「長崎原爆の日」の9日、人々は81年前の惨禍を思い起こし、核兵器廃絶の理想を心に刻んだ。被爆者の平均年齢は87歳に迫る。世界は核抑止にますます依存し、国内では国是の非核三原則がにわかに揺らぐ。静かに悼む人、忘却にあらがおうとする人、対話と継承に希望をつなぐ人-。「最後の被爆地」に祈りと焦りが交錯した。
残ったのは戸惑いと、さらなる疑念だった。
平和祈念式典を終えた9日午後、長崎の被爆者4団体は高市早苗首相と初めて対峙(たいじ)した。
数メートル先に座る首相は目をきっと見開いて言った。
「わが国は非核三原則を堅持しております」
3日前の広島でも口にした、単なる現状説明。変えるとも、変えないとも明言しないあいまいな態度に、4団体のトップたちは不信感を一層募らせた。
■警戒
高市首相への「警戒」は昨秋から続いていた。自民党でも有数の保守派として知られる。昨年10月の首相就任前、日本が米国の核抑止力に頼る現状を挙げ、三原則のうち「持ち込ませず」を見直すべきとの持論を展開していたからだ。
予感は悪い方に当たる。就任翌月、国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定に伴う三原則の「見直し検討」報道が駆け巡った。4団体を中心に抗議会見や街頭集会を相次いで開いた。しかし、首相官邸などに送った抗議文に返事はない。高市首相は国会で現状としては「堅持」と発言しながら、将来の見直しは否定しなかった。
さらには小泉進次郎防衛相が先月、日本の核兵器政策について「タブーなく議論しなくては」と発言。曲がりなりにも日本が積み重ねてきた非核の誓いは、揺らぎを見せ始めていた。
■逆流
核兵器なき世界の実現を阻む「逆流」の中で迎えた8月9日。長崎市の平和祈念式典で初の首相あいさつに臨んだ高市首相は、三原則について相変わらずの現状説明に終始した。
その様子を会場で見つめた長崎原爆遺族会の本田魂会長(82)は「だんだんと崩れていく」感覚を抱いたという。衆院で自民党が圧倒的多数を誇り、野党は太刀打ちできない。「頭ごなしにどんなこともできる。非核三原則もなし崩しにされるのでは」
式典終了から約1時間半後、4団体と高市首相は長崎市内のホテルで向かい合った。時折笑顔を浮かべる首相に対し、一様に厳しい表情で「要望書」を手渡した被爆者たち。長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)の田中重光会長(85)が代表し、逆流にあらがうように長崎の思いをぶつけた。
「人間の安全保障こそが平和のとりでを築く。国是の非核三原則見直しや核共有ではなく、法制化することを求めます。私たちには時間がありません」
しかし-。
■落胆
高市政権誕生から10カ月目に実現した直接要望の場は、判で押したような回答が続いた。
「政策上の方針として堅持している」
「改めて法制化する必要はない」
積み重なった懸念を払拭(ふっしょく)するものでは、到底なかった。面会終了後、報道陣に囲まれた県平和運動センター被爆連の川副忠子議長(82)は戸惑いの表情を見せた。「相手の気持ちを推し量ってではなくて、一般論で返してくる。本音で来ない。対話できないのが、歯がゆい」
県被爆者手帳友の会の朝長万左男会長(83)は「三原則をどうするか言わないと、建設的な話し合いもできない。困った首相ですよ」。怒りを通り越し、落胆した様子で語った。
漠然とした不安を二つの被爆地に残したまま、81回目の原爆の日が終わった。今秋にも安保関連3文書改定に関する有識者会議が提言を取りまとめ、年末には閣議決定も見込まれる。田中会長は自らを鼓舞するように、繰り返した。
「負けられんと思いますよ。負けられん」
残ったのは戸惑いと、さらなる疑念だった。
平和祈念式典を終えた9日午後、長崎の被爆者4団体は高市早苗首相と初めて対峙(たいじ)した。
数メートル先に座る首相は目をきっと見開いて言った。
「わが国は非核三原則を堅持しております」
3日前の広島でも口にした、単なる現状説明。変えるとも、変えないとも明言しないあいまいな態度に、4団体のトップたちは不信感を一層募らせた。
■警戒
高市首相への「警戒」は昨秋から続いていた。自民党でも有数の保守派として知られる。昨年10月の首相就任前、日本が米国の核抑止力に頼る現状を挙げ、三原則のうち「持ち込ませず」を見直すべきとの持論を展開していたからだ。
予感は悪い方に当たる。就任翌月、国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定に伴う三原則の「見直し検討」報道が駆け巡った。4団体を中心に抗議会見や街頭集会を相次いで開いた。しかし、首相官邸などに送った抗議文に返事はない。高市首相は国会で現状としては「堅持」と発言しながら、将来の見直しは否定しなかった。
さらには小泉進次郎防衛相が先月、日本の核兵器政策について「タブーなく議論しなくては」と発言。曲がりなりにも日本が積み重ねてきた非核の誓いは、揺らぎを見せ始めていた。
■逆流
核兵器なき世界の実現を阻む「逆流」の中で迎えた8月9日。長崎市の平和祈念式典で初の首相あいさつに臨んだ高市首相は、三原則について相変わらずの現状説明に終始した。
その様子を会場で見つめた長崎原爆遺族会の本田魂会長(82)は「だんだんと崩れていく」感覚を抱いたという。衆院で自民党が圧倒的多数を誇り、野党は太刀打ちできない。「頭ごなしにどんなこともできる。非核三原則もなし崩しにされるのでは」
式典終了から約1時間半後、4団体と高市首相は長崎市内のホテルで向かい合った。時折笑顔を浮かべる首相に対し、一様に厳しい表情で「要望書」を手渡した被爆者たち。長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)の田中重光会長(85)が代表し、逆流にあらがうように長崎の思いをぶつけた。
「人間の安全保障こそが平和のとりでを築く。国是の非核三原則見直しや核共有ではなく、法制化することを求めます。私たちには時間がありません」
しかし-。
■落胆
高市政権誕生から10カ月目に実現した直接要望の場は、判で押したような回答が続いた。
「政策上の方針として堅持している」
「改めて法制化する必要はない」
積み重なった懸念を払拭(ふっしょく)するものでは、到底なかった。面会終了後、報道陣に囲まれた県平和運動センター被爆連の川副忠子議長(82)は戸惑いの表情を見せた。「相手の気持ちを推し量ってではなくて、一般論で返してくる。本音で来ない。対話できないのが、歯がゆい」
県被爆者手帳友の会の朝長万左男会長(83)は「三原則をどうするか言わないと、建設的な話し合いもできない。困った首相ですよ」。怒りを通り越し、落胆した様子で語った。
漠然とした不安を二つの被爆地に残したまま、81回目の原爆の日が終わった。今秋にも安保関連3文書改定に関する有識者会議が提言を取りまとめ、年末には閣議決定も見込まれる。田中会長は自らを鼓舞するように、繰り返した。
「負けられんと思いますよ。負けられん」