「昔は良かった…」は本当か?数千年続いた懐古主義の実態を振り返る
皆さんこんにちは。
亜鉛おやじでございます。
突然ですが、皆さんは若いころに
こんな言葉を聞いたことはないでしょうか。
最近の若者は腑抜けてる
昔の方が人情があった
今どきの学生は…
いわゆる「昔は良かった」という言葉です。
近所のおじさんや偉い先生なんかが
在りし日を懐かしむ時なんかにも使います。
しかし、少し歴史を振り返ると
興味深い事実に気付きます。
それは、
この言葉がかなり昔から
存在しているという点です。
今回は、日本の歴史を遡りながら
「昔は良かった」という意見がどこまで
続いているのかを見てみたいと思います。
令和・平成世代
「昭和は良かった」
近年よく聞くのは、
「昭和は人情があった」
「昭和の方が日本は元気だった」
「あの頃の温かさを現代人は忘れている」
という声です。
この意見にセットで、日本人が
新自由主義で汚染されたという
意見もよく言われます。
映画『ALWAYS 三丁目の夕日』などでは、
昭和30年代の日本が「古き良き時代」として
描かれ、多くの共感を呼びました。
つまり近年では、
令和 → 昭和は良かった
という懐古が生まれています。
昭和後期(高度経済成長~平成直前)
昭和40〜60年代頃になると、
当時の大人たちは若者に対して
テレビばかり見ている
遊びが増えた
根性がない
といった批判をしていました。
特に有名なのが
「戦争を知らない子供たち」
という言葉です。
戦前・戦中を生きた世代から見ると、
戦争を知らない若者は
苦労を知らない
忍耐がない
と見えたのです。
昭和前期世代(戦前・戦中に育った世代)
ところがさらにさかのぼると、
その戦前世代自身も同じように
批判されていました。
大正末期〜昭和初期には、
若者の風紀が乱れている
西洋文化に染まりすぎている
軟弱な世代だ
という言説が多く見られます。
特に、
モダンボーイ
モダンガール
と呼ばれる若者文化は、
当時の保守層からかなり批判されていました。
つまり、
「戦争を経験した世代」も若い頃は批判されていた
ということになります。
一方で、
明治生まれで世界に知られる海軍軍人、
連合艦隊司令長官の山本五十六は次のように語っています。
「実年者は『今どきの若い者は』などと言うことなかれ」
日本海軍にこの人ありと知られた彼も、
指導層が若年層を軽んじる空気を作らないため、
このように訓示したのです。
明治時代
明治時代になると、日本社会は急速に
西洋化を遂げました。
その結果、新聞や評論には次のような
批判が登場します。
最近の学生は軽薄
西洋かぶれ
風紀が乱れている
急激な社会変化が起きると、人々はしばしば
「昔の方が良かった」
と感じるようになります。
明治という大転換期にこのような
言説が広がったのは、むしろ必然と
言えるでしょう。
江戸時代
江戸時代にも、似たような声が見られます。
当時の儒学者や武士の随筆には
最近の人は贅沢だ
昔の武士はもっと質素だった
世の中の道徳が乱れている
といった嘆きが登場します。
江戸は大都市であり、
商業や娯楽文化が発達しました。
芝居や遊郭などの文化が広がるにつれて、
それを批判する形で
「昔の方が立派だった」
という議論が生まれたのです。
中世(鎌倉〜室町)
鎌倉時代末期の随筆『徒然草』にも、
興味深い記述があります。
第116段では兼好法師が次のように書いています。
昔の人は自然に物の名をつけたが、今の人は難しい名前を
つけて知識を誇ろうとする。
要するに、
「最近の人は見栄っ張りだ」
という批判です。
600年以上前の日本でも、
既に似たような嘆きが存在していたのです。
随筆『徒然草』の該当箇所の原文
https://www2.yamanashi-ken.ac.jp/~itoyo/tsuredure/turedure100_149/turedure116.htm
平安時代
さらに遡ると、平安時代の随筆『枕草子』にも
似た感覚が見られます。
清少納言は言葉遣いについて、
身分の低い人の言葉は文字余りが多い
と書いています。
これは当時の言葉遣いの乱れを批判した
表現とされています。
現代で言えば、
若者言葉
ネットスラング
などを批判する感覚に近いかもしれません。
随筆『枕草子』の該当箇所の内容
https://ja.wikisource.org/wiki/枕草子_(Wikisource)/第三段
【番外】古代中国
実はこの考え方は日本だけではありません。
中国の古典にも似た言葉があります。
『論語』では、孔子が
古の人は質朴であった
と語り、古代の徳を称賛しています。
つまり
約2500年前から「昔は良かった」という感覚があった
ということになります。
ここまでまとめた通り、
このような懐古的な思考や意見は、
数千年前から繰り返されていたのです。
この現象の名称
実は、この現象は心理学でも説明されています。
その一つが
バラ色の回顧
と呼ばれるものです。
これは
過去の出来事を実際よりも美しく思い出してしまう心理
を意味します。
人間の記憶は
嫌な出来事を忘れやすく
良い思い出を残しやすい
という特徴があります。
その結果、時間が経つと
「昔は良かった」
という印象が生まれやすくなるのです。
また社会学では、こうした過去への郷愁を
ノスタルジー(nostalgia)
と呼びます。
それでも、昔が素晴らしかったことも確か
ここまで読むと、
「昔は良かった」という言葉は単なる思い込みなのか、
そう感じるかもしれません。
しかし、それも少し違うのではないかと思います。
確かに昔には昔の素晴らしい文化や生き方がありました。
人と人とのつながりや礼儀、地域の助け合いなど、
現代の私たちが学ぶべきものも多くあります。
一方で、人々の生き方は常に社会環境とともに変化してきました。
経済状況
治安
技術の進歩
戦争や社会不安
家族の形
こうした条件が変わるたびに、人々の価値観や
生活様式も少しずつ姿を変えてきたのです。
世代の違いと社会の変化
ここまで歴史を振り返ると、
少し不思議な気持ちになります。
実は私自身もまだ若い世代に属しています。
しかし、これから年齢を重ねていけば、いつか
「最近の若い世代は…」
と、次の世代の暮らしや価値観に何かを
言いたくなる時が来るのかもしれません。
もしそうなった時、この記事で見てきた歴史を
思い出したいと思います。
千年前の人も、江戸の人も、明治の人も、
皆同じように「昔は良かった」
と感じていたということを。
もし私たちが若い世代の生き方に
戸惑うことがあったなら、
その時はこんな視点も持てるかもしれません。
「私たちが受け継いだ社会が、次の世代の中で
新しい形に変化しているのだ」
若い世代を単純に批判するのではなく、
彼らが育った社会環境
その環境を生み出した社会情勢
そしてそれを作ってきた私たち自身の時代
を見つめ直してみる。
そう考えると、世代の違いは対立ではなく
歴史の連続の中にある変化として
理解できるのではないでしょうか。
本当に良かった「昔」はいつなのか
平安時代の人も、江戸時代の人も、明治の人も、
そして現代の私たちも
「昔は良かった」
と言っています。
もしそうだとしたら、
本当に良かった「昔」とは
一体いつなのでしょうか。
もしかするとこの言葉は、
人間社会が続く限り、これからも
語られ続けるのかもしれません。
そして100年後の人々も、
きっとこう言っているでしょう。
「やっぱり令和の時代は良かった」と。


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