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なくならない「タバコ吸い殻ポイ捨て」を喫煙者の「心理」から考える

科学ジャーナリスト
写真:イメージマート

 大阪・道頓堀で消防隊員2人が死亡した火災では火のついたタバコをポイ捨てたとして男性会社員が書類送検され、2026年7月30日の報道では静岡市葵区の住宅街で吸い殻のポイ捨てを続けたとして20代の男女2人が軽犯罪法違反の疑いで書類送検される見通しと報じられている。なぜ、タバコの吸い殻のポイ捨てはなくならないのだろうか。

マナーでは解決できない

 路上、駅前、公園、海岸などでは、必ずといってよいほど大量のタバコの吸い殻が見つかる。タバコの吸い殻は依然として側溝や植え込み、排水口へ投げ込まれ続けている。

 なぜ喫煙者はほかのゴミならゴミ箱へ入れるのに、吸い殻は路上へ捨ててしまうのだろうか。タバコ会社が言うように「マナーが悪いから」と片づけていては、この問題はいつまでも解決できない。

 過去の研究からは、喫煙者自身もはっきり自覚していない複雑な心理が関係していることがうかがえる。例えば、タバコ産業が実施した消費者調査や社内資料を分析した研究では、多くの喫煙者が使用済みの吸い殻を「臭い」「汚い」「触りたくない」ものと認識していたという。

 喫煙者の多くは、路上の吸い殻だけでなく、灰皿にたまった自分の吸い殻にも嫌悪感を抱き、車の灰皿に残すことも、携帯灰皿で持ち歩くことも嫌がっていた。喫煙中は口にくわえ、手で持っていたタバコが、吸い終わった途端「一刻も早く自分から遠ざけたい汚物」へ変わるのだという。

 タバコの吸い殻には、臭い、灰、ヤニ、残り火がつきものだ。ペットボトルのように、ポケットやカバンへ入れて持ち歩くわけにもいかない。普通のゴミ箱へ入れれば火災になるかもしれないという理由も、ポイ捨てを正当化する言い訳に使われる。

吸い殻が喫煙者へ突きつけるものとは

 米国で行われた観察研究によれば、吸い殻が捨てられた場所から灰皿までの距離は平均十メートル程度しかなかったという。わずかな距離でも、臭くて汚れた吸い殻を持ち続けることには心理的、身体的な負担があるのかもしれない。行動科学の言葉を借りれば、喫煙者は適正に処分するための「コスト」が投げ捨てるコストより高く感じるのだろう。

 さらに興味深いのは、喫煙への罪悪感との関係だ。これまでの研究によれば、自分の喫煙に後ろめたさを感じている人ほど「できるだけ早くタバコを捨てたい」と考える傾向がみられたという。

 例えば、吸い殻がたまった灰皿を見れば、自分が何本吸ったかが一目瞭然だ。吸い殻は自らの喫煙量を記録する物理的な証拠であり、禁煙できない自分の姿を写す鏡である。そのため、灰皿に残すより、視界から消してしまいたいという心理が働くのだろう。

 また、冒頭で紹介した静岡の事例で喫煙者は「誰かが掃除してくれると思っていた」と供述しているという。これは自分が生じさせた吸い殻の処理の負担を、社会へ転嫁したいという心理が反映しているのかもしれない。

吸い殻と環境汚染の関係

 もちろん「喫煙者は無意識に罪悪感を隠している」と断定することはできない。これまでの研究が確認したのは、吸い殻への嫌悪感、携帯することへの抵抗感、喫煙本数を見たくないという意識などだ。そうした心理や意識から、吸い殻を自分の喫煙行為から切り離し、目の届かない場所へ遠ざけようとする行動を推論することはできるが、深層心理そのものが実証されたわけではない。

 それでも喫煙者は、側溝や排水口など、吸い殻が見えなくなる場所へ吸い殻を捨てがちだという事実は示唆的である。これは単に手から離すだけでなく、隠す行為でもあるからだ。

 地面へ投げ捨てて踏み消す動作を、一種の反抗的な儀式の延長として捉える喫煙者がいることもわかっているが、こうした動作が一連の喫煙行動として無意識に反復されるならば「ゴミを捨てた」という感覚も薄くなるのかもしれない。実際、吸い殻をゴミと認識していない喫煙者が一定数いることや、環境への害の見積もりの小ささがポイ捨て行動と関連していることもわかっている。

 だが、タバコのフィルターは主にセルロースアセテートというプラスチックでできており、自然環境中で簡単に消えるものではない。これは紙巻きタバコも加熱式タバコも同じだ。

 吸い殻に残るニコチンや有害な化学物質は、雨水で周囲へ流れ出し、側溝や排水口へ捨てれば河川や海へ運ばれる。側溝へ捨てて見えなくすれば、吸い殻という汚染源がなくなるわけではない。

この問題の解決方法とは

 では、どうすればよいのだろうか。

 第一に「吸い殻はゴミである」という認識を明確にすることだ。パッケージに、フィルターがプラスチックを含むことや正しい捨て方を表示することも一考である。

 ポイ捨て防止メッセージを検討した研究では、表示を見た喫煙者は適切な処分について考える機会が増え、ポイ捨てを控えようとする意図も強くなったという。喫煙者のポイ捨て行動が自動化しているとすれば、吸うたびに目に入る場所に注意喚起を表示することが効果的かもしれない。

 第二に、適切に捨てるための負担を小さくすることだ。ただし、街中に喫煙所や灰皿を増やすのは逆効果だ。実際、喫煙所の周辺で、むしろポイ捨てが増えたという研究もあり、タバコを吸える場所を維持することは喫煙者を減らすことにつながらない。

 また、喫煙場所を広げ、受動喫煙を増やしてしまえば元も子もない。受動喫煙がおよばない喫煙場所に限定し、残り火を安全に消火できる設備を設けることが基本となる。

 第三に、吸い殻が落ちている環境を放置しないことだ。周囲にゴミが多い場所では「ここでは捨ててもよい」という社会規範が読み取られ、一本の吸い殻が次の一本を呼ぶ。

 第四に、処理費用を自治体や住民だけに負わせないことだ。製品の利益は企業が受け取り、廃棄物の費用は社会へ押しつける現在の構造を変えるため、タバコ会社に清掃・回収費用を負担させる拡大生産者責任が必要である。

 また、フィルターを生分解性のものに変えても「自然に分解するから捨ててもよい」という誤解を生み、かえってポイ捨てを正当化し、助長するおそれがある。

 第五に、何より重要なのは、喫煙者と喫煙率を減らすことだ。喫煙者が減れば吸い殻のポイ捨ても少なくなるのは自明のことで、この問題の根本的な解決となる。

ポイ捨て対策はタバコ対策

 このように、吸い殻のポイ捨てがなくならないのは、喫煙者が環境問題を知らないからだけではない。汚物として早く手放したいという心理、喫煙本数や罪悪感の証拠を消したい気持ち、ゴミと見なさない誤解、投げ捨てて踏み消すという習慣、周囲の吸い殻が作る社会規範などが重なっているからだ。

 だからこそ「マナーを守ろう」という呼びかけでは問題の解決にはならない。なぜなら、対策には階層があることを見誤ってはならないからだ。

 パッケージの表示や環境の設計によって喫煙者の意識と行動の変容を促す啓発は、確かにポイ捨てを減らすだろう。だが、それは吸い殻が生まれ続けることを前提とした対症療法にすぎない。

 ポイ捨ての心理が喫煙という行為そのものに埋め込まれている以上、発生源を断つ方法はただ一つ、禁煙の支援と喫煙率の引き下げである。つまり、吸い殻のポイ捨て対策とは、突き詰めればタバコ対策そのものなのだ。

 捨てられた吸い殻は、喫煙者の指から離れた瞬間に消えるのではない。誰かが拾い、税金で処理され、あるいは雨に流されて川や海へ運ばれる。

 自分の視界から消すことと、社会からなくすことは全く別の次元の話だ。そして吸い殻を社会からなくす最も確実な方法は、そもそも吸い殻を生み出さないことなのである。

参考文献

Smith, et al., Tobacco Control, 2011, Whose butt is it? tobacco industry research about smokers and cigarette butt waste

Schultz, et al., Environment and Behavior, 2011, Littering in Context: Personal and Environmental Predictors of Littering Behavior

Rath, et al., IJERPH, 2012, Cigarette Litter: Smokers’ Attitudes and Behaviors

Reddy, et al., Conservation Letters, 2016, Advancing Conservation by Understanding and Influencing Human Behavior

Castaldi, et al., Economia Politica, 2021, “Smoke on the beach”: on the use of economic vs behavioral policies to reduce environmental pollution by cigarette littering

Morgan, et al., Addictive Behaviors, 2022, The impact of cigarette pack anti-littering messages

Vanapalli, et al., Journal of Hazardous Materials, 2023, Cigarettes butt littering: The story of the world’s most littered item from the perspective of pollution, remedial actions, and policy measures

Kachef, et al., Environmental Challenges, 2023, Not all litter is littered: An exploration of unintentional means of public waste generation

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ありがとうございます。
科学ジャーナリスト

法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科博士課程満期退学、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。「科学と技術をわかりやすく」をテーマに幅広いジャンルの記事を書いている。日本医学ジャーナリスト協会会員。サイエンス系単著『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュース『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)など。

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