や、あるいは保守的な草の根運動「ティー・パーティ(茶会)」の関係者が作成したに違いないが、オバマ大統領に良いニュースが枯渇している、今の米国の閉塞感をよく表している。
ビデオというと、2008年の大統領選挙中は、オバマ候補を支援するビデオがYouTubeにあふれたが、最近は新たなビデオの出現を全く聞かない。逆に、保守派の方が、いくらか活気にあふれているようにみえる。
例えば、ニューヨーク・タイムズで毎週コラムを書いているロス・ドーサット(Ross Douthat)氏のような若手保守派論客のコラムに目がいってしまい、MSNBCのリベラル派ニュースが全く生彩を欠いて、おもしろくない。
ドーサット氏の今週のコラムは「リベラル派の苦悩」。この苦悩は、2種類の「知的欠陥」に起因するという。一つは、リベラル派が、強い政府、強い大統領が問題を何でも解決できるものと崇拝しきっていること。もう一つは、傲慢(ごうまん)なほどの理論信奉によって政策を進めるため、政権は景気回復を十分に支えることができなかったとしている。
リベラル派が方向性を失い、失速しているなか、「オバマが今、さらに素早く行動しないことに対する怒りは、現環境下では、何となく理解できる」とする。
ドーサット氏は保守派論客だが、彼のコラムは、かつて大統領選挙でオバマを熱狂的に支持し、現在失望しているリベラル派有権者が感じていることと妙に一致している。
豪華なバーベキュー・パーティを開き、オバマの選挙陣営に1000ドルの寄付金を集めた友人は、「お金を返して欲しい」と言う。「こんなに強力な指導力がない人物とは思わなかった」
このリベラル派の灰色ムードに対し、保守側のニュースはややカラフルだ。
例えば6月8日、シュワルツェネッガー・カリフォルニア州知事の後釜を決める共和党予備選で、インターネット競売最大手イーベイの元最高経営責任者(CEO)、メグ・ホイットマン氏(53)が勝利した。
同時に、同州連邦上院議員の共和党予備選で、コンピューター大手ヒューレット・パッカードの元CEO、カーリー・フィオリーナ氏(55)が当選している。互いにハイテク企業をきりもりしてきた話題の女性経営者が、有権者の声援の中、手を高くかざす映像は、久しぶりに政治ニュースでは記憶に残るものとなった。
同じく女性だが、元アラスカ州知事で08年共和党副大統領候補だったサラ・ペイリン氏も、予備選挙で下院議員を複数支援。彼女の強硬路線とオバマ批判を広めるのに影響力を発揮し、話題としては、オバマ大統領よりは人々の口に上る回数は多い。
保守派も決して楽観できる状況ではない。しかし、リベラル派の自己批判や落ち込みが深いほど、保守派にはチャンスだ。そして、オバマ大統領がリベラル派の自己不信を止めようとしている様子は今のところ見られない。
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津山恵子(つやま・けいこ) フリージャーナリスト
東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。2003年、ビジネスニュース特派員として、ニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、AERAに執筆した。米 国の経済、政治について「AERA」「週刊ダイヤモンド」「文藝春秋」などに執筆。著書に「カナダ・デジタル不思議大国の秘密」(現代書館、カナダ首相出 版賞審査員特別賞受賞)など。