極端な暑さが人間に及ぼす影響。専門家に聞く「体内で起きていること」
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汗をかけばなんとかなる…とは、そうもいかないんですよね。
とにかく暑い夏は日本だけではありません。米Gizmodoのあるアメリカでも、記録的な熱波に見舞われています。そこで、米GizmodoのEllyn Lapointe記者は、3人の生理学の専門家に取材しました。
テーマはシンプルで、しかし物騒です。「極端な暑さは、人体にどのような影響を与えるのか」。
読み進めてわかるのは、暑さのダメージが「バテる」なんて生やさしい話ではないこと。心臓も、腸も、腎臓も、脳も、体内はぜんぶ同時に踏ん張っている。けっこうな総力戦が起きているんです。
背景にあるのは、この夏ヨーロッパを焼いた熱波です。フランスは6月23日に観測史上もっとも暑い日を記録し、当局は6月24日から27日のあいだに1,000人を超える熱関連死を報告しました。ある暫定的な統計推計では、ヨーロッパ全体の死者は2万人を超える可能性があるとも…。
まったく他人事ではない日本のためにも、Ellyn Lapointe記者の解説を日本のみなさんにも、以下お届けします。
人間が体温を調節する方法は2つしかない
人間は恒温動物です。体内の温度を一定に保たないと、そもそも細胞がうまく働かない。
その「一定」の幅が、思っている以上に狭いんです。Mayo Clinicによれば、成人でおよそ36.1〜37.2℃。上下の差はたった1℃ほど。お風呂だったら誤差、くらいの違いしか許されていません。いわゆる平熱というやつですが、個人差もあります。
ただ、フロリダ大学の運動生理学助教授で、筋環境生理学研究所を率いるOrlando Laitano氏によると、「この範囲を大きく外れると細胞の働きが阻害されてしまう」と説明します。
酵素の活性、酸素の受け渡しなど、細胞を活かすための生命維持の基本動作が、じわじわ狂っていくのです。
では人間は体温をどうやって下げているのか。装置は2つです。血管拡張と発汗。
暑い時に顔が赤くなるのは血管拡張の働き。皮膚の近くの血管を広げて血を表面に送り、熱を外へ逃がしています。そして、深部体温が「発汗閾値」を超えると、今度は汗が出る。ただ、汗が出るから体温が下がるわけではないのです。
ここは今回の肝なので、少し丁寧にいきます。夏、扇風機の前に立つと汗が引いてスッと涼しくなる。あれは汗が蒸発するときに熱を奪っていく、気化熱の作用です。つまり汗は「出る」ことに意味があるのではなく、「乾く」ことで初めて仕事をする。
ところが湿度が高い、空気中が水蒸気でいっぱいだと、汗はなかなか蒸発してくれません。すると、発汗という冷却装置が空回りする。日本の夏がとりわけしんどいのは、まさにここです。体は冷えないまま、水分だけが出ていく。
しかも汗の材料は、血漿(けっしょう)。つまり血液です。前述のLaitano助教授いわく、「汗をかけばかくほど、使える血液の量が減っていく」と説明します。
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主要な臓器はすべて熱の影響を受ける
血管を広げ、汗で水分を失う。結果として血圧は下がり、内臓に回る血が減ります。
それでも酸素と栄養は届けなければいけないので、心臓が速く、強く打ちはじめる。テキサス大学サウスウェスタン医療センター内科教授で、テキサス・ヘルス・プレズビテリアン病院の熱・血管生理学研究所の所長であるCraig Crandall氏は、この心臓への負荷が心筋梗塞や脳卒中のリスクを上げると指摘します。
血液は、優先順位の低いところから回収されます。真っ先に減らされるのが腸と腎臓。
腸に血が行かなくなるとバリア機能が壊れ、内毒素(エンドトキシン)や細菌が血流に漏れ出します。Crandall氏によれば、そこからさまざまな問題の連鎖が始まると言います。一方の腎臓は、なんとか水分を守ろうとフル稼働。ろ過の能力に負担がかかり、急性のダメージも、長期のダメージもリスクが上がります。
そして脳。体のなかで、もっとも温度に弱い臓器です。
「脳の温度が上がりすぎると、神経のプロセスは止まります」とCrandall氏。暑さでやられた人や熱が高すぎる人が、うまく歩けない、ろれつが回らない、話が噛み合わない。あれは単純に脳が正常に機能していない状態なんです。
「様子がおかしい」で線引き
体温が上がるほど、臓器へのリスクは積み上がっていきます。
心血管系が冷却と血流維持にエネルギーを使いすぎた状態が、いわゆる熱疲労。Crandall氏によれば、だるさ、吐き気、混乱、頭痛として出てきます。
体の冷却システムそのものが限界を超えると熱中症、さらに深刻な熱射病に。命に関わる緊急事態です。通常は、体温が40℃を超えたときに起きますが、温度には個人差があります。Crandall氏も「全員がこの数字どおりではない」と釘を刺します。
極端な暑さにさらされた人が、急に様子や言動がおかしくなったら、その時点で熱中症と考えていい。
放置すれば脳、心臓、腎臓、肝臓、筋肉が急速に傷つきます。最悪の場合は、そのまま亡くなる恐れもあるのです。
しかも、生き延びれば終わりでもないから怖い。Laitano氏の研究室が2020年に発表した研究では、熱射病を生き延びたマウスは、その後に心血管疾患を発症しやすくなっていました。別の研究では、回復してからずっとあとまで免疫が抑制されることも示されています。
(どちらもマウスでの結果なので、人間でそのまま起きると決まったわけではありません。それでも、可能性があるというだけで、耳を傾ける意味がある結果です)
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予防と治療法は、地味ですが着実に
アメリカのCDC(米国疾病予防管理センター)が「熱中症のリスクが高い」と指摘するのは、高齢者、幼い子ども、妊娠中の人、持病のある人、屋外で働く人、アスリート、そしてエアコンのない環境にいる人。利尿薬や一部の向精神薬など、暑さへの感受性を上げる薬もあります。
ただ、バッファロー大学の運動栄養科学准教授で、HEAT Lab(Hydration, Exercise and Thermoregulation Lab)を率いるRiana Pryor氏は、「猛暑時には全員のリスクが高い」と言います。
とくに危ないのが連休。外にいる時間が長くなり、いつもより活動量が増え、お酒の量も増えがちだからです(アメリカでは独立記念日の週末、日本ならお盆の期間でしょうか…)。
で、Pryor氏が挙げる第一手が、拍子抜けするほど地味ですが、聞けば納得。予定をずらす。
スケジュールを丸ごと変える必要はなく、短い休憩をこまめに冷房の効いた場所で取るだけでも、リスクはかなり下がる。根性でも装備でもなく、まずは心がけから。
大事な水分補給についても先手を打つのが大事。「のどが渇いたと感じているなら、あなたはもう脱水しています」とPryor氏。
水分摂取が一度遅れると、あとから取り返すのはさらに難しくなります。高齢者はそもそも渇きを感じるのが遅れがちなので、「なおさら先手で動くべき」と言います。
誰かの様子がおかしいときは、とにかく早く冷やすこと。日陰へ、できれば冷房の効いた建物へ。水分補給は、涼しい場所に入ってから。Pryor氏は「熱射病かもしれない、と迷った時点で医療機関にかかってください」と強調します。
そのうえで、冷やす手段として、いちばん効くのは冷たい水だと言います。安全に配慮しながら冷たい水風呂に入れる、シャワーを浴びる、冷たい濡れタオルで全身を覆う。それが命を分けることがあります。
暑さは、身近で危ない災害になった
極端な暑さは、いまやアメリカで最も致命的な自然災害になりました。ハリケーンでも竜巻でもなく、暑さです。日本の夏も、記録を更新するたびに「そういう夏だった」なんて言い直されてきましたが、「酷暑日」が増えたそばから各地で記録されるのは、やはり危険がすぐそばまで来ている、と思うべきでしょう。
予定をずらす、渇く前に飲むなど、どれも派手さのない防衛策ですが、暑さのなかで人間に何が起きているのか、体のなかで臓器がどうなっているのか、そういったことをイメージできるようになれば、行動の重要性もわかりやすくなるはず。
これらの基本戦略に加えて、ギズモードでも暑さ対策ガジェットやアイテムを様々取り上げていますから、自衛手段をしっかりと。自分はもちろん、一人でも多くの命を守る動きをしていきましょうね。暑くても、生き残るぞ!
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