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どこにでもいる女性が、性被害にあっているケースは少なくない。決して特別なケースではないのだ。photo/iStock
どこにでもいる女性が、性被害にあっているケースは少なくない。決して特別なケースではないのだ。photo/iStock

教師の性暴力に苦しんだ女性の告白「先生は一切避妊をしなかった」

緊急避妊薬がもしもあったら……

日本産婦人科医会の副会長・前田津紀夫氏の発言にSNSなどで批判が集まり、それと同時に「緊急避妊薬」という言葉も話題になっている。「アフターピル(緊急避妊薬)を必要とするすべての女性に届けたい!」という署名キャンペーンでは、7月21日に6万7000人もの署名が厚生労働省に提出され、8月27日までには8万8000人以上の署名が集まっている。

それでも、未だに「性が乱れる」「避妊をするもしないも自己責任」といった意見が多い。多くの女性は避妊の重要性はわかっている。望まない妊娠はしたくないと思っている女性が大半だ。しかし、そんな思いがあっても苦しんでいる女性たちはいる。

今回、高校時代に受けた性被害の経験を20代の女性(桑沢まりかさん)が自身を今でも苦しめている体験について寄稿してくれた。望まない妊娠に怯えながらも、誰にも相談もできず苦しんだ日々……。その後、海外で驚くほど低価格で入手できる緊急避妊薬の存在を知り、悔しくて涙が止まらなかったという。

SNSで「緊急避妊薬」が話題になっている今だからこそ、知ってほしいと傷つく想いを綴ってくれた桑沢さんの手記から、あなたは何を感じるだろうか。

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父親のように慕っていた先生が

「緊急避妊薬」……。
この言葉を聞いて私が思い出すのは、高校3年生のとき。
私は17歳からおよそ2年半に渡り、小学校時代に出会った教師から性暴力を受けていた。私が緊急避妊薬を必要としたのは、そのときのことだ。

小学生の頃から知るその教師は、単なる教師というよりも家族ぐるみの付き合いをしていて、私にとって父親同然の存在だった。また、多くの同級生がそうであったように、私も度々その教師に様々な相談をし、子供ながらに信頼していた。

そんな存在だったはずの教師の刃が向いたのは、高校2年、大学受験を頑張りたい、そう伝えたときだった。「俺がいなければ乗り切れない」「一人でお前は無理だろう」と、私の肩に手が回った。実際、師としてその教師を頼りにしていた私は、何をどうすればいいかもわからないまま、相手の言うことに従うより他なかった。

それからの日々は過酷だった……。

日々の生活を管理され、友人との時間も奪われた。気に入らないことをすると延々と怒鳴られ説教をされ、ことあるごとに「俺とお前のこの関係性は他の奴らに伝わらないだろうな」と脅されながら、もはや洗脳のような形で、私は逃げ道を失っていった。行為の間は心と感覚を殺した。解放された瞬間、勉強で友人に遅れを取らないよう、自分を呼び戻して必死に机に向かう日々だった。誰かに助けを求める余裕なんてなく、傷だらけになったからだを誰にも気づかれないように、とにかく日々を生き延びるのに必死だった。

photo/iStock

相手は、避妊をしなかった。

「今まで散々遊んできたが、誰一人妊娠させたことはなかった」と武勇伝を語った。私の生理日も把握していた相手は、勝手に安全日と危険日をわけ、安全日は中へ、危険日は外に出した(読者のみなさんに、実質安全日はないこと、避妊は常に必要なことはぜひともお伝えしたい)。コンドームをつけるつけないは、相手の気分次第だったし、付けたとしても付け方なんて適当だった。最初は私も必死に避妊をしてほしい頼んだが、雄弁のうちに打ち棄てられ、私にできたのは心配する気持ちを麻痺させ、心を殺すことだけだった。

侮辱的な婦人科の対応

ある日、生理が来なくなった……。

頭が真っ白になった。そのとき、どこかで聞いた「緊急避妊薬」という言葉を思い出した。インターネットで必死に検索し、翌日学校の帰りに産婦人科に行けば72時間以内に間に合うとわかった。本来、緊急避妊薬は生理が来なくなってからの服用ではなく、性交後72時間以内の服用が正しいが、当時は知識もなくとにかくどうにかせねばと必死だった。相手には私の行動を監視されていたも同然だったが、翌日であれば相手の仕事中に、監視の目もすり抜けられそうだった。机の奥に隠しておいた、お年玉から少しずつ貯めていた2万円を取り出した。

そして翌日、病院へ行った。そこは生まれて初めての産婦人科で、制服姿なんて私だけだった。家に帰って着替える時間はなく、そんなことをしていたら相手に拘束されてしまう。こうするしかなかったのだ。待合室で「あら、この子なんでこんなところにいるのかしら」「最近の若い子は困ったものね」そんな視線を浴びている気がした。あのとき感じた時間の長さを、私は一生忘れることはないだろう。

編集部注:本来、緊急避妊薬の効果的な服用は、性交後72時間とされています。ただ、桑沢さんも上記の中で伝えていますが、当時、緊急避妊薬の情報も少ない中、生理が来ない恐怖やそれでも続く相手からの要求などで、とにかく急いで対処しなくてはと緊急避妊薬を服用したそうです。当時の桑沢さんの状況や心理を、原稿ではあえてそのまま生かして掲載いたしました。

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それでも背に腹は変えられない、じっと待って診察室に行くと、その教師と同じくらいの年齢の男性医師が座っていた。硬直した。女性医師だけのレディースクリニックを選択したい気持ちはあったが、そのとき検索して出てきた女性医師のクリニックは価格が高く、男性医師の病院にするしかなかったのだ。

「何しちゃったの」とため息まじりに呆れ顔で聞かれた。「避妊に……失敗しました……」それが私の言える精一杯の言葉だった。最後の生理や行為の日にちを聞かれた後、「そしたらこれ読んで、サインして」差し出された小さな紙には、緊急避妊はあくまで緊急の手段であること、避妊法として完璧ではないことなど、基本的な説明があった。

最後には、「このような事態が二度とと訪れないように万全を期します」といったような文章があった。その文章に目眩を覚えながら、必死にサインをした。「これからはこういうことのないように」部屋を出る時、医師から言われた。ちなみに現在その病院は、未成年者は緊急避妊薬の処方に親権者の印鑑付き同意書が必要になっている。

それから、私は17000円を払い、2万円持ってきて良かったと冷や汗をかきながら、やっとの思いで薬を手にした。

「このような事態が二度と訪れないように万全を期します」の一言で、暴力を受けていることも、それで妊娠不安を抱いたことも、全部桑沢さんが悪い、頑張れば防げることなのに、と言われているようにも感じてしまったという。実際は生きるだけでも精一杯で、逃げる余地などなかったのに……。photo/iStock

私は薬をカバンに押し込み、急いで病院を出て、自動販売機で水を買い、人気のない暗い路地裏に駆け込んで、薬を飲み込んだ。そして間違っても処方されたことがバレないように、もらったものは全部ゴミ箱へ押し込んだ。その瞬間、「このような事態が二度とと訪れないように万全を期します」の文も頭の中に蘇った。誰も私が苦しい思いをしている側だなんて思ってくれないし、助けてくれない、私は自分がまるで、何か悪いことでもして社会の外側に放り出されたような、もう普通の世界には戻れないような、そんな感覚に襲われた。

妊娠や加害者からの脅迫、そして社会の目

それでも、生理はこなかった。

相手に恐る恐る言ってみると、「気にしすぎると想像妊娠と言って生理が遅くなることがある。こっちも迷惑するから気にするのはやめろ」と激しく怒鳴られた。

それでも生理は来ない。もう一度相手に伝えた。だったら検査してみろ、と言われ、薬局で妊娠検査薬を購入し、ファミリーレストランのトイレで一人震える手で検査した。このときのことは、忘れたいのに鮮明に頭に今も蘇る。結果は、陰性だった。それを相手に伝えると、「そうか、そしたら今日もこのままホテル行けるな」と言った……。私は絶望し、このとき心が死ぬのを感じた。

それから数日、よほどのストレスだったのだろう、私は学校から帰宅途中、初めてのパニック発作を起こし倒れ、保健室へ運ばれた。そこで初めて、今までの一部始終をカウンセラーさんに伝えることができた。その途端、生理がきたのだ。きっと自分の心は想像以上に張り詰めていて、話せたことで安心したのだと思う。保健室の先生は、喜んで一緒に泣いてくれた。それからはたびたび公的機関への相談を促された。

photo/Getty Images

それでも、最初はなかなか公的な機関に相談する気にはなれなかった。もしも、相談したことがバレたり警察が手を加えるようなことがあれば、加害者に今後何をされるかわからない恐怖があった。また、学校に通えなくなるかも、大学進学ができないかも……といった日常が壊れてしまう恐怖などもあった。

しかしそれだけでなく、病院での対応もトラウマになっていた。その後低用量ピルを服用するようになったが、そこでも、低用量ピルを服用しようとする女子高生に対し、寄り添ってくれるというよりも、対応はいつも「最近のどうしようもないモンダイがある高校生」という視線を浴びているような感じだったからだ。

だから、警察に話しても、どうせ私が責められるに決まっている。口がうまく迫力もある加害者に言いくるめられて終わってしまう、そうしたら加害者からどんな復讐をされるかわからない……、という恐怖に目の前に真っ暗になるばかりだった。

病院での診察という私が唯一接した公の機関における対応を通じて私は、「誰も助けてはくれない」、そう内面化してしまったのかもしれない。だから、当時私には助けを求められるなんていう希望はなくて、とにかくその日々を生き延びて、なんとか受験を成功させ、加害者から離れ「普通」の社会に戻りたい、その一心だった。

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その後、その加害者である教師との関係は断てたが、私は今も、PTSDに苦しんでいる。最近のPTSDの研究では、早期の治療ほど完治の確率も高く回復が早いとされており、スピードが勝負だ。でも私の場合、自分に起こったことが性暴力で、自分の生きにくさの多くはPTSDによるものと気付くまで、そして、助けを求められるようになるまでに、あまりに多くの時間がかかってしまった。

結果として、相手は自分がしたことの問題性の大きさも加害としての自覚もあるかは、定かではない。それなのに、私はこれからも数年は治療に時間とお金を取られながら、パニック発作や感情の麻痺、解離といったPTSDに苦しめられるに違いない。常に様々なスティグマの内面化との戦いになるのだと思う。

身体を守るためにも「#緊急避妊薬を薬局で」

そして私は思うのだ。

もし、緊急避妊薬が薬局で手に入っていたら……。私はもっと、自分の体を積極的に守れたのではないか。自分は助けてもらえるどころか排除されるべき存在なんだと思わずに済んだのではないか、結果的に、もっと早く支援機関に繋がれて、あんな関係もっと早く立ち切れたのではないか、そしたらいまだ性暴力の後遺症に日々の生活をこんなにも妨げられることなんてなかったのではないか、様々なことを思ってしまう。

緊急避妊薬は、警察かワンストップセンターに置けば性暴力被害者の人に届くし、他の人は病院で十分、という人がいる。しかし、決してそうではないのだ。性暴力と気づくまでに時間がかかるケース、相手からの報復などを思うと性暴力の被害者とはすぐには言い出せないケース、私のように加害者と似た姿形の人が医師だったことでフリーズし、相談どころではないケースもあるだろう。また、相手から日常を監視されている場合、病院に行くこと自体が難しいこともある。

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実際、内閣府の調べでは、被害から性暴力被害者センターの電話相談に至るまでの時間について、1年以上が26.3%、緊急避妊薬の服用のリミットである72時間以内に電話相談できる人は14.7%にとどまっている。そもそも、この相談にすらたどり着けていない人が大多数であることも考慮すれば、緊急避妊薬を必要とする人には、誰にも平等に、当たり前に安心安全なアクセスが薬局にあることが、敷いては数多くの人々を救うと思わざるを得ない。

また、病院にたどり着けたとしても、責められるべきは加害者のはずなのに、被害を言い出せないことで、被害者側が今後気をつけるようにと言葉を受けることもある。もちろん、理解ある医師もいるはずだし、10代の頃から信頼できるかかりつけの産婦人科医を持てることには大賛成だ。

しかし、先日話題になったニュースを見れば、産婦人科医会の副会長のほどの産婦人科医でさえ、若い女性について「知識がない」「安易な考えに流れてしまう」と言ってしまうのだ。私が受けてきた対応は一部の例外ではなく、似たことをしている医師は他にも少なからずいるはず、と改めて感じざるをえなかった。こういう態度は隠そうとしても、患者からすればすぐに感じ取れてしまうものだ。

そして、唯一の公の機関との接触にもなり得る病院でこういった診察が行われる先に待っているのは、「誰にも相談できないという絶望感」だ。

性暴力被害は、想像を絶するほど、心と体に大きな傷を残す。せめて、ジャッジされる不安なしに、まずは妊娠不安だけからでも自由にさせてはくれないだろうか。緊急避妊薬の技術は20年も前に開発されているのだから……。まずは、女性たちが心身に向き合って、次の行動や相談先を考えることができるために、緊急避妊薬の入手をもっと簡単にしてはもらえないだろうか? しかも、緊急避妊薬は世界約90カ国で薬局で処方箋なしに手に入れることが​可能なのだ。日本にいる限り、このことは願ってもいけないことなのだろうか

今、多くの女性たちが「#緊急避妊薬を薬局で」と声をあげている

教師から長期の性暴力を受けた一人として、お願いしたい。もう、私のような思いをする人がこれ以上生まれて欲しくない。

そして、この緊急避妊薬を薬局に置くべきという主張は何も新しいことではなく、日本も加盟するWHOも国際産婦人科連合FIGOも推進する世界のスタンダードであることも付け加えたい。新型コロナウイルスの影響で、女性の暴力への脆弱性や妊娠不安の高まりの報告も多く見かける。だからこそ、この現実に目を向け、早急に変化を実現して欲しいと願うばかりだ。

少しずつだが声を上げる人も増え、緊急避妊薬の重要性を考える人も増えている。あと少しだ。photo/iStock

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