「うつ」「集中力の低下」「パートナーとの関係悪化」
現代では、インターネットやスマートフォンの普及により、誰にとっても、ポルノ動画を見ることが非常に簡単になりました。
それに伴い、「インターネットポルノ依存症」(以後「ポルノ依存症」)とでも言うべき、深刻な問題が急速に広がっています。
ここでは、筆者が接した症例をもとに、ポルノ依存症がどういった問題を引き起こすのか、見ていきましょう。
もちろん、守秘義務がありますので、クライアントの情報はそのまま紹介するわけではなく、個人情報を除いたうえで、筆者の経験を混ぜ合わせて再構成しています。
まずは、サラリーマンのタイチ(仮名)さんの事例です。
事例:タイチさん(29歳)
平日、忙しく仕事に追われる私は、夜になるとストレス発散の一環としてポルノ動画を見るようになりました。最初は「ちょっとした楽しみ」という感覚でした。しかし、次第にその頻度が増え、気づけば毎晩のように視聴するようになり、やがて仕事・プライベートの両面で弊害が出るようになったんです。
「たかが動画視聴」と思われるかもしれませんが、ポルノ動画の過剰摂取は、脳に大きな影響を与えます。
ポルノ動画の視聴は脳の「報酬系」と呼ばれる部分に作用し、それにより「ドーパミン」という快感をもたらす物質が大量に分泌されます。
タイチさんは、仕事のストレスを忘れるために瞬間的な快楽を追い求め続けていたわけですが、ドーパミンの過剰分泌が繰り返されると、脳がその快楽に慣れてしまい、日常生活の喜びや満足感を感じにくくなります。
それ以外にも、セロトニン、GABA、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質に影響を与え、これが「気分の落ち込み」「興味や喜びの喪失」「強烈な倦怠感」といった「うつ」の症状を引き起こします。
実際、タイチさんは、次第に仕事へのやりがいを感じなくなり、趣味や友人との時間も楽しめなくなっていきました。
さらに彼の場合、「ポルノを見過ぎている」という自覚があったことも災いしました。ポルノを見続けることへの罪悪感や自己嫌悪にも苦しむようになったのです。ポルノ視聴が道徳的・社会的価値観に反する行為だと感じている人ほど、こうした自己否定の感情が強くなる傾向があります。
タイチさんは「自分はダメな人間だ」と感じることが増え、精神的なストレスがより蓄積されていきました。
会社やパートナーとの関係にもヒビが
さらに、ポルノ依存症は仕事での集中力や生産性にも影響を与えます。
タイチさんは、仕事中でもポルノのことが頭をよぎるようになってしまい、重要な会議中に集中力が途切れることが増えました。
脳が「短時間で得られる快感」に慣れてしまうため、長時間の集中が難しくなるのです。これにより、タイチさんの仕事上のパフォーマンスは次第に低下し、上司や同僚からの信頼が揺らぐことになってしまいました。
また、タイチさんは、恋人との仲にも問題を抱えるようになりました。
ポルノ動画に慣れることで、現実の恋愛や性行為に対する期待が過度に高くなり、恋人との関係に不満を感じることが増えてしまったのです。
ポルノで描かれる性行為は、現実とはかけ離れたファンタジーであることが多く、ポルノ依存症に陥った人は、無意識のうちに恋人にもそのような理想を求めてしまいがちです。
しかし、現実ではそのような理想通りにいくわけはなく、タイチさんは恋人に対してイライラや失望を感じることが増えました。
さらにいえば、ポルノ依存症は実際の性行為自体への関心を低下させることもあります。タイチさんも、次第に恋人との性的な関係に満足感を得られなくなり、2人は互いに疎外感、不安感を覚えるようになり、信頼関係は危機に陥りました。
このように、ポルノ依存症は気軽に一時的な快楽を得るための行動であっても、脳や心に大きなダメージを与えます。タイチさんのように「うつ」や「集中力の低下」、そして「パートナーとの関係悪化」といった問題が次々と現れるのです。
やがてタイチさんは、自分が何に対しても喜びを得られなくなっていることに気づき、孤独感に悩まされ、私のもとをたずねることになりました。その後、タイチさんは自身を見つめ直し、健康的で充実した生活を取り戻すことができました。
自慰行為そのものよりも、異常な興奮状態をもたらす
ポルノ依存症が深刻化しやすいケースとして「動画の一気見」が挙げられます。今回は、ケンタさん(仮名)の事例を見ながら、そのリスクを解説します。
事例:ケンタさん(28歳)
私は都内で働くサラリーマンで、夜になるとポルノ動画を見てリラックスするのが習慣になっていました。最初は少しだけ見ていたのですが、次第に視聴時間が増えて、毎晩何時間も見続けるようになってしまったのです。
誤解のないように言っておくと、男性にとって適度に自慰を行うことは自然な行為で、健康にも役立つとされています。自慰をすると、脳内で「ドーパミン」という快感をもたらす物質が分泌されます。このドーパミンのおかげで、一時的に気分が良くなり、ストレス解消やリラックスにつながるのです。
しかし、「ポルノ動画を一気見」となると話は別です。ポルノ動画は、非常に強い視覚的な刺激を与えます。これを長時間受け続けると、脳に過剰な負荷を与えてしまいます。
ポルノ動画を見ることで分泌されるドーパミンは、喜びや快感を感じたときに出る物質ですから、普段の生活において、友達と遊んだり、美味しい食事を楽しんだりしたときにも分泌されます。
しかし、ポルノ動画を大量に見ていくことで、脳がその強い刺激に慣れてしまい、日常生活でのありふれた出来事に喜びを感じられなくなっていきます。
ケンタさんも、最初はリフレッシュ程度で済んでいたのですが、次第に仕事や友達と過ごす時間がつまらなく感じるようになりました。こうしてポルノ動画の視覚刺激が繰り返されると、脳はその刺激に順応してしまい、より強い刺激を求めるようになります。
ケンタさんも、最初は短時間の動画で満足していたのに、だんだんと長時間見ないと満足できなくなっていったのです。自分では衝動を止められなくなったケンタさんもまた、私のもとをたずねてくれました。
世界7位のアクセスを誇るポルノサイト
彼らが依存症に陥った背景には、多種多様なインターネット上のポルノサイトの存在があります。
世界のデータを視覚化している「Visual Capitalist」というサイトが公開した「世界で最も訪問者数が多いウェブサイトトップ100(Ranked:The Most visited Websites in the World)」には驚きの数字が掲載されています。
2024年11月時点のデータでは、検索最大手・Googleが月間約1360億回で1位、動画最大手のYouTubeが約728億回で2位となり、SNSのFacebook、Instagramなど馴染み深いサイトが続きます。
そしてなんと、7位に約53億回で、インターネットポルノサイト「Pornhub(ポルノハブ)」がランクインしているのです。ちなみに15位にもインターネットポルノサイトが入っています。
この7位にランクインしたPornhubですが、2021年にはコロナ禍の影響により、地域によっては訪問回数が38%~61%も増加したと報告されています。
特に、コロナによる外出規制が厳しい地域ほど視聴者数が増えたことが確認されているそうです。世界的に見ても、ポルノ動画の視聴者数が危険な水準に達していることは理解していただけたと思います。
それでは、その中でどのくらいの人が依存症に陥っているのでしょうか。
これについても多くの調査が行われていますが、それらの結果を総合すると、最大で3割近くの男性がポルノ依存症の可能性があるとされています。
作家ゲーリー・ウィルソン氏は著書の『インターネットポルノ中毒やめられない脳と中毒の科学』(DU BOOKS)で、「男性ポルノ利用者を調べると研究者たちは、ポルノ中毒率が28%あたりだとしている」と述べています。
インターネットポルノ依存症は、IT化が極まった社会が直視しなければならない「現代病」の最たるものといえるのではないでしょうか。