放送内容
- 緊急報告 能登大雨 なぜ被害は拡大した
- 大雨による土砂崩れ 地震の影響が
- 仮設住宅も浸水 そのリスクは
- 被災地の状況は
- 地震と大雨で 能登復興への影響は
- 地震からの復興に影響は 専門家に聞く
緊急報告 能登大雨 なぜ被害は拡大した
想定外の事態は、なぜ起きたのか。
輪島市中心部の河井町で、自宅が浸水被害を受けた本多さん一家。
本多清美さん
「一方、二方、三方で、全部こっちで流れたので。これは、あっという間でした。流れる量は、結構、速かったです」
本多さんの自宅の防犯カメラに、その様子が克明に記録されていました。
朝7時、まだ雨は本降りではありません。8時になると、次第に雨が強くなっていきます。9時、冠水が始まる様子が映し出されています。その後、10時には広範囲に冠水が拡大。
11時には、輪島市の中心部を流れる河原田川が氾濫し、車が立往生。こうした急激な事態の悪化をもたらした要因の一つは、線状降水帯の発生でした。
線状降水帯は、発達した積乱雲から非常に激しい雨が同じ場所に降り続く現象です。気象庁は危機感を持ってもらうため、半日前の予測を目指しています。しかし、今回、予測は発表されませんでした。
当日の雨雲レーダーでは、朝8時から発達した雨雲がかかり始めます。9時7分、気象庁は線状降水帯が発生したと発表しました。輪島では、観測史上最大の雨量を記録していました。
名古屋大学 坪木和久教授
「ある程度の雨が降るということは予測できたのではないかなと思います。難しいのは、それが100ミリで終わるのか、300ミリ、400ミリと降るのか。この量を予測するのが難しい。線状降水帯を正確に予測することは、現状では非常に難しい」
朝9時、各地で災害が発生し始めます。地震からの復興の象徴として期待される、中屋トンネル。25日、通行が再開する予定でしたが…。
9時30分ごろ、土砂崩れが発生しました。現場周辺では10人が救助されましたが、このうち2人が亡くなりました。救助された堂口英司さんです。この日、トンネル付近で警備の仕事をしていました。
警備員 堂口英司さん
「何とも言われんよ。(救助されるまで)不安で」
これは、他の作業員が撮影した当日の映像です。堂口さんは、この日、朝9時から勤務を開始しますが、大雨のため1時間ほどで仕事が中止に。帰宅しようとしたところ、土砂で道が塞がれて孤立状態に陥りました。妻が持たせてくれたおにぎりで、一晩耐えしのんだといいます。
堂口英司さん
「いつ(救助に)来てくれるか。3日も4日もいないといけないか、それとも野たれ死にになるのかって」
翌日。自衛隊によって救出。妻とも再会を果たすことができました。
輪島市の塚田川です。21日の朝9時ごろ、川の水位は急激に上昇。その後、氾濫が起きました。大雨の翌日、捜索活動の様子を見つめる一組の親子がいました。
喜三鷹也さん
「本当は捜索したいんですけど、見守るしかない状況で」
安否が分からなくなっている、中学3年生の娘、喜三翼音(きそ・はのん)さん。家に一人でいたところ川が氾濫し、家ごと流されたと見られています。翼音さんは、テレビ電話で家族に自分の状況を伝え続けていました。最後に電話がつながったのは、朝9時55分のことでした。
母親
「9時55分に(電話を)かけて、それが最後だった。なるべく高いところに逃げてって(伝えて)。その時は必死だったと思う」
喜三鷹也さん
「とにかく、どんな形でも見つかってほしいという願いだけです。抱きしめたいですね」
大雨による土砂崩れ 地震の影響が
桑子真帆キャスター
「この辺り足元が相当悪いです。かなりぬかるんでいます」
大雨から2日後の23日。
桑子真帆キャスター
「地震でこの辺りは道路が曲がってしまって、そこにさらに泥水が」
輪島市内では、町の至る所に大量の土砂が積もっていました。
桑子真帆キャスター
「あそこ斜面が相当削れていますね。あそこコンビニエンスストアの看板が土砂の中に埋もれています」
今回の大雨で、能登半島各地で土砂崩れが発生。道路が寸断され、行き来できない孤立集落は、一時、100か所以上に上りました。
1月の地震の際にも各地で発生した土砂崩れ。復旧工事を進めていた中で繰り返された被害でした。専門家は、地震の影響を受けた斜面に大雨が降ったことで、被害が拡大した可能性を指摘します。
東京農工大学 石川芳治名誉教授
「地震によって山が緩んだり亀裂ができて、今回も大きな雨ですが、地震の影響で土石流や崩壊がたくさん起こる。そして拡大する大きな要因になっている」
仮設住宅も浸水 そのリスクは
桑子真帆キャスター
「川が見えてきました。まだ相当茶色く濁っています。そして、この川のすぐ近くにあるのが仮設住宅なんですよね」
今回の大雨では、県内6か所の仮設住宅も床上浸水の被害を受けました。その1つ、輪島市中心部の宅田町第2団地です。すぐ横を流れる河原田川が氾濫。およそ140棟ある住宅のほとんどが浸水被害を受けました。水は一時、胸のあたりまで。23日は水が引き、住民は片づけに追われていました。
桑子真帆キャスター
「こんにちは。今は、何をされているんですか?」
橋本幸子さん
「携帯の情報を入れている紙を乾燥させて、更新するときに必要かなって思って」
8月、入居した橋本幸子さん。地震で自宅は全壊。仮設住宅に身を寄せたそのやさき、再び被災しました。
橋本幸子さん
「祭りのときの“はっぴ”なんですけど。なんとか家から出せたので持ってきてたんですけど、全壊した家から。これももうだめですよね。思い出じゃないですけど。ちょっとショックで言葉も出ません」
被災者の生活再建を支えるはずの仮設住宅で起きた、今回の浸水被害。実は、そのリスクは建設当初から分かっていたものでした。
輪島市の中心部に近いエリアのハザードマップです。今回、被害に遭った3つの団地は、いずれも洪水の浸水想定区域内にあったのです。石川県は、その理由について「平地が少ないことなどから、自治体による用地の確保が難しかった」と説明しています。ただ、住民はそのリスクについて。
桑子真帆キャスター
「ハザードマップを渡された?」
橋本幸子さん
「一式セットの中には、もしかしたらあったのかもしれないですけど、私はそこまで詳しく見てなかったので」
桑子真帆キャスター
「浸水想定区域にあたる話って?」
住民
「そういう詳しいことは知らない。とにかく仮設が当たったから喜んで、住めるところが当たったしって感じで。詳しいことまでは、そういうことは聞いていないですね」
防災の専門家は、地域の災害リスクについて繰り返し住民に伝える必要があると指摘します。
静岡大学 牛山素行教授
「ここでどういう危険性がありますよという情報は、情報を提示しただけでは、みんながみんな浸透するのは難しいと思う。情報提供は1回だけではなくて、なるべく機会を捉えて繰り返し行っていく。そういうことが重要になってくると思う」
被災地の状況は
<スタジオトーク>
井上 二郎キャスター:
私は、この災害の一報ニュースをお伝えしていましたが、これまでのキャスター人生でも見たことがないほどの激しい雨の降り方に言葉を失いました。スタジオには、社会部災害担当の及川記者です。及川さん、今の被災地の最新の状況はどうなっているのでしょうか?
及川緑 記者(社会部 災害担当):
まず、人的被害ですが、7人が死亡、2人が行方不明。また、所在が分からず連絡が取れない安否不明の人も5人に上っています。(9月24日午後5時 時点)土砂災害によって道路の寸断も相次ぎ、24日午後4時の時点で孤立している集落も46か所あります。輪島市は、孤立集落や浸水被害を受けた仮設住宅に住んでいた人を対象に、集団で避難の調整を始めました。ようやく生活が落ち着き始めたさなかのことで、またしても厳しい状況に置かれることになっています。
井上:
今回、なぜ雨量の急激な増加を予測することができなかったのか。こちら、ご覧いただきたいと思うんですけれども。まず、こちらが前日の夜の時点の土曜日朝9時の雨雲の予想です。このようになっていました。一方、こちらが実際に降った雨雲のレーダー画面。これ、雨雲の位置ですとか、あるいは赤い表示、強さにずれがあるんです。
及川:
私は、前日の段階で気象庁を取材していて、日本海側の大雨に一定の危機感を持っていることは感じていました。ただ、石川県で、ここまでの記録的な大雨になることは、結果的に予測はできていませんでした。気象庁の担当者に聞いても、これほどの大雨になった決定的な要因は、まだ分からないという話でした。線状降水帯は、2024年はこれまでに17回発生していますが、このうち9回では予測の情報が出ていません。つまり見逃しということになります。
井上:
今、出ているのが、線状降水帯の発生と予測を表したものですけれども、バツの印が見逃しということで。予測が出ていない状態で線状降水帯が発生することが非常に多いのが実情なんですね。
及川:
このように2分の1ほどの頻度で起きているということですけれども。この線状降水帯の予測には限界があることは、われわれ改めて認識する必要があります。ただ、予測の発表をスタートさせた理由は、まさに今回のような被害を防ぐのが目的でした。今回、呼びかけができなかったこと、気象庁にとってどのように情報を伝えていくのかが問われていると思います。
井上:
今回、取材した仮設住宅は浸水の被害に遭っていました。NHKが6月の時点で調べたときには、ハザードマップで洪水や土砂災害の危険性が高いとされている区域に、このように仮設住宅、赤い印で表示をしていますが、67か所建設されていたことが分かっています。及川さん、このように、なぜリスクがある場所に仮設住宅が建つことになったのでしょうか?
及川:
NHKが自治体に取材をしたところ、まとまった用地を用意するのが難しかったり、町のほとんどが浸水想定区域だったなどの回答がありました。石川県は自治体を通じて、災害時は早めに避難するよう事前から呼びかけていて、今のところ人的被害はないと説明しています。その一方で、今回、避難誘導などがどれだけできていたのかについては、今後、検証する必要があるとも話しています。住み慣れない仮設住宅に浸水や土砂災害のリスクが、どの程度あって、どう対応すればいいのかということは丁寧な説明が必要となります。また、これは能登半島以外の他の地域でも考えなければいけない課題だと感じています。
井上:
今回の大雨は、地震の被害から立ち上がろうとしていた方々に追い打ちをかける事態になっています。
地震と大雨で 能登復興への影響は
輪島塗の箸職人、鮓井(すしい)辰也さんです。8月、復興のために建設された仮設の工房で、仕事を再開したばかりでした。しかし…。
輪島塗 箸職人 鮓井辰也さん
「ああ、ダメや。漆、こぼれていますね。手つけられませんわ。まいったね」
大雨で床上まで浸水し、震災後に新調した輪島塗の道具がほとんど使えなくなりました。
漆の上に、金粉でまき絵を施した輪島塗の箸を作っていた鮓井さん。地震で工房と店舗が全壊。仮の工房で少しずつ自分にできることを始め、再建に向けた一歩を踏み出していたところでした。
鮓井辰也さん
「あの地震のあと、ただ走ってきたんやけどね。今、片付ける気力がわきませんわ。さすがに涙出てこんね。地震のときは涙出たけど」
大雨は、集落での暮らしの再建にも影響を与えています。能登半島の先端、珠洲市。大雨のあと1,744戸が断水しました。(23日午後3時 時点)
住民
「早く水を出してほしい。こんなことになるとは思わなかった」
狼煙地区では、元日の地震でも断水が発生。住民の8割が集落の外に避難しました。
2月、ようやく水道が復旧。住民も少しずつ戻っていました。ようやく区切りがついたはずの避難生活。断水が再び始まったことで、住民たちの心が折れるのではないかと懸念が広がっています。
珠洲市狼煙地区 区長 糸矢敏夫さん
「いつまで断水するか分からんから。なんとかしてくれっていうか、対応を早くしてもらいたい」
高齢者の暮らしを支える施設でも、運営が継続できるか不安が高まっています。施設に続く道が大雨で土砂に埋まり、一時、孤立状態に。13人の高齢者が生活する、この介護施設では停電と断水の中、不安な一夜を過ごしました。
入居者
「ここは(被害が)ひどかった」
入居者
「前は地震攻め、いまは水攻め。本当にね、どうすればいいのか」
この施設、地震のあと復旧工事を続け、8月、再開したばかりでした。多くのスタッフが、地震で自らも被災しながら入居者のケアを続けてきました。今回の大雨でも再び複数のスタッフが自宅に被害を受けました。安心して暮らせる環境をどう維持するのか。苦悩が続いています。
施設長
「心が折れそうになりますよね、本当に。でも、やるしかないというか。職員さんも同じ気持ちだと思うので、前を向いていこうねとは言ってます」
地震からの復興に影響は 専門家に聞く
井上:
では、ここからは復興まちづくりがご専門の姥浦(うばうら)道生さんと共にお伝えしていきます。姥浦さんは輪島市の復興まちづくり計画検討委員会の委員長も務めていますが、姥浦さん、ご両親が能登地方の出身で、ゆかりが深い土地。23日も現地を訪れになったと聞きましたけれど、今、この被災の状況をどういうふうにご覧になっていますか?
スタジオゲスト
姥浦 道生さん (東北大学・災害科学国際研究所 教授)
復興まちづくりが専門
姥浦さん:
震災前は、実はあまり存じ上げないんですけれども、震災後でも十分に大変な状況だったと思います。それが今回の水害で、さらにまちの風景が変わってしまったなというのが、まず印象です。それから地元の方々と話をしている中で、やはりいちばん印象に残っているのは、先ほどのVTRでもございましたけれども、心が折れそうだ、心が折れてしまいそうだという話を本当によく聞きまして、それがやはり非常に印象的です。
井上:
心配な状況ですよね。今回の大雨被害ですけれども、地震からの復興への影響も非常に心配されます。姥浦さんは輪島市の復興にも携わっていますけれども、これまで、計画では、このような3つの柱が立てられています。まず1つが「生活再建」。そして「生業(なりわい)の再興」。さらには「新たなまちへの再生」。これが計画の柱として示されていますけれども、今回の豪雨災害、今後の復興について、どういうふうに影響してくるとお考えでしょうか?
姥浦さん:
大きな影響が出ると思っております。生活の再建につきましては、その大きな柱である住宅の再建が、仮設住宅が造られて少し落ち着いてきたところでございます。生業につきましても、仮設の工房であるとか仮設の店舗の計画であるとか、さまざま進められているところでございまして。ですので、今、復興に関する第一歩を、これから新しい一歩を踏み出そうと、ちょうどしていたその時期に、まさにその一歩を踏み出そうとしていた方々が被災されたということで。一歩進もうと思っていたところが、また振り出しに戻ってしまったということが。
井上:
最初の一歩すらというところに戻ってしまうかもしれない。
姥浦さん:
ですので、場合によってはここで再建しなくてもいいのではないかだとか、別の所で暮らそうということで人口の減少がさらに進んだり、伝統産業もいろいろございますけれども、そういうものの衰退を招くことも、今後、考えなければならないところかなと思っております。新たなまちへの再生ですけれども、この中で、特にまちを集約していく、移転するという考え方もございました。これは震災後に地元の方からもそういう意見は出てきておりましたけれども、今回さまざまな所で、特に中心市街地も被災しておりますけれども、周辺の集落も被災しておりますので、そういう所から移転したいというご意向がどんどん出てくる可能性があるかなと思っております。
井上:
最後になりますけれども、地震と大雨に見舞われたこの土地、今後、何が私たち、できるでしょうか?
姥浦さん:
私たち、これから泥かきだとか、できることは何でもあると思います。金銭的な支援もいろいろあると思います。そのような支援を、一つ一つの支援をすることが地元の方々、心が折れそうだという方々を支えることになるのではないかなと思っております。