事実の焦点:スペイン領セウタへの移民殺到 根拠のない主張が拡散
バルセロナ、スペイン、8月3日 (AP) ー 北アフリカに位置するスペインの小さな飛地セウタの国境で発生した危機を巡り、スペインの移民政策やモロッコとの国境で急増した不法移民の要因について、根拠のない主張が広がっている。 地元スペイン当局の発表によると、7月30日と31日の両日で約6万人の不法移民がモロッコからセウタに入国した。これは同市の通常人口の70%に相当する。スペイン領へ泳いで渡ろうとしての溺死や、将棋倒しなどにより、少なくとも57人の不法移民が死亡した。 事実に迫る。 ▪️主張:スペインによる不法移民の法的地位認可が殺到を招いた 事実: スペイン政府は、少なくとも5カ月間同国に居住しており、2026年1月1日以前に到着したことを証明できる滞在許可のない移民に対し、救済措置を実施している。先月末に受付が終了するまでに100万人以上が申請した。 トランプ米大統領とその政権を含む批判派は、この救済措置が「スペインは移民に寛容だ」というメッセージを送り、セウタ国境への殺到を引き起こしたと主張している。 同大統領は7月31日、スペインの「弱い法律と悪政」が原因だと非難した。米国務省もX(旧ツイッター)の投稿で追認し、「この受け入れがたい事態は、欧州への大規模な不法移民を有効化し、促進しようとするスペイン政府の意図的な取り組みが直接もたらした結果だ」と述べた。 スペイン政府はこの前提を強く否定し、国境危機の後ろには犯罪組織が存在すると主張している。スペイン政府は、不法な国境越えには厳しい態度を維持する一方で、好調な自国経済を維持するために不可欠とされる労働者の秩序ある受け入れを推奨しようと試みてきた。 隣国モロッコでは、近年開発が進む沿岸都市部を離れると、特に貧困率と若者の失業率が高い。昨年にはZ世代が主導するデモが発生し、社会正義と公共サービスの向上を求めた。こうした不平等により、多くのモロッコの若者がより良い経済的機会を求めて欧州を目指すようになっている。 それでも、セウタでなぜこれほど突然に渡航者が急増したのか、その全容は未だ明らかになっていない。 ▪️主張:誤解されたスペイン最高裁の判決が原因である 事実: スペインのペドロ・サンチェス首相は、同国の最高裁判所による最近の判決が密航業者によって意図的に誤解させられ、数千人が国境の柵を泳いで迂回して渡るよう煽られたという主張を展開している。 その判決とは、陸路で渡ったり国境の柵を越えたりした人々は物理的な障壁を越えていないため即座に強制送還できるのに対し、海路で到着した移民は正当な手続きなしに簡易送還することはできないとする内容だった。 移民問題や人権活動家らは、SNSの投稿や誤情報が出国を煽る一因となったと指摘している。 人権活動家のアシュラフ・マイムーニ氏は、「渡航は一定の方法で推奨されていました。最初は『国境が開いている』という噂を耳にし、その後、全員がスペインの裁判所の決定に言及し始めました。それが渡航の引き金となったのです」と語った。 ▪️主張:モロッコが意図的に国境を開放した 事実: 2021年、モロッコの国境警備員が警備を緩めたことで、8000人以上の不法移民がセウタ国境を越え、両国間の外交危機に発展した。 この動きは、係争中の西サハラ地域の独立派指導者がスペインの病院で治療を受けることを許可したスペインの決定に対し、モロッコ側が報復したものと広く解釈された。サンチェス首相は西サハラに対する自国の長年の立場を変更し、翌年モロッコのムハンマド6世国王と会談したことで危機を沈静化させた。 5年前の危機をはるかに凌駕する今回の問題において、スペイン当局の最初の対応は、モロッコ側が殺到を止めるために協力して取り組んでいると説明することだった。しかし、そうした努力の実効性は乏しく、モロッコ全土から国境に向けて移民が絶え間なく押し寄せ、7月30日と31日には数千人が国境を突破した。 AP通信のフリーランスカメラマンは7月30日、数千人の不法移民がセウタへと向かう中、モロッコの国家憲兵隊が腕を組んで傍観しているのを目撃した。最終的にモロッコ警備隊は、7月31日に国境に達した大規模な不法移民の集団を分散させるため、催涙ガス、警棒、放水砲を使用して規制を強化した。 在スペイン・モロッコ大使は、モロッコからスペイン領へ渡った不法移民が帰国することへの期待を表明し、今回の事態はモロッコ政府の意図に反して展開したと述べた。 しかし、モロッコは、セウタとその姉妹都市であるメルリャが何世紀にもわたってスペインの統治下にあるにもかかわらず、これらを欧州の領土として公式に承認したことは一度もない。 ▪️主張:不法移民の急増はイランおよびガザに対するサンチェス首相の立場への報復である 事実: 今回の集団越境はネット上で陰謀論を生み出しており、その一例として、トランプ大統領とイスラエルが、スペインの移民政策およびイランへの共同攻撃やガザでのイスラエル軍の軍事作戦に対する過酷な批判への報復として、親しい間柄にあるモロッコにこれを容認させたという見方がある。 トランプ大統領は何カ月もスペインに対して激怒しており、最近では同国との貿易停止を脅かしていた。またイスラエルの指導者も、スペインが自国に対して外交戦を仕掛けていると非難している。しかし、セウタ危機に米国やイスラエルが関与しているという主張を裏付ける証拠はない。 ▪️主張:渡航した人々は最終的に欧州本土に行き着く 事実: セウタでの越境を受け、イタリア、フランス、その他のEU加盟国の政治指導者らは、自国への流入を防ぐことを目的とした措置を講じ始めている。イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、イタリアはスペインと国境を接しておらず、スペインよりもはるかに多くの移民が地中海を渡って到着しているにもかかわらず、スペインとのシェンゲン協定の停止を警告した。フランスのローラン・ヌニェス内務相も、スペインとの国境検問を強化すると述べた。 今回の流入がセウタ市にとって許容量を超えていることは明らかだが、渡航の影響は主にこのスペイン領内に留まり、スペイン本土への影響は限定的とみられる。 スペイン当局によると、7月31日夕方までに不法移民の過半数がすでに自主的にモロッコへ戻ったという。セウタに残る不法移民も、最終的には送還されるか、長期にわたる法的宙ぶらりんの状態に置かれ、政府が運営する施設で過ごすことになる可能性が高い。 EUのマグヌス・ブルナー移民担当委員はXで、「ただの一人もEU本土には渡っていない」と投稿し、シェンゲン協定国境法にはすでにセウタやメルリャから渡航する不法移民に対する特別な国境検問が含まれていると強調した。 (日本語翻訳・編集 アフロ)