社会保障とは 社会保障制度を構成する四つの柱や問題点について解説
社会保険労務士・キャリアコンサルタント。福島県出身。家業の総合士業事務所にて実務経験を積み、2014年愛知県豊橋市にて開業。LGBTQアライ。セミナー講師、コラム執筆にも取り組んでおり、現在労務顧問など160社以上の関与先を持つ。著書に「職場問題グレーゾーンのトリセツ」。
社会保障とは年金や医療、公衆衛生など、さまざまな制度で国民の安心や生活の安定を支える仕組みです。この記事では、社会保険労務士が社会保障の四つの柱とその制度を具体的に紹介するとともに、社会保障制度の抱える問題を解説します。
目次
1.社会保障とは
社会保障とは「社会保険」「社会福祉」「公的扶助」「保険医療・公衆衛生」の四つの柱で構成されている、国民の安心や生活の安定を支えるセーフティネットのことです。具体的には、年金や労働保険(雇用保険・労災保険)、国民健康保険、生活保護、児童手当などが該当し、人々の生活を生涯にわたって支える役目を有しています(参照:社会保障とは何か|厚生労働省)。
(1)社会保障の目的
社会保障制度の目的は、国民が安心して暮らすことのできる基盤を整えること、また、それによって国民一人ひとりが安心してチャレンジできる社会を作ることです。
例えば、災害や疾病、高齢、障がいなど、自助努力ではどうにもできないような不測の事態において、人間の尊厳を守り、自分らしい生活を支援することは社会保障の大きな役割です。また、人口構造の変化によって起こった老々介護など、家庭内の努力では支えきれない課題に対して支援していくことも、社会保障の範囲とされています。
このように、社会保障制度は、国民一人ひとりが相互に扶助しあう「社会連帯」という考え方を通じて国民の生活を保障し、安定した生活に導くことを目指しています。
(2)社会保障の三つの機能
社会保障は生活において、どのような働きを持っているのでしょうか。社会保障の機能は、大きく「生活安定・向上機能」「所得再分配機能」「経済安定機能」の三つに分けられます(参照:誰もが安心して暮らせる社会保障制度の実現 p.163~164|平成22年版 厚生労働白書)。それぞれの機能について、詳しく見ていきましょう。
①生活安定・向上機能とは
生活安定・向上機能とは、疾病や失業などのリスクに対応して、国民生活の安定を実現する機能です。例えば、医療保険制度があることで安価に治療を受けられたり、公的年金制度によって安定した生活が送れるようになったりすることで、生活に安心感をもたらしています。
また、一人ひとりが生き生きとした生活を送れるようになれば、さまざまな目標を持つ人々が増え、社会全体の活性化にもつながっていきます。
②所得再分配機能とは
所得再分配機能とは、低所得者の生活を社会全体で支える機能です。例えば、生活保護は税を財源に高所得者から低所得者への再配分として捉えられますし、医療・保育サービスは報酬に比例して徴収された保険料を財源に、必要に応じた給付をおこなっているといえます。
このように、社会保障は所得にかかわらず、必要な給付を受けることができる制度として構築されています。
➂経済安定機能とは
経済安定機能とは、景気変動を緩和したり、経済成長を支えたりする機能です。例えば、一定額を定期的に支給する年金のような制度は、生活を安定させるとともに、経済状況に左右されない消費活動を下支えしています。雇用・労働政策全般についても、失業中の生活を支えるとともに、消費活動の落ち込みを抑制する狙いがあります。
2.社会保障制度の四つの柱
社会保障制度の四つの制度について、それぞれ代表的な制度とともに紹介します。
(1)社会保険(年金・医療・介護)
社会保険とは、病気、出産、失業、老齢などの人生のリスクに対し、必要に応じて一定の給付をおこなったりサービスを提供したりして生活の安定を図ることを目的とした制度です。
<社会保険制度の例>
| 公的年金制度 | 老齢・障害・死亡などに伴う稼働所得の減少を補塡(ほてん)し、所得面から生活を保障する制度 |
| 医療保険制度 | 病気やけがをした場合に、誰もが安心して医療にかかることのできる制度 |
| 介護保険制度 | 介護を必要とする人が適切なケアを受けられるよう費用を給付する制度 |
| 雇用保険制度 | 給付金を支給して雇用や労働者の生活の安定を図る制度 |
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
①公的年金制度
国民年金、厚生年金から、老齢・障害・死亡などに伴う稼働所得の減少を補塡し、高齢者、障がい者および遺族の生活を保障するために年金給付をおこなう制度です。日本の公的年金は、1階部分の国民年金と2階部分の厚生年金の「2階建て」構造になっています。
国民年金は、原則として国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納める制度です。厚生年金は会社などに勤め、勤務時間など一定の条件を満たした人が加入する制度で、70歳まで保険料を納めることになっています。
| 厚生年金 | 国民年金 | |
|---|---|---|
| 対象者 | 会社員・公務員など | 20~60歳未満の全国民 ※保険料の納付猶予・免除制度あり |
| 保険料の支払い | 勤務先との折半 | 全額負担 |
| 保険料の負担額 | 月ごとの給料に対して定率 | 定額 |
| 加入できる年齢 | 70歳まで | 60歳未満まで |
| 受給開始 | 原則65歳(1962年4月1日以前生まれの男性、1967年4月1日以前生まれの女性は年齢に応じて支給開始が65歳より早い特例あり) ※希望すれば60歳以降の繰り上げ受給が可能 |
65歳 ※受給資格期間が10年以上ある場合 ※希望すれば60歳以降の繰り上げ受給が可能 |
公的年金制度は、これらの制度により集めた保険料を、高齢者などの必要な人へと給付する仕組みになっています。
②医療保険制度
病気やけがをした場合に、誰もが安心して医療にかかることのできる制度です。この制度により、持病があったり障がいがあったりして医療費が高額になりやすい人でも、一定の負担割合で医療を受けられるようになります。
日本では国民皆保険として、全員が国民健康保険や被用者保険(協会けんぽなど)など何らかの保険制度に加入します。
| 保険の種類 | 被用者保険 (協会けんぽなど) |
国民健康保険 (市町村国保など) |
|---|---|---|
| 対象者 | ・会社員 ・公務員 ・教職員 |
・個人事業主 ・自営業 ・年金生活者 |
| 保険料の支払い | 勤務先との折半 ※一定要件に該当する家族は扶養に入れることができる(追加保険料は発生しない) |
全額自己負担 ※扶養という概念がなく、家族はそれぞれ国民健康保険への加入が必要 |
| 保険料の計算 | 標準報酬月額等に応じて会社が計算する | 前年所得により決定される |
| 医療費の自己負担 | ・6歳未満(義務教育就学前):2割 ・6~70歳未満:3割 ・70~74歳:2~3割 ・75歳以上:1割~3割 |
・6歳未満(義務教育就学前):2割 ・6~70歳未満:3割 ・70~74歳:2~3割 ・75歳以上:1~3割 ※保険者により未就学児は無料など、扱いが異なる |
| 高額医療費制度 | あり | あり |
③介護保険制度
介護を必要とする人の自尊心を守り、適切なケアを受けられるようにすることを目的に、2000年に創設された制度です。要介護あるいは要支援認定を受けた人は、度合いに応じて福祉用具の貸与やデイサービスの利用といったサービスが1~3割負担で受けられます。
原則、40歳以上の人が保険料を負担する仕組みになっています。
④雇用保険制度
失業者や、介護・育児などで休業せざるを得なくなった人に対し、給付金を支給して雇用や労働者の生活の安定を図る制度です。また、失業の予防、雇用機会の増大、労働者の能力開発を目的に企業を支援する「雇用保険二事業」も雇用保険制度に含まれています。
以下の労働条件に当てはまる労働者は、被保険者となります。
● 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
● 31日以上の雇用の見込みがあること
参照:雇用保険制度Q&A~事業主の皆さんへ~|厚生労働省
保険料は事業者と従業員が負担しますが、事業者のほうが負担の割合は大きくなっています。
(2)社会福祉
社会福祉制度とは、自己解決が困難なさまざまなハンディキャップを負った国民が安心した社会生活を営めるよう、公的な支援をおこなう制度です。
<社会福祉の例>
| 児童福祉 母子・寡婦福祉 |
児童の基本的人権を保護するとともに、子どもとその親に対する支援をおこなう |
| 高齢者福祉 | 介護保険制度とともに、高齢期の国民が尊厳ある自立した生活を送ることができるよう支援する |
| 障害者福祉 | 障がいのある人も、地域の一員としてともに生きられる社会を作る |
それぞれ解説します。
①児童福祉、母子・寡婦福祉
児童の基本的人権を保護するとともに、子どもとその親に対する支援をおこなう制度です。
保育所・放課後児童クラブの運営や、児童手当、児童扶養手当の給付などにより、保護者の就労と育児の両立を支える仕組みになっています。また、児童養護施設や児童自立支援施設などの施設も、社会福祉制度のもと運営されています。
②高齢者福祉
介護保険制度とともに、高齢期の国民が尊厳ある自立した生活を送ることができるよう支援する制度です。地域における包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進したり、高齢者住まい法に基づき居住環境を整備したりして、高齢期にあっても自立した生活が営めるよう生活基盤を整える役目を果たしています。
③障害者福祉
障がいのある人も、地域の一員としてともに生きられる社会作りを目的とした制度です。障害福祉サービスの整備や、特別障害者手当や特別児童扶養手当などの給付金を通じ、障がい者が自立した日常生活・社会生活を送れるよう支援します。また、アルコールなど依存症対策の推進もこの制度の範囲です。
(3)公的扶助
公的扶助とは、けがや病気、失業などが原因で生活に困窮する国民に対して、その困窮の程度に応じた支援をおこなうことで最低限の生活を保障し、自立を助けようとする制度です。
<公的扶助の例>
| 生活保護制度 | 貧困世帯に対し、最低限の生活が営めるように支援する制度 |
| 生活福祉資金貸付制度 | さまざまな理由で生活が苦しい世帯を対象に、無利子もしくは低利子で資金の貸し付けをおこなう制度 |
それぞれ詳しく解説します。
①生活保護制度
生活保護制度は、貧困世帯に対し、最低限の生活が営めるように支援する制度です。生活保護によって保障される生活水準は毎年改定され、適切な支援を受けられるように配慮されています。
生活保護制度は8種類あり、食費や光熱費などの費用を支給する生活扶助や、学用品・給食代などを支給する教育扶助などがあります。
②生活福祉資金貸付制度
生活保護以外の公的扶助の仕組みとして「生活福祉資金貸付制度」という、生活に必要な資金を低金利または無利子で貸し付ける制度も設けています。
貸付対象となる人は以下の通りです。
● 必要な資金を他から借りることが困難な「低所得者世帯」
● 障害者手帳などの交付を受けた人が属する「障害者世帯」
● 65歳以上の高齢者が属する「高齢者世帯」
参照:生活にお困りで一時的に資金が必要な方へ「生活福祉資金貸付制度」があります。|政府広報オンライン
また生活福祉資金貸付制度では、総合支援資金、福祉資金、教育支援資金など、資金の種類や条件が定められています(参照:生活福祉資金貸付条件等一覧|厚生労働省)。
(4)保健医療・公衆衛生
保健医療・公衆衛生制度とは、国民が健康に生活できるよう、さまざまな事項について予防したり、健康の増進を図ったりするための制度です。
<保健医療・公衆衛生の例>
| 母子健康 | 妊産婦のケアや乳幼児の健康を守るための支援をおこなう |
| 公害防止 | 食品や医薬品に対する法的規制を設けたり、調査・管理監督などをおこなったりする |
それぞれ少し詳しく見ていきましょう。
①母子保健
母子保健とは、妊産婦と乳幼児を対象とした健康診査と保健指導、母子手帳の交付などを通じて、妊産婦のケアや乳幼児の健康を守るための支援をおこなう制度です。乳幼児期の予防接種といった保健面だけではなく、不妊治療への支援や未熟児の養育医療など、医療面でのケアもおこなわれています。
②公害防止
食品や医薬品による健康被害の発生を防止するための法的規制を設けたり、調査・管理監督などをおこなったりします。また、下水道整備もこの領域でおこなわれています。
3.社会保障の問題と今後の課題
社会保障制度はとてもよく練られた制度ではありますが、制定当初より時代や人口構造が変化したことで、制度運用上の問題も出ています。ここでは、そのなかでも重要な三つの問題を、厚生労働省が発表する「給付と負担について」をもとに取り上げます。
(1)高齢化による社会保障支出の増加
社会保障給付費は増加の一途をたどっており、2024年度は予算ベースで137.8兆円(対GDP比22.4%)となっています。特に年金給付は、平均余命の伸びとともに大きく増加傾向にあります。
ライフスタイルで見ると、高齢者は社会保障制度の利用者側になる世代であり、この世代の割合が増えることによってさらなる支出増が見込まれます。
(2)少子高齢化による世代間の負担の不均衡
わが国の社会保障の財源は多額の公費のほか、国民から徴収する保険料が使われています。しかし、保険料を支払うべき人口が減少してくると、制度を維持するために保険料自体の国民負担の割合を引き上げる必要が出てきます。このような背景から、現役世帯の負担増が懸念され、制度自体を支えきれない可能性が示唆されているのです。
事実、1990年の国民の社会保障負担の割合は10.6%でしたが、2024年時点では18.4%にまで増加しています。こうした世代間の費用負担の差も、社会保障制度の課題といえるでしょう。
(3)社会保障の範囲の拡大と、それに伴う複雑化
社会保障制度は、人口構造や社会情勢の変化に対応してカバーする領域を広げてきました。最近では、ヤングケアラー(本来大人が担うべき家事や家族のケアなどを日常的に担っている子ども)の問題への集中取り組みなどもおこなわれており、社会保障が担うべき範囲は社会課題の解消のために拡大傾向にあります。
しかし、各制度を実際に利用する側からすると、制度が複雑化することで利用者側の理解の難しさや、サービス利用へのアクセスの難しさなどの課題が出ています。あまりにも複雑化すると、ケアが必要であっても利用そのものを諦めてしまうセルフ・ネグレクトといわれる状態にもつながる懸念があります。
4.社会保障の概要を知り、自らも学ぶ機会をもとう
社会保障制度は、みんなで支え合い、生活の仕組みを整えようとする仕組みです。その考え方はSDGsのターゲットの多くにまたがりますが、特にSDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」のうち、10.4には「税制、賃金、社会保障政策をはじめとする政策を導入し、平等の拡大を漸進的に達成する」という目標が明確に示されています。
社会保障制度は広範なものですが、自分が利用者になるものでもあります。制度の概要を知り、自らも学ぶことで、社会保障制度を理解していきましょう。
(編集協力 スタジオユリグラフ・中村里歩、西脇聖子)
(2025.3.16更新)内容を追加し、データを更新しました。