- トップページ
- 「ダイナミックアーク」新人賞
- 新人賞発表
新人賞発表
- 第一回ダイナミックアーク新人賞 大賞
- 第一回ダイナミックアーク新人賞 優秀賞
- 第一回ダイナミックアーク新人賞 読者大賞
あくじき 青井知之
遺産 薮原圭人
あくじき 青井知之
読者大賞につきましては下の投票結果をご覧下さい。
総評
今回、『あくじき』が、大賞と読者賞ダブル受賞ということになった。おめでとうございます。
だが、きついことを言わせて頂ければ、この作品は、優れているから大賞をとったという訳ではない。なにしろ、欠点が多すぎる。
この作品世界は、パラレルワールド風の設定になっているのだが、まず、その世界設定が、作品中で何一ついかされていない。(というか、そういう世界設定をする意味がまったくない。)道中行われるカーチェイスにも緊迫感がなく、なくてもいいのではないかと思えてしまう。その上、文章にもかなり問題がある。
でも、では、何故、これが大賞なのか。多すぎる欠点を凌駕する魅力というか、期待させるものが、確かにあるのである。
主人公が食事をしだした途端、このお話、いきなり輝きだすのだ。食事シーンになった瞬間、ヒロインがやたら変なオーラを発しだして、今回の候補作の中で最も魅力的なキャラクターになってしまうのだ。
設定の問題、構成の問題、文章の問題は、直せるものだと思う。
だから、これは、〝期待大賞〟。なんか酷いことを書いたけれど、少なくともこの人は、魅力的なシーンを描き、魅力的なキャラクターを作れる。これは、注意されたからできるというわけではない才能なので、ぜひ、がんばっていただきたい。
優秀作になった『遺産』。
うまい人だと思う。文章は安定しているし、小道具の使い方もなかなかいい感じ。ゴシックホラー部分なんか、相当読ませる。
ただ、たった一つ、この人が間違っているのは、作品の枚数だ。
このお話は、どう考えても短篇ネタだと思う。綺麗にオチが決まる話だし。(タイトルは変えた方がいいと思うが)
主人公部分を刈り込んで、額縁みたいに最初と最後にちょっとだけ書いて、後は中央のゴシックホラー部分を書き込めば、なかなかいい感じの短篇になったと思うけど。応募規定枚数に達する為か、主人公パートを膨らませる為に、メイドバトルなんかをやっちゃったのが、敗因だと思う。あきらかに、中央のゴシックホラー部分と、後半のメイドバトルが乖離しちゃって、もう、何がやりたいお話なんだかってことになってしまった。
ただ、実力はある人だと思うので、次からは、お話それ自体が要求している枚数に、気を配って欲しい。無理に長くしたり、無理に短くしたりしないで。さて、今回受賞を逃した三作品について。
まず、『僕を知らない君に』。
結構それなりに読めたし、悪くはないんだけれど……それは主人公の聡視点で読んでいる時のみ。
このお話を、聡以外の視点で、再構成してみることをお薦めする。いきなり、すさまじい勢いで矛盾が発生するから。例えば、桃子視点で再構成すれば、まず、「何故桃子がいきなり失踪したのか」が謎になる。確かに桃子には失踪する理由があるのだが、それまでの桃子の立ち位置を考えると、〝黙って いきなり〟失踪する理由がない。寶井視点で再構成すると、さらにぼろぼろになってしまう筈。
また、聡が〝歌う〟理由も謎。これは一番大切なポイントなので、ここを曖昧にしてしまうと、お話自体が説得力を失う。というか、ここを説得力のある描写で、描ききっていれば、構成に多少の問題点があっても、よい作品になったのではないか?
『平山平助の法則』。
大変、読みやすい。
でも……クライマックスシーンまで、「大変読みやすい」では、ちょっと困るのでは?
一応、作者が、何とかクライマックスを盛り上げようとしているのは判るのだが、悪いけれどまったく盛り上がらない。とにかく読みやすくて、それだけで終わってしまった感がある。
『CITY』。
雰囲気は、あるんだよね。ただ、雰囲気だけ。
全体的にとても思わせぶりなエピソードの連続。でも、それがすべてどこかで見たことがあるようなのは……ちょっと困る。また、このお話しも、『僕を知らない……』と同様、主人公以外の視点からみれば、矛盾点が噴出してしまう。以上。
選評でした。- 今回だけでなく、他の作家志望者の投稿作を読んでいても言えることなのですが、皆さん、自分が何を書きたいのか、その話で何をしたいのかを考えずに、なんとなく既存のプロ作家の真似や、ゲームやその他に影響された安易な発想を、練り込むことなくそのまま書いてしまう方が多いように思います。
今回の候補作のうち『City』はまさにその典型で、おそらくは冲方丁『マルドゥック・ヴェロシティ』の文体、および、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』や『記憶屋ジョニイ』等のサイバーパンク的な世界観に影響を受けたものがそのまま出てしまっています。しかし、『マルドゥック・ヴェロシティ』の文体そのものが、そもそもアメリカのハードボイルド作家ジェイムズ・エルロイのダッシュと体言止めを多用した文体を模倣していることは作者自身が公言なさっていることでもあり、また、サイバーパンク的世界観自体、ムーヴメントとしてはすでに二十年も前に過ぎ去ったことで、今さらそのまま使うには、陳腐の感を逃れられません。
『平山平助の法則』も、何がやりたいのかよくわからない作品でした。会話が多くてするする読めるのは読めるのですが、「で、結局なんだったの?」と言われるとさっぱりわかりません。まず小説としてのまとめ方を覚える必要があると思います。
『僕の知らない君に』は、なんとなく書きたいことはわかるものの、書き込むべき部分は足りないのにどうでもいい部分の書き込みや不要なキャラがあり、全体の印象をぼやけさせています。感覚的な描写がほとんどなく、説明文に近い文章で盛り上がりません。
佳作『遺産』は、ホラーチックなヒロインの過去の回想部分は鮮烈な幻想的イメージでおもしろいものの、そこに余計なバトル描写やライバルキャラなどが入ってきて、話の焦点がよくわからなくなっています。自分の特性をよく見て整理し、無理にライトノベル風にしようとするよりは、幻想ホラーとして書いたほうが良作となったのでは。
最後に入選・そして読者賞同時受賞の『あくじき』は、文章的にはかなり破綻が多く、設定や話の展開にもいろいろと問題はありましたが、瑕瑾の多さにもかかわらず、とにかく最後まで読み通させるキャラクターの破天荒な魅力と、主人公ぷにえの「悪食」シーンが、非常に迫力と愛情を持って描かれていたのが高い評価を得ました。作品としての完成度はむしろ低いほうですが、それらはすべて技術的な点であり、適切な改稿をすることで克服できるものと思えます。
最後に重ねて強調しておきたいと思いますが、プロへの出発点として絶対に必要なものは、自分の書きたいものをしっかりと見据えること、に尽きると思います。技術的なことは、あとからいくらでもついてきます。自分の書きたいものを愛情と執念を持って突き詰め、しっかりと書き込んでいくならば、必ず人の心に訴える作品ができると私は思います。今後の投稿予定の方も、どうぞ、そのことを頭に置いて、頑張ってください。 - 自分が選考委員などという大役に相応しい人間だとは思わないのですが、「どういう賞にするべきか」という点でアイディアを求められた関係で引き受けることになりました。元が編集上がりなので、編集側と書き手側、双方の視点で選ぶのもありか。そんな感じで。
最初は応募作がどのくらいあるんかな? と些か不安でしたが、ちゃんと応募作があり。読者投票があり、最終選考作が残り、こうして選考委員による選考会があったわけで、アイディアを出した者としては一安心です。
この後も継続して続けられれば、なかなかユニークな賞として、業界の中で存在感を放つことができるのではないかなぁ、と思ったりもします。ぜひ、続けていただきたい。続けていくためには皆さんの応募が必要なので、頑張って意欲作を書いてください。 などと、なんとなく上手くまとめたっぽい感じで総論を終えまして、では次に個々の作品評にいってみたいと。
「あくじき」
いろいろ惜しいところが多い。完成度という点ではまだ足りないけれど、しかし逆に言えば、そこを修正すればもっと面白くなるはずで、ポテンシャルは秘めていると思う。
もうね、冒頭20枚くらい、わたしに書かせろと思ったもの(笑)。構成からエピソードから次々に浮かんだ。そう思わせるのは面白い要素がしっかりと確保されている証拠。
あと「ぷにえ」という主人公の名前が一目で気に入りました。でも、この名前、「大魔法峠」が元ネタ? キャラクターは印象度が強く、存在感があって◎。いわゆる「キャラが立っている」という部分はクリアできている。でも、もっと立たせてもいいと思う。そのためには余分なエピソードを削って、ぷにえに集中したほうがいいかも。そのほうがきっと面白くなる。
最後に一言。架空の日本(と架空の歴史)をわざわざ創る意味は感じられなかった。「今の日本」で充分では。この後、大河ロマンになって、架空の歴史と架空の日本が活かされてくるんだよ、という驚くべき展開が待っているなら別ですが。
「CITY」
読み進むのがけっこう大変だった。「この先、いったいどうなるのだろう!?」という期待感、わくわく感が生まれてこないと、エンターテインメントとしては辛いものがあります。
キャラクターの魅力も足りない。というか、「あくじき」と比較されてしまうので、その辺、損をしているのかもしれないけれど。
書く側に、読者を楽しませるのだ(あるいは、俺はこんなに楽しんで書いているんだぜ、でもいいのですが)という意識を持っていただきたいと思う。
「遺産」
前記二作に比べれば、より小説らしい小説と言えるかもしれない。特にアンナの過去エピソードの部分がよかった。
そちらがよかっただけに、主人公のパートが、むしろ物足りないというか見劣りするというか。作者の意図は判らないでもないけれど、もっとアンナにスポットライトを当てててもよかったのではないかと思ってしまう。極端な話、アンナを主人公に据えてみたらどうか、とまで。もっとアンナの活躍するシーンを読みたかった。
あと「生前贈与」は贈与税が高いので大変ですよ。
「平山平助の法則」
なんと言えばいいのか……わたしには評価能わず。そんな読後の感想だった。
これを「小説」と言ってしまっていいのか躊躇われる。「ケータイ小説」ならば、まだあるのかもしれないけれど。ただ、そちらはわたしには判らない世界なので、これ以上はなんとも。
何はともあれ、もう少し「小説を書く」ことを意識してくださいと言っておく。
「僕を知らない君に」
雰囲気はよく出ているのではないかしら。
別の選考委員の方が「萩尾望都を思い浮かべた」と仰っていたけれど、それだけでも大したものだと思う。
しかし、商業として考えれば、それだけでは足りないわけで、もっと自分なりの独自性やら主義主張やら存在理由やらを感じさせてもらいたいと願う次第。