【レポート②前編】性的なネット広告の問題点(青少年への影響)
〜無差別に表示される性的なインターネット広告のゾーニング(すみ分け)を目指して〜
▼前回の記事
3. 性的なネット広告の問題点
今回から、性的なネット広告の問題点について取り上げる。一度に公開するにはボリュームが大きいため、前編・中編・後編の3つに分けてnoteを公開していく。
前編では、「青少年への影響」という観点で問題を提起する。
3-1. 青少年の健全な育成の観点
現代の学習指導要領では、小学生から「1人1台端末」を所持し、オンライン学習を行うことが推奨されている。このように国を挙げて子どものインターネット利用を推進している以上、「インターネットは子どもが見るものではないから、性的なコンテンツが氾濫していても問題ない」という理論はもはや通用しない。実際に、こども家庭庁が2026年3月に発表した資料[1]では、小学生(10歳以上)の98.5%、中学生の99.2%、高校生の99.3%がインターネットを利用していると回答している。
日本の性教育は欧米のみならずアジアの国々と比べても遅れていると言われている[2]。十分な性教育を受けていない青少年(0歳から18歳未満の男女[3])が、正しい知識を得る前に性的なコンテンツに広告という形で意図せず接触し、それを通じて誤った性知識や偏った価値観を植え付けられることは以下に挙げる児童と青少年の権利保障や保護の観点からも、配慮が不足していると考える。
3-1-1. 児童と青少年の権利保障や保護に関する各種基準
▼国際条約
ユニセフ 子どもの権利条約(要約)
第13条:児童は、方法を問わず国境を越えてあらゆる情報を求め、受け取り、伝えるという「表現の自由」を有するが、この権利の行使には、他者の権利や信用の尊重、あるいは国家の安全や公衆の健康・道徳を守るために必要な場合に限り、法律に基づく一定の制限を課すことができる。
第17条(a,e):締約国は、児童の健全な成長に資する国内外の多様な情報をメディアが普及させるよう奨励してその利用を確保するとともに、児童の表現や思想の自由(第13条など)に留意しつつ、児童の福祉に有害な情報から児童を保護するための適当な指針の発展を奨励するものとする。
https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig_all.html
▼日本国内の理念
児童憲章 (抜粋)
児童は、人として尊ばれる。
児童は、社会の一員として重んぜられる。
児童は、よい環境のなかで育てられる。
2 すべての児童は、家庭で、正しい愛情と知識と技術をもつて育てられ、家庭に恵まれない児童には、これにかわる環境が与えられる。
9 すべての児童は、よい遊び場と文化財を用意され、悪い環境からまもられる。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinken/sankosiryo/1322786.htm
▼法律
青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(抜粋)
(定義)
第二条
4 前項の青少年有害情報を例示すると、次のとおりである。
一 犯罪若しくは刑罰法令に触れる行為を直接的かつ明示的に請け負い、仲介し、若しくは誘引し、又は自殺を直接的かつ明示的に誘引する情報
二 人の性行為又は性器等のわいせつな描写その他の著しく性欲を興奮させ又は刺激する情報
三 殺人、処刑、虐待等の場面の陰惨な描写その他の著しく残虐な内容の情報
https://laws.e-gov.go.jp/law/420AC1000000079
▼企業向けの実務ガイドライン
公益財団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(子どもの権利とマーケティング・広告検討委員会):子どもに影響のある広告およびマーケティングに関するガイドライン(抜粋)
3-2.表現の自由における子どもの人権の尊重
広告およびマーケティングには憲法上の表現の自由、言論の自由が保障されており、これに関わるクリエイティビティは尊重されるべきであるが、子どもの人権(子どもの消費者としての権利を含む)の擁護はこれに優先される。事業者はこの原則を踏まえて、広告およびマーケティングを実施する。
4-1 広告表現に関する配慮事項
4-1-8 過度な性的表現で①感受性の強い未成熟な子どもの性に対する興味をいたずらに助長し、性的欲求を過度に刺激するような表現、また不快感や精神的苦痛を与えるような表現には十分配慮する。
②子どもが主たる訴求対象でない商品・サービスの広告を子どもが見て、性に対する興味や欲求を過度に刺激される可能性がある。このような表現については、表現自体を見直したり、広告媒体または時間帯を考慮することが望ましい。
子どもに影響のある広告およびマーケティングに関するガイドライン
https://www.savechildren.or.jp/partnership/crbp/pdf/fm.pdf
3-1-2. 性的な広告が青少年に及ぼす心理的・医学的影響
現在、ネット上の性的広告にはR18指定作品だけでなく、それに準ずる過激な描写(全裸に近い画像や性行為を彷彿とさせる描写)を含むものが溢れている。つまり、性行為の描写を売り物にした読み物・絵画・写真・映画など[4]いわゆるポルノグラフィーを子どもが意図せず目にしてしまっているのが現状である。ポルノグラフィーが子どもに及ぼす影響については、多くの研究報告や専門家の指摘がある。
【攻撃的な行動】
2011年の米国の研究(10~15歳対象)では、暴力的な成人向けコンテンツに接触した子どもは、そうでない子どもに比べ、性的に攻撃的な行動をとる確率が約6倍になることが示された。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21046607/
【学力への影響】
8歳から10歳の子どもたちに性的な広告と一般的な広告をみせたあとにワーキングメモリテストと算数テストを受けさせどのような影響が出るか調べた2016年の研究では、同性の性的広告を見た子どもたちにおいてテストの成績が下がることが示された。
https://www.researchgate.net/publication/292342468_Exposure_to_Sexualized_Advertisements_Disrupts_Children's_Math_Performance_by_Reducing_Working_Memory
【暴力行為】
2019年の米国の研究(高校1年生相当の男女1694人対象)では、男子学生において、暴力的ポルノへの曝露が恋人間での性的暴力加害と被害の発生率増加と有意に関連していることが明らかになった。また、女子学生において暴力的ポルノへの曝露が恋人間での脅迫加害の発生率増加と関連していることが示された。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31309432/
【性的問題行動】
児童・青少年における、暴力的および非暴力的な性的コンテンツへの曝露と性的問題行動との関連性を検証するために、2021年9月までに発表された27件の研究結果を統合分析した2023年のシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、非暴力的な性的コンテンツへの曝露と性的問題行動との間に有意な関連が認められた。また、暴力的/ライブの性的なコンテンツへの曝露と性的問題行動との間にも有意な関連が認められた。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37343427/
【リスクのある性的行動】
思春期初期における性的に露骨なメディアへの曝露と危険な性行動の関連を調べるため、中学1年性を対象とした10年にわたる台湾の追跡調査(2020年発表)では、性的に露骨なメディアへの接触は、早期の性交渉開始、避妊なしの性行為、および複数の性交渉相手との性交渉開始と有意に関連していた。さらに、より多くの媒体への接触は、危険な性行動の可能性を高めた。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32275669/
【脳への影響】
小児科医の今西洋介医師は、2025年3月の記事において、思春期の脳の発達段階におけるポルノの影響について次のように警鐘を鳴らしている。
(要約版)
ポルノ視聴が及ぼす心身への影響と悪循環
・依存のメカニズムと悪循環
ポルノはストレス解消などの手段として利用されるが、過度な視聴は不安や抑うつを招き、現実の人間関係を希薄にする。その結果、深まった孤独を埋めるためにさらに視聴にふけるという、依存の悪循環に陥りやすい。
・思春期の脳への深刻な影響
思春期の脳は発達途上で刺激に弱く、快感への欲求が抑制力を上回りやすい。この時期に強い刺激に晒され続けると、脳の報酬系や衝動抑制の回路が乱れ、自制が利かなくなる恐れがある。
・長期的な対人関係の質の低下
ポルノの習慣化は個人の心理面だけでなく、将来的な恋愛や結婚生活の満足度を低下させるなど、長期にわたって社会的な人間関係に悪影響を及ぼす。
https://flight.theletter.jp/posts/c8bc81b0-fa0e-11ef-9997-8f807470eef8
以上のことから、性的なネット広告は子どもの脳の発達や心理に深刻なダメージを与える懸念が強いと考えられるため、3-1-1で挙げた各種基準の「子どもの権利条約」第17条が規定する「児童の福祉に有害な情報」などに該当する問題として位置づける視点が不可欠である。
(次回に続く)
次回予告
次回は中編「ネット利用者個人の視点」を公開する。
参考文献
[1] こども家庭庁.”令和7年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」報告書(令和8年3月)”.
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/07b451ac-8c17-4479-ace3-d4d551ee7420/9b1da7cd/20260402_policies_youth-kankyou_internet_research_results-etc_r07_12.pdf#page=24
[2] 日本財団ジャーナル. “【10代の性と妊娠】予期しない妊娠や性被害から守るために。家庭でできる性教育のすすめ(2021.12.09)”.
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2021/65437
[3] e-Gov 法令検索. “青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(平成二十年法律第七十九号)”.
https://laws.e-gov.go.jp/law/420AC1000000079
[4] コトバンク.“ポルノグラフィー(その他表記)pornography”.
https://kotobank.jp/word/%E3%81%BD%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%90%E3%82%89%E3%81%B5%E3%81%84%E3%83%BC-3170772#goog_rewarded


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