「ただ仕事がほしい」派遣労働規制に期待と不安
2009/11/03 18:48更新
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【マニフェストの現場】
雇用を取り巻く環境が悪化の一途をたどっている。政府は10月23日に平成22年3月末までに10万人の雇用創出効果を見込む緊急雇用対策をとりまとめたが、直後の同31日に発表された9月の失業率は5・3%と高止まりしたままで、専門家からも対策の効果を疑問視する声が上がっている。民主党がマニフェスト(政権公約)で掲げた、製造業派遣の原則禁止などの規制強化は、逆に雇用の減少を招くとの声が多い。不安に揺れる雇用の現場をたずねた。
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記事本文の続き ■突然の解雇通知
「生産の縮小は止まったはず。仕事に戻してほしい」
栃木県栃木市に住む松本浩利さん(47)は、10月のある日、かつて働いていたいすゞ自動車栃木工場(栃木県大平町)の応接室で、同社の総務担当者らにこう訴えた。
回答は「今のところ予定はありません」。
松本さんが、会社から解雇を通告されたのは、リーマン・ショック発生から2カ月後の昨年11月のことだった。翌年4月までの雇用契約だったが、会社は解雇の期日を12月26日と伝えた。不満を募らせた松本さんは同じ職場の仲間と労働組合を結成し、不当を訴えた。
会社は解雇こそ撤回したものの、職場に復帰させたわけではなかった。満了までの期間を「休業」とし、その間の賃金を6割と計算して支払うと通告してきた。松本さんは満額の支払いを求めて裁判を起こした。宇都宮地裁は今年5月、賃金カットの違法を認定し、約80万円の差額賃金の支払いを命じた。
松本さんはその後も、職場への復帰を求める訴訟と組合活動を続けている。「私は安定した雇用を求めているだけ。会社の対応には不満はあっても、職場環境には不満はない。本当は裁判も起こしたくなかった」と話す。一方いすゞは「係争中のため話せない」という以外、見解を示していない。
松本さんは製造派遣の禁止を掲げる民主党が大勝した衆院選の様子をテレビで徹夜で見ていた。
「大変期待している。多くの安定雇用を求める労働者も同じだと思う」
厚生労働省の10月時点の調査によると、派遣切りなどで昨年10月以降に職を失ったか、今年12月までに職を失う予定の非正規労働者は24万4308人。9月時点での調査より5556人増加した。
■派遣切り法案
製造派遣の禁止をめぐる議論では、労使が激しく対立している。
10月27日、東京・霞が関の厚生労働省17階の会議室。派遣規制の強化を議論する労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)職業安定分科会労働力需給制度部会の第2回会合には労使から3人ずつ委員が参加し、規制強化の影響で火花を散らした。
「原則禁止となれば計75万人が禁止対象になり、その人たちは失業者にならざるを得ない。派遣労働者の保護というが、究極の派遣切り法案になる。75万人を法律で派遣切りにする法案だ」
経営側の市川隆治・全国中小企業団体中央会専務理事は、労組側に痛烈な皮肉を浴びせた。
これに対し、長谷川裕子・連合特別専門委員は即座に反論した。
「禁止だから失業というのは理論的には成立しない。派遣がなくなるから、仕事がなくなるわけではない」
労使は派遣労働者からパート労働者などの直接雇用への切り替えがもたらす影響でも対立した。
経営側は「派遣禁止による一番の問題は必要なときに必要な人材を確保できないこと。中小、零細企業ではパートを募集しても会社の知名度がなく、確保できないことが多々ある」と懸念を表明。労組側は「人の採用が煩雑なのは当たり前。一度派遣会社に頼ると、自ら雇う力、人事力がおち、結果として会社を弱くする」と反論した。
労組側からは「煩雑とか、便利とか、必要な時に労働者が手に入るという意見は腹が立つ」との声まであがり、対立はヒートアップ。厚労省は年内に労働者派遣法改正案をまとめる方針だが、労使の間に横たわる溝はあまりにも深い。
■寄せ集めの雇用対策
雇用対策は政府が最も力を入れている政策のひとつだ。10月23日には、失業給付の手続きや住宅確保の手続きがひとつの窓口でできる「ワンストップ・サービス」の実施や、来春の新卒者の就職支援などの対応を盛り込んだ緊急雇用対策をまとめた。
政府は来年3月末までに期待される雇用創出効果を10万人と試算。とりまとめに携わった民主党幹部は「雇用創出の具体的な人数を打ち出したことに意義がある」と胸を張った。
これに対し、第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミストは「自民党政権下でも何度も実施してきたような施策を寄せ集めた印象で、年度末までに10万人の雇用を創出できるかどうかは疑問だ」と指摘する。
今回の対策は、追加予算を編成しないという制約下での対応だった。今後、予算措置を含めた対応が求められるのは必至で、鳩山由紀夫首相も今後の検討を示唆している。
日本総合研究所の湯元健治理事は「雇用の受け皿となる産業を育成しなければ根本的な雇用対策にはならない。今後、成長産業の育成をどこまで盛り込めるかが雇用対策の成否を左右する」と指摘している。
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