【レポート①】性的なネット広告の現状と定義、ゾーニング(すみ分け)とその基準について
~無差別に表示される性的なネット広告のゾーニング(すみ分け)を目指して~
はじめに
私たちは、インターネット(以下「ネット」という。)から日常生活に関連する情報を日々受け取っている。たとえば、仕事や学習、また余暇といった場面、そして公共サービス利用の際など。誰もがその体験に心当たりがあるだろう。ネットはもはや生活に不可欠なインフラとなっている。[1]
ネット空間に存在するウェブサイト(以下「サイト」という。)やアプリの多くは無料で利用できるが、その多くは広告表示による収益の運用で支えられている。
日本では以前より、性的ではない言葉(例:ポケモン 攻略、動物 ランキングなど)で検索した結果表示される年齢制限のないサイト(例:ゲーム攻略サイト、料理レシピサイト、全年齢向けのスマートフォンアプリなど)に性的な広告が表示されることがあるため、こどもを含む多くの人が目にしてしまっているのが現状である。
それらの広告には、プライベートパーツを過度に強調するものや、性行為の描写、時には未成年と思われるキャラクターを含む登場人物への性暴力など犯罪行為を描いたものまである。
これらの現状を問題視する声はこれまでSNSなどで数多くあがってきたが、一般的に表面化されず、改善に至らなかった。
そうした中、2024年9月にオンライン署名サイトchange.orgでオンライン署名活動『インターネット上の性的な広告の規制を求めます!(現:性的なネット広告ゾーニングしませんか?)』が開始された。その後子の有無や年齢層を問わず男女の有志が集結し、「性的なネット広告のゾーニングを目指す会(以下「当会」という。)」として性的なネット広告問題に関する解決策の検討や世論喚起、そして署名提出などの活動を行ってきた。
当会はこの事象について、青少年の権利保護の観点はもとより、成人にとっても単なる不快感を超えた深刻な問題であると考えている。
本レポートは、無差別に表示される性的なネット広告のゾーニング(すみ分け)を目指して、問題点を整理し、解決策の提案を試みるものである。(全4回を予定)
1.ネット広告表示に関するルール
1-1.インターネット広告の定義
1999年に発足したネット広告の業界団体である日本インタラクティブ広告協会(以下「JIAA」という。)は「インターネット広告の健全な発展、社会的信頼の向上のために、ガイドライン策定、調査研究、普及啓発などの活動(p.4)」[2]を行っている。
本レポートにおける「ネット広告」とは、JIAAの「インターネット上のメディア(媒体社)によって用意された有償の広告枠に掲出されるもの」[3]とする定義に準拠する。
なお、JIAAでは、「インターネット広告倫理綱領及び掲載基準ガイドライン」において、協会参加各社が独自に定める広告掲載基準を優先とした上で、JIAAの広告倫理に基づき、掲載すべきではない反社会的な広告として「犯罪を肯定したり、美化したりするもの。性に関する表現が露骨なもの。(p.4)」[4]を挙げている。
1-2.広告倫理について
安心・安全なデジタル広告の発展を目指す一般社団法人デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)の連携団体である、一般社団法人日本広告業協会(JAAA)では広告倫理綱領[5]を定め、以下を公開している。
私たちは、企業と生活者、企業と企業、企業と社会、社会と個人等を結ぶ広告を中心とした様々なコミュニケーション・サービスの担い手として、広告が社会に与える影響の重大さを認識し、広告業本来の社会的責任を果たすことにより、豊かで文化的な社会づくりに貢献することを使命とします。
・広告は、社会の規範や秩序の上に立って表現の可能性を追求しよう。
・広告は、品位を保ち、不快な印象を与える表現をしない。
・広告は、幼少年の健全な成育の妨げにならないように配慮しよう。
この内容が示すように、広告はその社会的影響の重大さから社会的責任を伴うものであり、法的な基準以外に倫理的観点での配慮も必要である、という考え方は既存の共通認識・社会通念であると当会は考える。
1-3.広告規制の種類と現状
広告における表現は「営利表現[6]」として憲法上の「表現の自由」に含まれている。そのため広告の規制は表現の自由の侵害につながるとの考え方もあり、法規制には慎重になる必要があると考えられる。
広告には法規制と自主規制が存在するが、上記の考え方から、多くの場面において自主規制にゆだねられているのが現状である。
自主規制については、現在テレビや新聞、公共交通機関などの各広告業界で独自の広告掲載基準が制定され、実施されている。
【参考】現行の自主規制について
▼テレビ
・日本民間放送連盟放送基準[7]
▼新聞
・新聞広告倫理綱領/新聞広告掲載基準[8]
▼公共交通機関
・公益社団法人日本鉄道広告協会掲出基準[9]
・関東交通広告協議会 広告掲出審査基準[10]
その一方で、インターネット広告業界に関しては他の広告業界ではみられないような、裸や性行為を描いた広告が年齢制限のないサイトに警告もなく表示されている現状がある。
2.当会が提案する性的なネット広告のゾーニングとその基準
2-1.提案するゾーニングのあり方
ゾーニングとは、「区分けする」「区分する」ことを意味する言葉である。その言葉から着想を得て、当会では性的なネット広告を無差別に表示するのではなく、見たくない人や未成年など見ることが適切ではない人が見ずにすむような形(すみ分け)をゾーニングと表している。
当会は「性的ではない(以下「非性的」という。)単語で検索した結果表示されるサイトや未成年も利用できる非性的なアプリに年齢制限も警告もなく、裸や性行為の描写、R18指定作品の広告が表示されること」を問題と考えており、アダルトサイトにおける性的な広告や、性的な単語で検索した場合に表示されるリスティング広告については問題としていない。
つまり、非性的な単語を検索したにもかかわらず性的な広告が無差別に表示されてしまうことが問題であり、性的なネット広告が表示される場所のすみ分け(ゾーニング)が必要であると考える。
2-2.判定の基準
「性的なネット広告」の規制の前に、まず「どこからが性的か、エロかを定義するのは難しい」との指摘がある。では、法律上どのように定義されているのだろうか。
「性的」や「エロ」といった言葉は、刑法の中で「わいせつ」という言葉を使用し規定されている。
わいせつとは「徒らに性慾を興奮又は刺戟せしめ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」
具体的にどのような事がわいせつに当たるかは性に対する社会の許容度の変化や国際的な価値観の変化などによって変動すると考えられる。過去の判例(チャタレー事件[11]など)をみるに、わいせつ性は社会通念に従って判断されるとされているが、今日の社会通念として参考にできるものは多くある。例えば、前述のJIAAによるインターネット広告掲載ガイドラインやテレビや新聞、公共交通機関の広告掲載基準だ。
具体的な基準については不明確であると規制が際限なく進むことへの懸念の声もあるため、当会は具体的なラインとして「①R18指定の創作物の広告、裸や性行為の描写」を提唱している。
一方で、具体的な文言(例えば、肌の露出が何%、性行為の描写とはどんな行為を含むか、など)がなくとも、②~④のような既存の基準に準じることで、テレビや新聞、公共交通機関のようなレベルでのゾーニングは可能と考える。
▼当会が提案する性的なネット広告のゾーニングの基準
①R18指定の創作物の広告、裸や性行為の描写
②JIAA「インターネット広告倫理綱領及び掲載基準ガイドライン」より
『性に関する表現が露骨なもの』(p.4)[4]
③JIAA「不適切な広告クリエイティブ事例集」より
『過度な肌露出があるもの、性行為を連想させるなど性に関する表現が露骨なもの』(p.11)[12]
④テレビや新聞、公共交通機関などのすでにゾーニングがされているメディアの基準(本記事「【参考】現行の自主規制について」を参照)
その他、以下のような基準も参考となると考えるため、記載する。
・セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン/子どもに影響のある広告およびマーケティングに関するガイドライン[13]
・CERO(特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構)/レーティング制度[14]
・CERO/審査倫理規定[15]※クリックするとpdfファイルが自動でダウンロードされます
(次回に続く)
次回予告
次回は性的なネット広告の問題点を取り上げる。
参考文献
[1] 総務省.”国民のためのサイバーセキュリティサイト”. https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/basic/service/01/
[2] 一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会(JIAA). “「インターネット広告ビジネスにおける 質の確保に関する取り組みについて」(2025年(令和7年)1月22日)”. https://www.soumu.go.jp/main_content/000987643.pdf
[3] 一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会(JIAA). “概要”. https://www.jiaa.org/jiaa/gaiyo/
[4] 一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会(JIAA).“インターネット広告倫理綱領及び掲載基準ガイドライン(2000 年 制定)”.https://www.jiaa.org/wp-content/uploads/2019/11/JIAA_rinrikoryo_keisaikijyun.pdf
[5] 一般社団法人 日本広告業協会(JAAA).“倫理綱領(昭和46年5月25日制定)”.https://www.jaaa.ne.jp/about/ethics/
[6] 志田陽子.「表現の自由」の明日へ.大月書店,2018,p153
[7] 一般社団法人 日本民間放送連盟.”日本民間放送連盟 放送基準(2023年5月24日改正 2024年4月1日施行)”.https://j-ba.or.jp/category/broadcasting/jba101032
[8] 一般社団法人 日本新聞協会.”新聞広告倫理綱領/新聞広告掲載基準(1958(昭和33)年10月7日制定/1976(昭和51)年5月19日制定)”.https://www.pressnet.or.jp/outline/advertisement/
[9] 公益社団法人 日本鉄道広告協会.”公益社団法人日本鉄道広告協会掲出基準(平成18年9月25日制定)”.https://j-jafra.jp/wp-content/uploads/2025/07/nihontetsudokokokukyokai_kijunitiran_tetudoukoukokukeisyutukijun.pdf
[10] 関東交通広告協議会.”広告掲出審査基準(制定:2001年 8月28日)”.https://www.train-media.net/rule.html
[11] 最高裁判所.”事件番号:昭和28(あ)1713”.https://www.courts.go.jp/hanrei/51271/detail2/index.html
[12] 一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA).“不適切な広告クリエイティブ事例集(2022年8月作成)”. https://www.jiaa.org/wp-content/uploads/2022/08/JIAA_futekisetujirei_20220824.pdf
[13] 公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン. “子どもに影響のある広告およびマーケティングに関するガイドライン(2023年3月発行)” https://www.savechildren.or.jp/partnership/crbp/pdf/fm2023.pdf
[14] 特定非営利活動法人コンピューターエンターテインメントレーティング機構. “レーティング制度”. https://www.cero.gr.jp/publics/index/17/
[15] 特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構. “CERO倫理規定(2025.5.23 改訂版)”. https://www.cero.gr.jp/relays/download/3/43/93/319/?file=/files/libs/319/202506241008217053.pdf(クリックするとpdfがダウンロードされます)


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