ネコのリンパ腫リスク2.4倍、イヌの膀胱がんリスク6倍──ペットをさいなむ飼い主のタバコ
ペット飼育可の集合住宅が増え、一人暮らしの飼育率も上がり、小型犬種が人気になるなどし、室内飼いのイヌや完全室内飼いのネコも増加している。室内で人間と一緒に暮らすイヌやネコについて、飼い主が喫煙者だった場合に受動喫煙にさらされる危険性がある。
ペットは受動喫煙のバイオマーカー
喫煙者の飼い主からのタバコ煙によるニコチンがイヌの毛に付着するかどうかを調べた研究では、ニコチンやコチニン(ニコチンの代謝物)などが検出された(※1)。イヌやネコはよく自分の体毛を舐めて毛繕いをするが、受動喫煙を受けるとタバコ煙由来の有害物質も同時に舐めてしまうことになる。
また、イヌの精液からニコチンの代謝物であるコチニンが検出され、これも受動喫煙の影響ということが明らかになっている(※2)。このようにペットから検出されたニコチンやコチニンは、受動喫煙が起きているかどうかのバイオマーカーになるというわけだ。
受動喫煙がペットに及ぼす影響
では、受動喫煙はペットの健康にどのような影響を及ぼすのだろうか。
例えば、受動喫煙にさらされているイヌは、アトピー性皮膚炎になりがちだという。フランスで行われた161匹のイヌの飼い主へのアンケート調査によると、特に高レベルの受動喫煙にさらされたイヌは、そうでないイヌに比べアトピー性皮膚炎になるリスクが4倍以上高かった(※3)。
また、飼い主かその家族に喫煙者がいて、受動喫煙が疑われるイヌ15頭、飼い主とその家庭に喫煙者がいないイヌ15頭を比較したブラジルの研究(2021年)によれば、受動喫煙が疑われるイヌ15頭全ての肺や気管支に損傷がみられた(※4)。これらのイヌは年齢も犬種(短頭種かどうか)もバラバラであり、タバコ煙への曝露期間と関係なく喫煙者と同居するイヌは呼吸器が傷つけられるということがわかった。
ネコではリンパ腫のリスクが上がる
ネコの受動喫煙では、リンパ腫のリスクに関する研究がある。悪性リンパ腫にかかったネコ80匹と腎臓病(ネコで一般的な病気)のネコ114匹(コントロール、受動喫煙とネコの腎臓病との因果関係はないとされている)を比べた米国の研究によれば、受動喫煙を受けたネコが悪性リンパ腫にかかるリスクは、そうでないネコの2.4倍、5年以上の受動喫煙では3.2倍になることがわかった(※5)。
受動喫煙を受ける室内飼いのネコは、酸化ストレスを生じ、炎症性のタンパク質(サイトカイン)が多くなるという(※6)。これにより、抗酸化機能が低下し、老化が加速したり、神経疾患や動脈硬化などのリスクが上がる。
受動喫煙はペットの行動も変化させるようだ。受動喫煙を受けたイヌの行動変化を調べたイランの研究では、攻撃性、恐怖心、不安行動が増加したという。また、イヌが受動喫煙を受けると、活動量や訓練能力が低下する傾向もあるようだ(※7)。
もちろん、イヌ、ネコ以外の齧歯類、ウサギ、鳥類といったペットも受動喫煙の害を受ける。齧歯類は呼吸器系が弱いため、受動喫煙によって呼吸器疾患が生じる危険性があり、ウサギは消化器系の病気になる恐れがあるようだ。
残留タバコ煙による三次喫煙も
室内飼いのペットにとって脅威となるのは、受動喫煙だけではない。三次喫煙(サードハンドスモーク)と呼ばれる残留タバコ煙もペットの健康に悪影響を及ぼす。
三次喫煙とは、室内の喫煙後に残った発がん性を含む汚染物質へ曝露することだ。清掃した後も汚染物質は完全に除去されず、その後の喫煙によって蓄積し、化学分解や酸化などの化学反応により、さらに強い毒性を持つこともある(※8)。
スコティッシュテリアを調べた米国の観察研究(2024年)では、受動喫煙と三次喫煙で膀胱がん(尿路上皮がん)の発症リスクが6倍になることがわかっている(※9)。ヒトでも尿路上皮がんの最大リスク要因は喫煙だ。研究対象となったイヌは、喫煙者の飼い主が吐き出すタバコ煙、家具やカーペットなどに沈着・蓄積したタバコ煙由来の有害物質にさらされていたという。
少しでも長く一緒にいるために
特にネコは毛繕いをよくするため、三次喫煙の害を受けやすい。喫煙者の飼い主によるタバコ煙は、ネコがよくかかる口の中のがんの原因の一つになり、ネコは受動喫煙と三次喫煙の影響を受けていることになる(※10)。
さらに、受動喫煙を受けたペットの体毛などに有害物質が付着し、それを飼い主や家族が吸い込んだり触れたりする三次喫煙の懸念もあるようだ(※11)。ペットが三次喫煙を介在し、ヒトへ悪影響を及ぼす危険性があることになる。
ペットは飼い主の近くで生きている。飼い主がタバコを吸うと、当然その影響は彼らにも及ぶ。
ペットにはできるだけ長生きしてほしいというのは、どの飼い主にも共通した思いだろう。もしあなたが喫煙者でペットを飼っているのなら、なるべく早く禁煙することが彼らのためなのだ。
※1:Debora Groppetti, et al., "Cotinine as a Sentinel of Canine Exposure to Tobacco Smoke" Animals, Vol.13(4), 693, 16, February, 2023
※2:Debora Groppetti, et al., "First Evidence of Cotinine in Canine Semen Reveals Tobacco Smoke Exposure" Veterinary Sciences, Vol.11(12), 598, 26, November, 2024
※3:D Ka, et al., "Association between passive smoking and atopic dermatitis in dogs" Food and Chemical Toxicology, Vol.66, 329-333, April, 2014
※4:Alexandre Redson Soares da Silva, et al., "Radiographic aspects of dogs exposed to tobacco smoke" Research, Society and Development, Vol.10, No.10, 9, August, 2021
※5:Elizabeth R. Bertone, et al., "Environmental Tobacco Smoke and Risk of Malignant Lymphoma in Pet Cats" American Journal of Epidemiology, Vol.156, Issue3, 268-273, 1, August, 2002
※6:Berjan Demitras, et al., "Tobacco smoke induces oxidative stress and alters pro-inflammatory cytokines and some trace elements in healthy indoor cats" Veterinary Research Forum, Vol.14(6), 301-308, June, 2023
※7:Mastane Alaie, et al., "Behavioral changes in domestic dogs associated with exposure to secondhand smoke: A cross-sectional study" Journal of Veterinary Behavior, Vol.79, 53-59, May-June, 2025
※8:Laura Ghanem, et al., "Evaluating cancer risks: The impact of thirdhand smoke exposure on carcinogenesis" Regulatory Toxicology and Pharmacology, Vol.164, 105991, January, 2026
※9:D W. Knapp, et al., "Association between cigarette smoke exposure and urinary bladder cancer in Scottish teriers in a cohort study" The Veterinary Journal, Vol.303, 106044, February, 2024
※10:Matteo Cerquetella, et al., "Secondhand smoke and e-cigarette aerosol exposure in dogs and cats: A scoping review with implications for smoking cessation among pet owners" Tobacco Prevention and Cessation, Vol.12, April, 2026
※11:Kevin Puzycki, et al., "Tobacco smoke exposure and household pets: A systematic literature review examining the health risk to household pets and new indications of exposed pets affecting human health" international public health journal, Vol.10, Issue1, 2018